上 下
40 / 48
Message03: 鏡面戦線(終幕)

優梨奈誘拐事件⑥早坂姉妹

しおりを挟む

倒れた姉の制止を振り切って暴走する乙姫の元に向かおうとする柚葉、その目の前には敵対する第十二支部のメンバーたちの姿があったーー

「ゆず、下がりなさい!」
乙葉が傷付いた腕を押さえながら立ち上がり柚葉を呼び寄せる。

「・・・姫ちゃんが泣いてる」
「ゆず!!お姉ちゃんの言う事が聞けないの」

その言葉にビクッと反応を見せる柚葉。

第十二支部のメンバーたちは早坂姉妹のやり取りを何のことだか分からず一部始終見ていた。

「ーー早坂、乙姫はどうしたんだ?」
カケルが柚葉に話しかける。
柚葉はビクッと反応をして俯く。

「ーーゆず! 離れなさい!」
乙葉が大声を上げる。
その声に振り返る柚葉は乙葉に何とも言えない表情を見せた。

「・・・ゆず?」
今まで見たことのない柚葉の表情に戸惑う乙葉。

「あのね、姫ちゃんがねーー」



「ゆず!!!!!」


乙葉の精一杯の叫び声ーー



お姉ちゃん・・・


「ゆず、姫ちゃん友達だもん。もう見ない振り、逃げ出すのやめようよ」
再び乙葉の方に振り返る柚葉は涙を流していた。

いつも笑顔の柚葉、涙を流しても笑っていた。






早坂柚葉は知的障害があるーー

鏡面世界とチェンジした時にだけその障害が緩和された。

姉妹は喜んだ。

大好きな妹、大好きな姉とちゃんと向き合って喋ったり出来る。

もうあんな辛い思いをしなくて済むんだ。


★  ★  ★


早坂乙葉、柚葉は双子の姉妹だ。

生まれた時からいつも一緒だった。
物心ついた時に姉は気付いたーー

柚葉はいつもニコニコ笑っている事に。

悪戯して怒られてもニコニコ笑っている妹。
悲しい絵本やアニメを観てみんなが泣いているのに笑っている妹。

幼稚園の年長になっても上手く喋れない妹。
みんなより全てやる事が遅い、同じことが出来ない妹。

ある日、幼いながらに母親に尋ねた。

「ゆずは何で上手く喋れないの?いつもニコニコ笑ってばかり、みんなと同じことも出来ないんだよ」

母親は乙葉の頭を撫でながら、
「ゆずはね、とても優しい子でまわりに気を使っちゃう子なの。あなたはお姉ちゃんだからゆずの面倒を見てあげてね」

「うん!私お姉ちゃんだからゆずの面倒を見てあげる」




小学生になると事態は深刻化するーー

上手く喋れない柚葉は格好のいじめの対象となった。
国語の授業で音読で先生に指名されると上手く喋れないことでクラス全員が大笑いする。

それでもニコニコ笑っている柚葉。

算数で簡単な問題を前に出て黒板に回答する時も首を傾げて立ち尽くす妹に大笑いするクラス。

たまらず乙葉が仲裁に入る。

この時から乙葉の中で何が弾けたーー

先生に柚葉を隣の席にしてもらい、何かあるごとに乙葉が柚葉をかばった。

乙葉は成績優秀、運動神経抜群でクラスでも目立つ存在だった。

その姉に瓜二つの知的障害のある妹、比べられるのは仕方ないことだった。

いじめの対象は乙葉にも降りかかった。

シスコンやら気持ち悪い姉妹など陰口、教科書や机に落書きなどされた。

しかしーー乙葉はめげない。

妹を守るためと堂々としていた。
あまりにも反応のない早坂姉妹に自然とクラスのいじめはなくなったが柚葉の知的障害がなくなるわけもなく中学入学を迎えた。

中学入学の前に親は選択をすることになった。

乙葉とは別の柚葉を特殊クラスに入れることだった。

乙葉は成績優秀、運動神経抜群でいろんな部活から勧誘がきている。それに高校や大学と考えると知的障害の妹と離れて学業や運動部に集中する方が乙葉の為だと。

柚葉も自分を馬鹿にしない同じような境遇の人と一緒に勉強したりするのが一番良いし何より姉に負担をかけてないで済むのが柚葉も気が楽になると。

親はその提案に賛同し乙葉と柚葉は初めて違うクラスになったのだった。




入学して間もなく、事件が起きるーー

乙葉が授業をしていると廊下が騒がしい。
他のクラスがざわついているのに気がついた。

クラスメイトも何だろうと授業どころではなくなった。

するとーー

「おねえちゃ、おねえちゃ・・・」
泣き叫ぶハッキリ聞こえない声が廊下に響いていた。

「ゆず!!!!」
たまらず教室を飛び出し廊下に出た乙葉、
柚葉は乙葉の姿を確認するや否や乙葉に抱きつき大泣きした。

「ごめんね、ごめんねゆず。もう一人にしないわ」

この一件で再び早坂姉妹は同じクラスで隣同士の席になった。
入部届けを出した部活も辞めて登下校から家でも常に一緒の生活をずっとおくるのだった。


妹のためにやりたい事を我慢してきた。
妹のために夢も捨てた。
妹のために犠牲にしてきた人生。

それでも後悔はない。

一度だけ妹とケンカした事があったーー



それは高校の志望校を決める時だった。
柚葉のレベルに合わせて乙葉が高校が合わせると言ったのだった。

両親は猛反対した。

姉妹で同じ学校というのが乙葉の夢だった。

「もう姉妹一緒とか言ってる場合じゃないのよ。一生を左右する問題なのよ、おとちゃんだけでもちゃんとした高校に行きなさい」

「私はゆずと一緒の高校に行きないの!無理でも努力すればゆずだって高校に入れるわよ」

「おねえちゃ・・・あのね・・・」
「ゆずは黙ってて」

「おとちゃん、ゆずちゃんにはゆずちゃんに合った高校ややりたい事を自分で選ぶ権利があるのよ」

「ゆずに合った高校? ゆずを障害者扱いしないで!!ゆずは私と一緒よ」

「おとちゃん、そうじゃなくてーー」
「おねえちゃ、わたしね・・・」
「もう、ゆずは何もわからないんだから黙って私の言うことを聞いてればいいの!!」
「乙葉!!!!」

「何よ、こんな時ばっか私とゆずのことに口出してきて、今まで誰がゆずの面倒を見てきたと思ってるの? いろんなこと我慢してずっと一緒にいたのに・・・」

乙葉は部屋を飛び出したーー

「おねえちゃ・・・わたし・・・」



お姉ちゃん私、高校は別々に行きたい。
お姉ちゃんには好きなこといっぱいやってほしいから。

今までいっぱいゆずの事守ってくれたしいっぱい迷惑かけたから高校の三年間は私のことよりも自分に時間をつかってほしいの。




「おねえちゃ・・・」

部屋のドアをゆっくりと開けると、

「ゆず、おいでーー」

ゆずが来るなりぎゅっと抱き締める乙葉。

「ゆずは何も心配しなくて良いんだよ。お姉ちゃんと一緒に高校も行こうね。ゆずとずっと一緒にいるからね」

「おねえちゃ・・・」

お姉ちゃん違うの、本当はね。お姉ちゃんには・・・





何で私はこんな体で生まれてきたんだろう。

何で上手く喋れないんだろう。
思った事が声に出さないんだろう。

同じ双子なのにこんなにも違うのだろう。


普通に生まれたかった。

そうすればもっと違った人生がおくれたかもしれないのに。

お姉ちゃんと普通の姉妹で、オシャレして色んなお店巡って服を買ったり、オシャレなお店でご飯食べたりして帰りに仲良くプリクラ撮ったりしてそんな普通の生活をしてみたかったーー

「・・・おねえ、ちゃん」
「どうしたのゆず??」

ゆずは笑っているのか、泣いてるのか表情からはわからないがポロポロと涙を流している。

「おねえちゃ、おねえちゃん・・・わたし・・・だいジョウブ・・・ダカら」

「・・・ゆず」

「わたし・・・だいジョウブ・・・ダカら」

私の今までを否定しないでよ!
私の生きる目的を奪わないで!

「ゆず・・・お姉ちゃんを一人にしないで」

崩れ落ち泣きじゃくる乙葉ーー

柚葉にとって初めてみる姉の涙だった。

この日から柚葉はどんな時も姉には逆らうことはなかったーー

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

来訪神に転生させてもらえました。石長姫には不老長寿、宇迦之御魂神には豊穣を授かりました。

克全
ファンタジー
ほのぼのスローライフを目指します。賽銭泥棒を取り押さえようとした氏子の田中一郎は、事もあろうに神域である境内の、それも神殿前で殺されてしまった。情けなく申し訳なく思った氏神様は、田中一郎を異世界に転生させて第二の人生を生きられるようにした。

チートでエロ♡でテイマーなゲームのお話

marks
ファンタジー
内容紹介を書くのがとっても苦手な筆者ですが、一応話も大体方向性が決まったので書き直します。 この物語は、最初エロゲームを楽しむ青年(18歳以上)が少女の体を持った子達(18歳以上)とドタバタとした感じで楽しく過ごすつもりで書き始めたのですが… 気付いたらなにやら壮大なファンタジーな話になり始めてしまったって感じです。 第一章→始まりの町周辺でイチャコラしまくってます。 第二章→強制的に別サーバーに放り込まれます。 第三章→別サーバーからよく分からない所に放り出されます。 第四章→たぶん(もしかしたら?)戦争が始まります。 第五章→今の所未定 こんな話になりそうですが…基本はエロですから♡ 主人公の男はミュー ヒロイン枠には今の所…アリエル&フィー&メリス&リーフ&フィリア 敵枠には…三國と真吾と晴香とベリーナが居て… もう少しフィリアとフィーが居る辺りからも敵とか仲間になりそうな奴などが出てきそうです。 最近他の短編を書くのが楽しい筆者ですが一応まだ書く気で居ますので気長にお付き合い下さい。 『チートでエロ♡でテイマーなゲームの裏話』 こちらはドエロの限界を攻めてます。18禁ですので…なんか、大丈夫な人だけ見て下さい。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/591314176/793257140

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

異世界TS転生で新たな人生「俺が聖女になるなんて聞いてないよ!」

マロエ
ファンタジー
普通のサラリーマンだった三十歳の男性が、いつも通り残業をこなし帰宅途中に、異世界に転生してしまう。 目を覚ますと、何故か森の中に立っていて、身体も何か違うことに気づく。 近くの水面で姿を確認すると、男性の姿が20代前半~10代後半の美しい女性へと変わっていた。 さらに、異世界の住人たちから「聖女」と呼ばれる存在になってしまい、大混乱。 新たな人生に期待と不安が入り混じりながら、男性は女性として、しかも聖女として異世界を歩み始める。 ※表紙、挿絵はAIで作成したイラストを使用しています。 ※R15の章には☆マークを入れてます。

GAME CHANGER 日本帝国1945からの逆襲

俊也
歴史・時代
時は1945年3月、敗色濃厚の日本軍。 今まさに沖縄に侵攻せんとする圧倒的戦力のアメリカ陸海軍を前に、日本の指導者達は若者達による航空機の自爆攻撃…特攻 で事態を打開しようとしていた。 「バカかお前ら、本当に戦争に勝つ気があるのか!?」 その男はただの学徒兵にも関わらず、平然とそう言い放ち特攻出撃を拒否した。 当初は困惑し怒り狂う日本海軍上層部であったが…!? 姉妹作「新訳 零戦戦記」共々宜しくお願い致します。 共に 第8回歴史時代小説参加しました!

処理中です...