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三人の精霊と帝国事変の書

PM14:00・解任

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バルティカ共和国から帰国したヴィルに告げられたのは帝国騎士団の編成改革だった。

数週間に及ぶ編成部との交渉も虚しく、
永きに渡り帝国騎士団長を務めた、
トーマス・ガルフォードの解任が決定したとの連絡を編成部より受けた。

余りにも突然の決定。
ヴィルにも何も連絡がなく困惑していた。


帝国騎士団長トーマス・ガルフォード。
世界一の最強騎士団を築き上げた功労者。
勲章は数え切れないほど表彰されていて、騎士団員皆の憧れである。

彼に憧れ帝国騎士になった者がほとんどである。彼の元で騎士として命を懸けて戦って死ねるのなら本望であると全ての帝国騎士が望んでいる。

それだけ彼を崇拝し尊敬しているのだ。
これだけ愛される帝国騎士はトーマス・ガルフォードただ一人である。

なぜ、彼がこれだけ人々に絶大的に人望があるのか?

それは彼が一般市民から帝国騎士団長まで成り上がったからである。
彼は魔法が使えない。
特異能力もない。
父も母も一般市民である。
それでもひたすら剣の道を極めて帝国騎士になったのだ。

幼い頃から憧れていた帝国騎士に彼は努力でなりそして、地道に功績を挙げて帝国騎士団長になったのだ。

正に帝国騎士の鏡であり象徴なのだ。



「おい、ダニエル。帰国してからロッシの姿が見えないのだが、アイツまたどこかでサボってるのか?」

ロッシとは、聖騎士ロッシ・ロレッサである。
あの伝説のサーガの血筋で、サーガが使っていた宝剣サーガレットを受け継いでいる。
帝国聖騎士では一番の若手である。

「ーーロッシはソルジャーに降格し地方に派遣されたよ」

ダニエルは悔しそうに歯を噛み締めて、怒りを必死に抑えていた。
そのダニエルの姿と言葉に、

「な、、何でこんなことに」

落胆するヴィル。
自分が知らないところで何が起きているのか全く理解出来なかった。

騎士団長トーマスの事実上の解任。
聖騎士ロッシの降格と地方派遣。

これにより隊長格はヴィルとダニエルの二人となってしまったのだった。

帝国騎士団としてもはや機能しなくなったと言っても同然である。

「全く理解できねえ!
 国王や大臣は何を考えてんだ。
騎士団長だけでもあり得なかったのに、
若いロッシまで・・・俺らの何が気に食わなかったんだ?」

ダニエルは壁に思いっきり拳を殴りつけた。
皮膚は破れ血が滲む。

「ダニエル・・・」

「あの日ケイトが帝国を一つにしてくれた。
騎士団と国民、全員を引っ張ってくれた。
王や大臣を恐れず立ち向かい、勝ち取った民主主義の権利だったのに。
またあの時に逆戻りしている。
アイツらは何も変わっていない!!」

クソッと、何度も何度も壁を殴りつけるダニエル。
それを見ても止めることも、かける言葉も出ないヴィル。

「こんな時、ケイトがいたら・・・」

その言葉にカチンとくるヴィル。
ダニエルの胸ぐらを掴み。

「居ない人間に何を今更期待している。
 お前はいつも他人任せだから、いつまで経っても成長しないんだよ!」

「ーーっんだと!
 テメェーはいつも偉そうに。
大臣に媚び売って、汚ねえ事に手を染めて勇騎士になっただけだろーがよ!」

睨み合う二人。
いつもならニヤニヤしながらロッシが、
「まあまあお二人さん」と止めてくれる。

ーーが、

「辞めだ。今は虚しいだけだ」

ヴィルがダニエルの手を胸ぐらから離す。

「ああ。そうだな・・・」

ダニエルはそれだけ言い残しヴィルに背を向け城内から中庭へと姿を消した。

ダニエルが居なくなると、ヴィルの懐からフワリと精霊が姿を現した。

「ヴィルどおしたの?いつもに増して目が細いわよ」

茶色のボブカットの頭をした可愛い精霊が元気づけようと笑顔を見せている。

「ミリア・・・」

その笑顔に少し表情が和らぐヴィル。

「俺の知らないところで、何が動き出している。それだけは確かだ。
帝国騎士団の機能を止めて何かを始めようとしている輩がいるのは確かだ。
そいつの好き勝手には絶対させん!」

その強い眼差しを見てミリアは、

「いつものヴィルに戻った!!」

と、ヴィルの周りを嬉しそうに飛び回った。


ヴィルは決意する。
飼い犬が飼い主に噛み付いてやると!


ーー PM14:00 ーー
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