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32歳の春である。俺ラブコメしまーす
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カホタンの目の前にアイホンの画面だけが浮かび上がっていた。
ずっと聞こうと思っていた。やっぱりソレって今の時代のスマートフォンなんだよな?
「なんすかそれ?」
「スマートフォンよ」
やっぱり。
「めっちゃ進化してんじゃん。本体どこっすか?」
「埋め込んでるのよ」
「マジっすか? 怖っ。どこっすか?」
「そんな怖くないよ。手に埋め込んでるのよ」
「埋め込むんだったら俺はいらんっすわ」
「車を家の前まで呼んだから」
すでに家の前に車がやって来ていた。車にはタイヤがある。これは重要な描写である。でも運転席は無かった。運転手はいらなくなっている。
来たな未来。
車に入ると白に統一された個室だった。ソファーに座る。俺の隣にカホタンも座った。女の子特有の甘い香りがする。
「ちょっとクンクンするのやめて」とカホタンが笑いながら言った。
俺、そんなことしてましたか? 申し訳ないです。今のはキモいって言われても仕方がない。
「花粉症で」と俺は嘘をつく。
車が動き始めた。
学校は近い。だから窓から見えるのも女子高生だらけだった。
コチラに気づいて指をさす女の子もいた。俺は過去を思い出して窓から目を反らす。
「大丈夫よ。男の子が珍しいだけ。誰も太一のことを笑っているわけじゃない」
「……はい」
カホタンが俺の太ももに手を置いた。
「学校では学生らしく、ちゃんと恋愛して来なさい」
「恋愛?」
「恋をするのよ?」
「俺、梶さんのこと好きっすよ」
軽いノリで言っちゃった。カホタンに告っちゃった。この軽いノリでカホタンって呼んでもいいだろうか? そこまで言ってしまったらキモいだろうか?
告白してしまったのは俺の太ももに手が置かれているからである。ドンペリ注文しちゃおっかな? って思っちゃうのは男の性である。キモいの自覚しているから逆にキモくない。
「私は太一のお母さんみたいな役割だから」とカホタンは言った。
遠回しにフられましたか? この世界でも俺は女子から嫌われるのか?
「本当にありがとうね。……太一が良ければ私のこと好きにしていいのよ」とカホタンが恥ずかしそうに言った。
好きにしていいってどういうことですか? どげんしよ? ←どこの方言?
俺は今カホタンに何て言われた? 遠回しにフられていたんじゃなかったっけ?
「でも、それはそれとして学校では恋はしなさい。せっかくの学生なんだし、みんなアナタのことが好きなんだから」
車が止まった。そして扉が開いた。
「わかりました。ラブコメしてきやす」と俺は言う。
32歳の春である。俺ラブコメしまーす。
「頑張ってね」
俺は車から出た。
カホタンが俺に優しく手を振っていた。俺も彼女に手を振り返した。
いざ、出陣である。
「太一」
と声をかけて来たのは幼井《おさない》ナミだった。
幼馴染である。
ちょっと待った。俺が目覚めたのは3日前である。そして俺は過去から未来の世界にやって来た。なのに、なぜ幼馴染がいるのか?
すごーく謎である。
俺が来たのは過去。そして今は未来。これは名探偵の出番ですぞ。
名探偵田中太一が推理する。
ずばり幼井ナミは幼馴染の子孫である。
めちゃくちゃ顔がソックリなのだ。
初め見た時はビックリした。なんでナミがこの世界にいるんだよ? と思って脳内パニック。
家に帰って来てカホタンに報告。そしたら先祖が俺の幼馴染であることが発覚。←推理したんじゃなくて聞いちゃったけど、それは別にいいとしよう。
彼女は俺の幼馴染の子孫である。そして同姓同名だった。
顔は小動物系。ずっと抱っこしてチューしたくなる感じ。髪は肩ぐらいの長さで、いやらしくない感じの茶髪だった。
俺の初恋だった。
幼井ナミ。
彼女は俺の隣に住んでいた。幼稚園の頃から高校まで同じ学校だった。そして部屋も隣同士でベランダに出ると喋ることもできた。いわゆるタッチとミナミである。
しかも俺は太一で、タッちゃんって呼ばれていたから、あの漫画を連想させずにはいられない。
ちなみに漫画の『タッチ』のタイトルの意味はバトンタッチということらしい。双子の弟であるカッちゃんが死んで、タッちゃんにバトンタッチするから『タッチ』というタイトルらしいのだ。どうでもいいわそんなこと。
俺達はタッチ状態で、いつかは付き合うのだろうと勝手に俺は思い込んでいたのに中学の頃から喋らなくなった。
思春期である。
あんなに小さい頃は仲が良かったのに、中学校からは一言も喋ってない。
どちらから喋らなくなったのかはわからん。もしかしたら俺が彼女を妄想で抱いたあの日から喋っていないのかもしれない。
最後に喋ったのはいつだっけ? 高校の頃にベランダに出た時だっけ? たまたまナミもベランダに出ていた。
「っモ」とナミに言われた。
この「っモ」というのは、キモいの最上級の言葉である。
「気持ち悪い」→「キモい」→「キモっ」→「モっ」
その時のナミは犬のウンコを踏んでしまったような表情をしていた。
彼女は「っモ」と言って、すぐに部屋に戻ってカーテンを閉めてしまった。
俺は閉められたカーテン越しに「キモくねぇーし」と言った。それが最後の会話だった。
そう言えば25歳ぐらいの時に結婚したっていうのを聞いた。
あの頃はタッチ状態で、俺がまともな男子だったら付き合っていたであろう女の子と瓜二つ子孫が目の前にいた。
「もうちょっとで遅刻だぞ」
とナミが言って、俺のホッペを抓った。
今、俺がどういう感情なのか? もちろん思うことはある。感情が複雑骨折している。
初恋だった幼馴染。だけど喋らなくなった思春期。それを乗り越えて俺は幼馴染に頬を抓られているのだ。
惚れてまうやろう! そう思っていた。
あの頃、あったはずの青春が今ココにある。
でも心の奥には、ちゃんと黒い部分もあるのだ。コイツは俺の事を好きにはならない。きっとコイツは俺のことを気持ち悪いと思っている。
だけど幼井ナミの表情は、好意を寄せる男子に向けるソレだった。
やっぱりナミのことは好き。気軽に接してくれたら俺だって好意を持っちゃう。だけどまたキモいと思われるんじゃないだろうか?
ずっと聞こうと思っていた。やっぱりソレって今の時代のスマートフォンなんだよな?
「なんすかそれ?」
「スマートフォンよ」
やっぱり。
「めっちゃ進化してんじゃん。本体どこっすか?」
「埋め込んでるのよ」
「マジっすか? 怖っ。どこっすか?」
「そんな怖くないよ。手に埋め込んでるのよ」
「埋め込むんだったら俺はいらんっすわ」
「車を家の前まで呼んだから」
すでに家の前に車がやって来ていた。車にはタイヤがある。これは重要な描写である。でも運転席は無かった。運転手はいらなくなっている。
来たな未来。
車に入ると白に統一された個室だった。ソファーに座る。俺の隣にカホタンも座った。女の子特有の甘い香りがする。
「ちょっとクンクンするのやめて」とカホタンが笑いながら言った。
俺、そんなことしてましたか? 申し訳ないです。今のはキモいって言われても仕方がない。
「花粉症で」と俺は嘘をつく。
車が動き始めた。
学校は近い。だから窓から見えるのも女子高生だらけだった。
コチラに気づいて指をさす女の子もいた。俺は過去を思い出して窓から目を反らす。
「大丈夫よ。男の子が珍しいだけ。誰も太一のことを笑っているわけじゃない」
「……はい」
カホタンが俺の太ももに手を置いた。
「学校では学生らしく、ちゃんと恋愛して来なさい」
「恋愛?」
「恋をするのよ?」
「俺、梶さんのこと好きっすよ」
軽いノリで言っちゃった。カホタンに告っちゃった。この軽いノリでカホタンって呼んでもいいだろうか? そこまで言ってしまったらキモいだろうか?
告白してしまったのは俺の太ももに手が置かれているからである。ドンペリ注文しちゃおっかな? って思っちゃうのは男の性である。キモいの自覚しているから逆にキモくない。
「私は太一のお母さんみたいな役割だから」とカホタンは言った。
遠回しにフられましたか? この世界でも俺は女子から嫌われるのか?
「本当にありがとうね。……太一が良ければ私のこと好きにしていいのよ」とカホタンが恥ずかしそうに言った。
好きにしていいってどういうことですか? どげんしよ? ←どこの方言?
俺は今カホタンに何て言われた? 遠回しにフられていたんじゃなかったっけ?
「でも、それはそれとして学校では恋はしなさい。せっかくの学生なんだし、みんなアナタのことが好きなんだから」
車が止まった。そして扉が開いた。
「わかりました。ラブコメしてきやす」と俺は言う。
32歳の春である。俺ラブコメしまーす。
「頑張ってね」
俺は車から出た。
カホタンが俺に優しく手を振っていた。俺も彼女に手を振り返した。
いざ、出陣である。
「太一」
と声をかけて来たのは幼井《おさない》ナミだった。
幼馴染である。
ちょっと待った。俺が目覚めたのは3日前である。そして俺は過去から未来の世界にやって来た。なのに、なぜ幼馴染がいるのか?
すごーく謎である。
俺が来たのは過去。そして今は未来。これは名探偵の出番ですぞ。
名探偵田中太一が推理する。
ずばり幼井ナミは幼馴染の子孫である。
めちゃくちゃ顔がソックリなのだ。
初め見た時はビックリした。なんでナミがこの世界にいるんだよ? と思って脳内パニック。
家に帰って来てカホタンに報告。そしたら先祖が俺の幼馴染であることが発覚。←推理したんじゃなくて聞いちゃったけど、それは別にいいとしよう。
彼女は俺の幼馴染の子孫である。そして同姓同名だった。
顔は小動物系。ずっと抱っこしてチューしたくなる感じ。髪は肩ぐらいの長さで、いやらしくない感じの茶髪だった。
俺の初恋だった。
幼井ナミ。
彼女は俺の隣に住んでいた。幼稚園の頃から高校まで同じ学校だった。そして部屋も隣同士でベランダに出ると喋ることもできた。いわゆるタッチとミナミである。
しかも俺は太一で、タッちゃんって呼ばれていたから、あの漫画を連想させずにはいられない。
ちなみに漫画の『タッチ』のタイトルの意味はバトンタッチということらしい。双子の弟であるカッちゃんが死んで、タッちゃんにバトンタッチするから『タッチ』というタイトルらしいのだ。どうでもいいわそんなこと。
俺達はタッチ状態で、いつかは付き合うのだろうと勝手に俺は思い込んでいたのに中学の頃から喋らなくなった。
思春期である。
あんなに小さい頃は仲が良かったのに、中学校からは一言も喋ってない。
どちらから喋らなくなったのかはわからん。もしかしたら俺が彼女を妄想で抱いたあの日から喋っていないのかもしれない。
最後に喋ったのはいつだっけ? 高校の頃にベランダに出た時だっけ? たまたまナミもベランダに出ていた。
「っモ」とナミに言われた。
この「っモ」というのは、キモいの最上級の言葉である。
「気持ち悪い」→「キモい」→「キモっ」→「モっ」
その時のナミは犬のウンコを踏んでしまったような表情をしていた。
彼女は「っモ」と言って、すぐに部屋に戻ってカーテンを閉めてしまった。
俺は閉められたカーテン越しに「キモくねぇーし」と言った。それが最後の会話だった。
そう言えば25歳ぐらいの時に結婚したっていうのを聞いた。
あの頃はタッチ状態で、俺がまともな男子だったら付き合っていたであろう女の子と瓜二つ子孫が目の前にいた。
「もうちょっとで遅刻だぞ」
とナミが言って、俺のホッペを抓った。
今、俺がどういう感情なのか? もちろん思うことはある。感情が複雑骨折している。
初恋だった幼馴染。だけど喋らなくなった思春期。それを乗り越えて俺は幼馴染に頬を抓られているのだ。
惚れてまうやろう! そう思っていた。
あの頃、あったはずの青春が今ココにある。
でも心の奥には、ちゃんと黒い部分もあるのだ。コイツは俺の事を好きにはならない。きっとコイツは俺のことを気持ち悪いと思っている。
だけど幼井ナミの表情は、好意を寄せる男子に向けるソレだった。
やっぱりナミのことは好き。気軽に接してくれたら俺だって好意を持っちゃう。だけどまたキモいと思われるんじゃないだろうか?
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