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Message03: 鏡面戦線(終幕)
優梨奈誘拐事件⑥早坂姉妹
しおりを挟む倒れた姉の制止を振り切って暴走する乙姫の元に向かおうとする柚葉、その目の前には敵対する第十二支部のメンバーたちの姿があったーー
「ゆず、下がりなさい!」
乙葉が傷付いた腕を押さえながら立ち上がり柚葉を呼び寄せる。
「・・・姫ちゃんが泣いてる」
「ゆず!!お姉ちゃんの言う事が聞けないの」
その言葉にビクッと反応を見せる柚葉。
第十二支部のメンバーたちは早坂姉妹のやり取りを何のことだか分からず一部始終見ていた。
「ーー早坂、乙姫はどうしたんだ?」
カケルが柚葉に話しかける。
柚葉はビクッと反応をして俯く。
「ーーゆず! 離れなさい!」
乙葉が大声を上げる。
その声に振り返る柚葉は乙葉に何とも言えない表情を見せた。
「・・・ゆず?」
今まで見たことのない柚葉の表情に戸惑う乙葉。
「あのね、姫ちゃんがねーー」
「ゆず!!!!!」
乙葉の精一杯の叫び声ーー
お姉ちゃん・・・
「ゆず、姫ちゃん友達だもん。もう見ない振り、逃げ出すのやめようよ」
再び乙葉の方に振り返る柚葉は涙を流していた。
いつも笑顔の柚葉、涙を流しても笑っていた。
☆
早坂柚葉は知的障害があるーー
鏡面世界とチェンジした時にだけその障害が緩和された。
姉妹は喜んだ。
大好きな妹、大好きな姉とちゃんと向き合って喋ったり出来る。
もうあんな辛い思いをしなくて済むんだ。
★ ★ ★
早坂乙葉、柚葉は双子の姉妹だ。
生まれた時からいつも一緒だった。
物心ついた時に姉は気付いたーー
柚葉はいつもニコニコ笑っている事に。
悪戯して怒られてもニコニコ笑っている妹。
悲しい絵本やアニメを観てみんなが泣いているのに笑っている妹。
幼稚園の年長になっても上手く喋れない妹。
みんなより全てやる事が遅い、同じことが出来ない妹。
ある日、幼いながらに母親に尋ねた。
「ゆずは何で上手く喋れないの?いつもニコニコ笑ってばかり、みんなと同じことも出来ないんだよ」
母親は乙葉の頭を撫でながら、
「ゆずはね、とても優しい子でまわりに気を使っちゃう子なの。あなたはお姉ちゃんだからゆずの面倒を見てあげてね」
「うん!私お姉ちゃんだからゆずの面倒を見てあげる」
☆
小学生になると事態は深刻化するーー
上手く喋れない柚葉は格好のいじめの対象となった。
国語の授業で音読で先生に指名されると上手く喋れないことでクラス全員が大笑いする。
それでもニコニコ笑っている柚葉。
算数で簡単な問題を前に出て黒板に回答する時も首を傾げて立ち尽くす妹に大笑いするクラス。
たまらず乙葉が仲裁に入る。
この時から乙葉の中で何が弾けたーー
先生に柚葉を隣の席にしてもらい、何かあるごとに乙葉が柚葉をかばった。
乙葉は成績優秀、運動神経抜群でクラスでも目立つ存在だった。
その姉に瓜二つの知的障害のある妹、比べられるのは仕方ないことだった。
いじめの対象は乙葉にも降りかかった。
シスコンやら気持ち悪い姉妹など陰口、教科書や机に落書きなどされた。
しかしーー乙葉はめげない。
妹を守るためと堂々としていた。
あまりにも反応のない早坂姉妹に自然とクラスのいじめはなくなったが柚葉の知的障害がなくなるわけもなく中学入学を迎えた。
中学入学の前に親は選択をすることになった。
乙葉とは別の柚葉を特殊クラスに入れることだった。
乙葉は成績優秀、運動神経抜群でいろんな部活から勧誘がきている。それに高校や大学と考えると知的障害の妹と離れて学業や運動部に集中する方が乙葉の為だと。
柚葉も自分を馬鹿にしない同じような境遇の人と一緒に勉強したりするのが一番良いし何より姉に負担をかけてないで済むのが柚葉も気が楽になると。
親はその提案に賛同し乙葉と柚葉は初めて違うクラスになったのだった。
☆
入学して間もなく、事件が起きるーー
乙葉が授業をしていると廊下が騒がしい。
他のクラスがざわついているのに気がついた。
クラスメイトも何だろうと授業どころではなくなった。
するとーー
「おねえちゃ、おねえちゃ・・・」
泣き叫ぶハッキリ聞こえない声が廊下に響いていた。
「ゆず!!!!」
たまらず教室を飛び出し廊下に出た乙葉、
柚葉は乙葉の姿を確認するや否や乙葉に抱きつき大泣きした。
「ごめんね、ごめんねゆず。もう一人にしないわ」
この一件で再び早坂姉妹は同じクラスで隣同士の席になった。
入部届けを出した部活も辞めて登下校から家でも常に一緒の生活をずっとおくるのだった。
妹のためにやりたい事を我慢してきた。
妹のために夢も捨てた。
妹のために犠牲にしてきた人生。
それでも後悔はない。
一度だけ妹とケンカした事があったーー
☆
それは高校の志望校を決める時だった。
柚葉のレベルに合わせて乙葉が高校が合わせると言ったのだった。
両親は猛反対した。
姉妹で同じ学校というのが乙葉の夢だった。
「もう姉妹一緒とか言ってる場合じゃないのよ。一生を左右する問題なのよ、おとちゃんだけでもちゃんとした高校に行きなさい」
「私はゆずと一緒の高校に行きないの!無理でも努力すればゆずだって高校に入れるわよ」
「おねえちゃ・・・あのね・・・」
「ゆずは黙ってて」
「おとちゃん、ゆずちゃんにはゆずちゃんに合った高校ややりたい事を自分で選ぶ権利があるのよ」
「ゆずに合った高校? ゆずを障害者扱いしないで!!ゆずは私と一緒よ」
「おとちゃん、そうじゃなくてーー」
「おねえちゃ、わたしね・・・」
「もう、ゆずは何もわからないんだから黙って私の言うことを聞いてればいいの!!」
「乙葉!!!!」
「何よ、こんな時ばっか私とゆずのことに口出してきて、今まで誰がゆずの面倒を見てきたと思ってるの? いろんなこと我慢してずっと一緒にいたのに・・・」
乙葉は部屋を飛び出したーー
「おねえちゃ・・・わたし・・・」
お姉ちゃん私、高校は別々に行きたい。
お姉ちゃんには好きなこといっぱいやってほしいから。
今までいっぱいゆずの事守ってくれたしいっぱい迷惑かけたから高校の三年間は私のことよりも自分に時間をつかってほしいの。
☆
「おねえちゃ・・・」
部屋のドアをゆっくりと開けると、
「ゆず、おいでーー」
ゆずが来るなりぎゅっと抱き締める乙葉。
「ゆずは何も心配しなくて良いんだよ。お姉ちゃんと一緒に高校も行こうね。ゆずとずっと一緒にいるからね」
「おねえちゃ・・・」
お姉ちゃん違うの、本当はね。お姉ちゃんには・・・
何で私はこんな体で生まれてきたんだろう。
何で上手く喋れないんだろう。
思った事が声に出さないんだろう。
同じ双子なのにこんなにも違うのだろう。
普通に生まれたかった。
そうすればもっと違った人生がおくれたかもしれないのに。
お姉ちゃんと普通の姉妹で、オシャレして色んなお店巡って服を買ったり、オシャレなお店でご飯食べたりして帰りに仲良くプリクラ撮ったりしてそんな普通の生活をしてみたかったーー
「・・・おねえ、ちゃん」
「どうしたのゆず??」
ゆずは笑っているのか、泣いてるのか表情からはわからないがポロポロと涙を流している。
「おねえちゃ、おねえちゃん・・・わたし・・・だいジョウブ・・・ダカら」
「・・・ゆず」
「わたし・・・だいジョウブ・・・ダカら」
私の今までを否定しないでよ!
私の生きる目的を奪わないで!
「ゆず・・・お姉ちゃんを一人にしないで」
崩れ落ち泣きじゃくる乙葉ーー
柚葉にとって初めてみる姉の涙だった。
この日から柚葉はどんな時も姉には逆らうことはなかったーー
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