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三人の精霊と帝国事変の書

PM15:00・直訴

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「国王、どういう事ですか?
 なぜ、トーマスが騎士団長を解任しなければならないのですか」

ヴィルが両手を広げて必死に食い下がる。
その言葉を聞いても、指で耳を掻き無表情のハロルド三世。

隣で不気味に立っていた大臣オドロフが微笑を浮かべ一歩前に出る。
見下すようにヴィルを見つめる。

「君と違って無能な騎士だからだよ。
 近年何の成果も上げられていない。
世界最高の騎士団と恐れられていた帝国騎士団が近年は敵対国から舐められる始末。
その責任を取るのは当然だろう」

その言葉にヴィルは細い目を更に細く鋭くし大臣オドロフを睨み付ける。

「貴様に意見を求めていない!
 俺は国王と話しをしているんだ」

大臣オドロフはヴィルを挑発するかのように両肩を上げて見せた。

「私の意見は国王の意見でもあるんですよ。
 ーーですよね。国王」

「ああ。オドロフの言う通りだ」

「ほーーら」

大臣オドロフは私の勝ちだと言わんばかりの上から目線でヴィルを見下している。
ヴィルの懐からそーっと覗き見しているミリアが小さな声で、

「あの国王に生気が感じられないわ。
 ほぼ植物人間と変わらないよ。
あの大臣が無理矢理魔力で動かしてる」

「ーーやはりな。そんなことだろうと思っていたよ」

「何を喋っている?もう用は無いのだろう退がれ!!」

その言葉にヴィルは、

「ああ。貴様らに何を言ってもまだだと言うことがわかった」

ヴィルは背を向け立ち去る。
この時ヴィルの中で一つの疑問が生まれる。
自分の知らない所で何が動き始めているのではないかと。

確かに、大臣オドロフは怪しいと以前から思っていた。
今回ミリアを連れてきたのはハロルド国王と大臣オドロフの関係を解くためだ。

精霊の目のフィルターを通して人間を見ると、人間の目では分からない生気や魔力などがはっきりと分かるのだ。

「俺たちはずっと大臣オドロフに騙されていたのだな。あの魔女狩りもアイツの独断だった訳か」

ヴィルが王の間から出ると、薄暗い廊下に一つの影が伸びて、それが人間のシルエットに変わる。
 まるで、一つの黒い筒がそのまま人間に変わったかのように。

「やあ、ご機嫌いかがです」

「ローゼンクロイツか・・・」

ヴィルは彼を見た瞬間に懐の奥にミリアを隠した。なぜそうしたのかは分からないが無意識にそうやってしまった。

「その顔は、大臣オドロフと国王の関係に気付いたようですね」

その言葉にヴィルの眉間にシワが寄る。

「なぜ貴様がそれを知っている?
 以前もそうだが貴様の出現するタイミングが良過ぎるのはどう言うことだ。
貴様は一体何者だ」

ローゼンクロイツは何を今更と、
言わんばかりに大きくため息を吐いた。

「あなた初めから知ってたじゃないですか。
 私が薔薇十字団を持っていた事も、黒魔術を研究していた事も全部」

「・・・・・・」

唾を飲み込むヴィル。

「普通に考えて一般的な魔導士がそれをやったらアウトですよね。それが仮にも元円卓の魔導士がやっちゃってるんですから、普通なら処罰されますよ」

ローゼンクロイツの表情と声のトーンが急に変わる。

「処罰されないんですよね。
なぜか分かります?分からないですよね。
分かる訳無いと思いますよ。
だって誰も知らないんですから。
知らない方が良いんですよ。
だってそれが正しいと思っているんですから」

懐にいるミリアがぎゅっとヴィルの服を掴み、ガタガタと震える。

「真実を知った時に人は絶望を覚えるんですよ」

ローゼンクロイツは髪をかきあげる。
真っ直ぐ視線を外さず徐々にヴィルに近寄って来る。
まるで顔だけがそのまま近付いてくるかのように。

目の前で止まり目を見開き、

「お前本当は分かってたんだろ。
 自分は利用されてるって」

ヴィルの背中に冷たい汗が流れる。

「ーーなら、気付いてる筈だ。
 私が何者か。なぜ質問した?
そうか・・・私、本人の口から真実を聞き出したかったのか。それも良いだろう」

ーーと、そこで一度話をやめ首を真横に傾け
ヴィルの顔を覗き込む。

「真実を知った後の覚悟は出来てるんですよね?」

呼吸をするのを忘れるヴィル。
懐のミリアの震えが止まらない。

「・・・・・・」

ヴィルは声の出し方さえ忘れてしまっていた。
そのローゼンクロイツの異常性に飲み込まれてしまっていた。

「私は新聖教のローゼンクロイツだ。
 なぜ私が好き勝手に出来るか?
それは魔法省の役員も含めて全て新聖教の信者だからだよ。大臣オドロフも然り。
この世の国の国王から全てが新聖教の支配下になっているんだよ」

「ーーーーっ!!」

「ローゼンクロイツは幽閉された?
 あれは世間を欺く嘘だよ。
幽閉される訳ないだろ。
クローリーの特別監視指定人物?
そんな制度ある訳ないだろ。
全ては偽り何だよ。
この世の全てが偽りから出来てるんだよ」

「全てが嘘・・・」

「そお、君が見てきた物や聞いた事全ては嘘、偽りから出来てるんだよ。
安心したまえ、それも今日全部終わる」

「終わる?」

「いや、今日世界は新しく生まれ変わるのだ」

ローゼンクロイツの笑い声が城内に響き渡っていたーー。

☆ ☆ ☆

「ヴィル、どうだった?」

ダニエルが心配そうにヴィルに駆け寄る。
ヴィルはダニエルに視線を合わせず、無言で申し訳なさそうに首を横に振った。

「・・・そうか。お前ならもしかしてと思ったんだがな」

「すまない。力になれなくて」

「別にお前が謝る必要はない。
お前は国王に直訴してくれたんだ。
それだけでも、団長は嬉しいはずだ。
俺らにはその権限すら無いんだからな」

いくら聖騎士と言えども、国王に意見をするという行為は無礼に値する。
今回のこの行為は勇騎士の称号を持つヴィルだから出来た事である。
それプラス、大臣の飼い犬だから意見できたのである。

ヴィルは自分が大臣の駒だとわかっていた。
しかし、自分の野心の為に我慢して使われていたのだ。

どうしても手に入れたかった地位と名誉。
その為だったら手を黒く染めても構わないと思っていた。
念願叶ってやっと手に入れた勇騎士の称号だった。
ヴィルの目標は達成は目前だった。



「騎士団長・・・」

「ヴィルか。私の為にわざわざ国王に直訴してくれたらしいな。すまない」

「お役に立てなくて申し訳ないです。
 このタイミングで騎士団長を剥奪の意図がわからないです」

「ヴィル。もう私は騎士団長ではないのだ。今後は君が騎士団長として皆をまとめてくれ」

「いや、しかしーー」

トーマスは立ち上がるとヴィルの肩をポンと叩き、

「私はアヴァロン騎士団を引退するよ」

「ーーなっ!」

振り替えるヴィル。
トーマスはゆっくりと重い足を引きずりながら去って行った。
トーマスの背中は小さく、騎士団長の時に見せていたあの姿はそこには無かった。


☆ ☆ ☆



箒に跨り飛んでいた。
どこまでも青だけが広がる眩しい空。
あの日を思い出す。

「世界が動き出したか・・・」

彼女には分かっていた。
なぜならこの日のためにずっと動いていたからだ。

自分の正体を隠し、与えられた仕事を全うしていたからだ。
そして、来るべきXデーがすぐそこまで来ていることも分かっていた。

一匹の鳩が箒に近づいて、手紙をキルケーに届ける。
キルケーは誰の鳩か分かっていた。
箒から両手を離し、バランスを取りながら手紙を読む。

「作戦コード グングニル・・・か」

読み終わると掌の上で手紙は灰へと変わった。

複雑な気持ちが交差していた。
本当にこのままで良いのか。 
世界の崩壊が目の前に迫っているのが分かっているのに見て見ぬふりをするのか。

誰かに相談したところで、あのバケモノを止められるのか。

キルケーは肩を落としながら首を横に振り、

「あの三人を相手に止められる奴なんてこの世にはいない」

ぼそりと独り言をこぼし、青空の中を箒で飛び去って行ったーー。





ーー PM 15:00 ーー
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