216 / 216
第3章: 三人の精霊と俺の時空ラビリンス
幸せの先に
しおりを挟むコンコン
乾いた音が部屋に響く。
「はい」
「ルナ、入るわよ」
ルナの返事を待ってリサの声と共に三人の精霊たちが部屋の中に入る。
えっ?
ええーーー!!
「る、る、る、ルナよね?」
リサは驚きのあまり目がくるくる回っている。
「ええ、そうよ。何で?」
三人の精霊たちの反応に首を傾げるルナ。
「何でって、その・・・大きさが、」
三人の精霊たちが見たのは人間と同じ大きさになった純白のドレスに身を包んだ美しいルナの姿だったーー。
「ああ、だって・・・契約したじゃないの」
へっ?
「契約したら大きくなるの?」
「えっ?アーサーさんからまだ貰ってないの? ならまだあなた達と一緒に冒険者でいたのかもね」
「どーゆーことなの?」
エルザはチンプンカンプンで頭から煙が出ている。
「契約の指輪よ。この指輪をはめてもらった精霊は魔力を失う代わりに人間とほぼ同じになれるの」
銀色の綺麗な指輪を見せるルナ。
「アクセルはルナを精霊じゃなくお嫁さんに選んだんだね」
顔を真っ赤に染めて頷くルナ。
「アクセルは私を一人の女性として見てくれた事に凄く嬉しかった。
この指輪をはめてくれた時に本当に愛されてるんだと思った」
三人の精霊たちは目を細めて幸せに浸るルナを見つめていた。
自分たちもいつか大切な人に同じようにその指輪をはめてもらえる日が来る時を信じて。
羨ましい?
ちょっぴりそれもあるけど・・・
正直独り占めはできない。
だって私たちは三人で一人前だから。
華やかなに契約式は行われた。
ホーエンハイムの国を挙げてのイベントに、
アクセルとルナは祝福された。
ルナのあまりの美しさに皆が惚れ惚れするほどだったーー。
アーサーと精霊たちもアクセルとルナに招待されて、契約式を最後まで参加した。
三人の精霊たちは友人の晴れ姿を心から祝福していた。
式典もひと段落し落ち着いた頃、
アクセルとルナから呼び出しがあったーー。
☆
「すっかり長居をさせてしまってすまなかったな。ルナがどうしても精霊たちに祝ってほしかったみたいでな」
「いいえ、ウチの精霊たちも喜んでたよ」
「ところで、聞きそびれていたんだが、
アーサーたちの今回の目的はなんだい?」
「ーーーー!!」
精霊たちと顔を見合わせるアーサー。
明らかな動揺を見せる精霊たち。
アクセルとルナは不思議そうな表情でアーサーと精霊たちを見つめている。
忘れていた・・・・・・
「あっ、、えっと・・・」
全身から汗が吹き出る。
ホーエンハイムを、友達を助けることで本来の目的を忘れていた。
いかに自分が無知であったか、何も考えないでその場凌ぎで過ごして来たかが今ようやくわかった。
「何だい?言いにくい事なのか。友達じゃないか、遠慮なく何でも話してくれよ」
アクセルがポンとアーサーの肩を叩く。
無垢な笑顔、ニシシシとイタズラに笑う。
今のアーサーにはその笑顔が辛い。
言える訳がない。
たった今、幸せを掴んだばかりの二人に。
さっきまであんなに自分たちも手を叩き心から二人の幸せを祝福していたんだ。
運命とはこんなにも残酷なのか・・・
同じ立場でこの場でその台詞を言える奴がいたらそいつは本当の意味で悪魔だ。
俺には絶対に言えない。
ルナと契約をするために来たと・・・。
アーサーは手で口を塞ぐ。
驚愕の事実に直面する。
徐々に血の気が引いていくのが自分でも分かる。
もしも、ルナと契約を本当にしたいのならば俺たちはホーエンハイムを見殺しにしなければならない。
または、アクセルにルナと契約するなと告げるしかない。
俺に言えるのか?
面と向かって、自分の事を友人だと言ってくれる人間に言えるのか?
たった今、幸せを掴んだ夫婦を引き離すことができるのか?
アーサーの脳裏に先ほどのアクセルとルナの結婚式のシーンが頭を過る。
答えはノーだ。
結局は、二人は結ばれない運命という選択肢しか残っていない。
リセットされるということは、全て無かったことになる。
「ア、アーサー?」
アーサーの涙腺は崩壊した。
ダムが決壊したように涙を流した。
ルナと契約出来なかったことでいずれこの世界はリセットされ、アクセルとルナの結婚式は無かったことになる。
アクセルとルナはもう永遠に結ばれる事は無い。
アーサーの思考は三人の精霊にも共感覚で伝わる。
落胆の表情を浮かべる三人の精霊たち。
彼女たちもまた理解したのだ。
この幸せな時間はもう二度と彼女には訪れないということをーー。
いきなり袋小路にハマってしまったーー。
0
お気に入りに追加
633
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(9件)
あなたにおすすめの小説
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
【完結】7年待った婚約者に「年増とは結婚できない」と婚約破棄されましたが、結果的に若いツバメと縁が結ばれたので平気です
岡崎 剛柔
恋愛
「伯爵令嬢マリアンヌ・ランドルフ。今日この場にて、この僕――グルドン・シルフィードは君との婚約を破棄する。理由は君が25歳の年増になったからだ」
私は7年間も諸外国の旅行に行っていたグルドンにそう言われて婚約破棄された。
しかも貴族たちを大勢集めたパーティーの中で。
しかも私を年増呼ばわり。
はあ?
あなたが勝手に旅行に出て帰って来なかったから、私はこの年までずっと結婚できずにいたんですけど!
などと私の怒りが爆発しようだったとき、グルドンは新たな人間と婚約すると言い出した。
その新たな婚約者は何とタキシードを着た、6、7歳ぐらいの貴族子息で……。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
メルルの相方
獣人族なのお→獣人族なのぉ・・・間延びした言い方なら、こちらかな?
ロングヘヤー→ロングヘアー・・・一般的には、ヘアーで。ヘヤーは確か、ドライヤーだったと思います。間違っていたら、すいません
学校依頼→学校以来
シルフィーもリサ動揺→同様
黒兎さん。
いつもご指摘ありがとうございます。
修正致しました。
「○○なのお」など間延びした表現は個性を出すためあえてそのようにしているつもりです。
特にリサとエルザの区別の為にしているつもりでしたが分かりにくいですかね?
またご指摘ご指導お願いします。
日々勉強です。
望月 まーゆ。
悪魔サタン
善き深き→欲深き
ご指摘お願いします。
修正致しました。
毎回ありがとうございます。
毎回あることが問題ですね。
申し訳ございません。
またお気づきになられましたらよろしくお願いします。
望月 まーゆ。
防御障壁なの
その掌から真っ黒は炎のようなもの→その掌から真っ黒な炎のようなもの
それはこの方は召喚され→それはこの方に召喚され
謝って私を→誤って私を
黒兎さん。
ご指摘ありがとうございます。
自分でも誤字脱字多くてお恥ずかしい限りです。
またお気づきになられましたらご指摘お願いします。
望月 まーゆ。