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ヒロインズ

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 獣人達の建設事務所に向かった。
 木造住宅の一軒家を建設事務所として獣人達は使っていた。
 大量の従業員がいるので何軒も獣人達の建築事務所が作られている。
 その1件の建設事務所に俺達が訪れたのだ。俺達というのは俺とアニーとナナナ。妻の2人も付いて来ていた。家を見てから家具を選ぶらしい。

 ちなみに獣人達は建築の仕事だけではなく、アイテム屋を営んでいるグループもいた。薬草の匂いを嗅ぎ分けて採取するのが得意、っていうか種族スキルを持っているので、それを生かした仕事である。女性の獣人は服を作るのも得意なのでアイテム屋には服も売られている。
 良い物が安く手に入るらしく、盛況しているらしい。

 建設事務所に入る。
 みんな机に座り、大きな紙に設計図を書いていた。獣人達は建物を作る時、設計図を書く。
 土地を計り、設計図を書き、建物になる材料を作り、基礎工事をしてから建方《たてかた》をする。基礎工事というのは地盤を作るための工事らしい。獣人曰く基礎工事をしないと建物の強度が弱くなるらしい。大きな魔物が到来して地面が揺れた時に基礎工事をしていないと建物が崩壊してしまうらしいのだ。

「領主様」
 設計図を書いていた獣人の1人が俺に気づいた。
 みんなコチラを向いて土下座をはじめた。

「やめて。やめて」
 と俺は慌てて土下座をやめさせる。
「仕事の手を止めてすまない」

 彼等にとっては群れのリーダーがやって来たのだから土下座をするのが当たり前なんだろうけど、日本人の俺にとって土下座はちょっと重いのだ。

「お待ちしておりました。領主様」
 と白髪混じりの獣人が、やって来た。

「お父さん」
 とナナナが言った。

 お義父さんはナナナの頭をポンポンと撫でた。
「元気だったかナナナ」

 うん、とナナナが頷く。

「もう家の製作は完了しましたか?」
 ナナナのお義父さんに対して俺は敬語を使った。

「はい。もうすでに完了致しました」
 とお義父さんが言った。
 
 お義父さんも領主の俺に対しては敬語なので、ちょっと距離がある。お義父さんからしたら領主の俺に対して息子として馴れ馴れしくできないのだろう。


 製作した家はコチラにあります、とお義父さんは言って事務所の外に出て行く。
 俺達も付いて行く。
 空き地にポンと家が建てられていた。森の奥に建てられていても可笑しくないログハウスだった。

「本当に基礎工事はしないんですか?」
 とお義父さんが尋ねた。

「かまいません。アイテムボックスに入れて安全な場所に家を置きますので」
 と俺が言う。

 無邪気さマックスのナナナが勝手に扉を開けて中に入った。
「土足厳禁だぞ」と俺は言う。
 
 ナナナは扉から靴を投げた。
 普通に置けよ、と思う。
 お義父さんも苦笑いしている。
 アニーがナナナの靴を拾った。

「わーい。新しい家の匂いがする。ひろーい」
 と家の中から声が聞こえる。

 アニーも家の中に入った。
 俺も中に入る。
 たしかに広い。
 多目的ルームぐらいの広さはあった。
 それに平家で作られているので天井も高い。
 新築の木の香りがした。

 ナナナは床に寝転がってゴロゴロと回転していた。
 
「ココにベッドを置きましょう。ココにテーブルを置きましょう。保存棚はキッチンの近くに置きましょう。お皿を置く棚もココですよね。ドレッサーも必要ですよね」
 と彼女はブツブツと言いながら家具をイメージしていた。
 ドレッサーってなんだ? 聞いたことがないぞ。



 アイテムボックスに家を入れて色んなお店が雑多に立ち並ぶ通りに向かった。商店街みたいなところである。
 
「領主様とデートなんて初めてだな」
 とナナナが言って俺の腕に絡みついて来た。

「コレはデートではありません。今から魔王様が必要な家具や日常品を買うんですよ」
 とアニーが言う。

「アニーは知らないの? それをデートって言うんだよ? それに独立宣言したら、忙しくて、もう領主様とデートなんてなかなか出来ないもん」
 とナナナが言う。

 独立宣言の日付は決まっていた。
 この街は、すでに国として運営をすることが決まっている。
 後は独立宣言をするだけである。独立宣言した日から俺は領主から国王になるのだ。

「そうですね。しばらくは小次郎様に遊んでもらえないかもしれませんね。これはデートです。きっとデートです。私も、私も腕を」
 とアニーが照れ臭そうに言った。

「いいよ」と俺が言う。

 アニーが俺の腕を掴んだ。

 ザ・両手に花。

 商店街にいた領民達がコチラに気づいた。「領主様」と声。「ヒロインズもいる」という声も聞こえた。
 領民達が大バーゲンセールでも見つけたみたいに俺達の周りを取り囲んだ。
 つーかヒロインズってなんだよ? 妻2人を指してヒロインズって愛称で呼ばれているのか?
 俺は領民に手を振ったり握手を交わしたりした。
 やべぇー、進めなくなった。
 2人の妻も領民達に握手したり、手を振ったりしている。


 パパパパパーン。←あの人気アニメの効果音を頭の中で流す。認識阻害。
 最近、一番多く使っている魔法である。
 自分も含めた3人に認識阻害の魔法をかけた。
 家に帰った時に、あれっ? アソコに領主様達いたかな? いや、いなかっただろう、ぐらいにしか思い出すことができない。普通に会話はできるけど喋ったことすら思い出すことも困難になる。
 大バーゲンセールのように集まっていた領民達が潮がひくみたいに去って行く。

「こんなに取り込まれるとは」と俺が言う。

「みんなボク達のことが好きなんだね」とナナナが言った。デヘヘヘ、と獣人の女の子が笑った。

「小次郎様。魔法をかけていただきありがとうございました」とアニーが言う。

 ちなみに認識阻害の魔法をかけてもお互いのことはわかるようにしている。

「ヒロインズってなんだよ?」
 と俺はポツリと呟いた。

「領主様、知らないの?」とナナナが言う。
「ボク達2人でヒロインズって呼ばれているんだよ」

 知らなかった。

「ファンクラブとかもあるんだよ」
 
 アイドルじゃねぇーかよ。

 アニーが照れ臭そうにしている。
「私は嫌です。私は小次郎様だけのモノです」

「ボクは嬉しいな」とナナナが言った。
 デヘヘヘ。
「みんな獣人のボクのことを好きだって言ってくれるんだよ」

「そうか」と俺が呟く。
 ナナナは獣人と領民の架け橋になってくれているのだろう。

 公園に復興の女神としてナナナの像が作られる予定だった。もしかしたらアニーの像も隣に作った方がいいのかもしれない。

「あの店はなんだろう?」
 とナナナが駆け出した。

 アニーが俺の隣にピッタリと寄り添って照れ臭そうに俺の腕を掴んだ。

「勝手にナナナちゃんが行ってしまってすみません。魔王様の家具と日常品を買いに来たのに」
 とアニーが言った。 
 まるで彼女はナナナの保護者みたいだった。
 俺は2人の関係が微笑ましく思った。

 露店で売られているポーションみたいな瓶をナナナが勝手に開けていた。
「店の物を勝手に飲んじゃダメですよ」
 とアニーが叫んだ。

 ナナナが瓶の液体を飲み干した。
「ナナナ、勝手に飲むな」と俺が叫ぶ。

 瓶を飲み干した彼女は、その場で倒れた。

 変な物を飲んだのか? 毒か?

 俺達は駆け出した。

 倒れたナナナを抱き寄せた。彼女の脈が無い。

 そしてナナナは魔物が死んだ時と同じように、消滅した。
 ナナナの姿が消えてしまった。

 えっ? どうなってんだよ?

 店主を見る。
 店主は変な髪型をしていた。ハゲている。ハゲているけど額に白髪が残っていた。その毛を結んでいる。
 ジィジィはニヤニヤ笑っていた。
「大丈夫ですよ。料金は貰っております」
 と店主が言った。

「何を飲んだんだよ?」

「死に薬でございます」
 と店主が言った。

「死に薬?」
 俺は驚く。

 アニーも口を手で抑えて驚いている。

「魔物みたいに消滅するタイプの死ぬ薬でございます。彼女が飲んだのは3分間だけ死んだ状態になる薬でございます」

「えっ、3分?」と俺が首を傾げる。

「もうそろそろ蘇って来ますよ」

 ナナナが俺の腕の中で出現した。

「どうだった? ビビった?」
 とナナナが無邪気に笑った。

「馬鹿野郎」と俺は叫んだ。
「こんなことで驚かすな」

 初めて俺に怒られてナナナはシュンとした。
 獣人の女の子は俺に抱かれながら、耳で目を隠していた。

「だって驚かしたかったんだもん」

「本当に死んだかと思ったじゃないか」と俺が言う。

「本当にバカですね。ナナナちゃん」
 とアニーが言って泣いていた。

「ごめん。こんなことになるとは思ってなかったんだ」

「お客様」と店主が言った。
「3分間の死に薬、30分間の死に薬、3時間の死に薬があります。もしよかったらパーティーなどで驚かしてみてはどうでしょうか?」

 こんなに俺達がナナナに対して怒っている最中なのに、このジィジィは死に薬を売りつけてきている。とんでもねぇーKYなジィジィである。ちなみにKYとは空気が読めないの略である。昔、日本で流行った言葉である。
 どうやら死に薬はパーティーグッズらしい。

「他にも消えるマントもありますし、1年間だけ未使用だったら消滅してしまうランプもございます」

 棚に置かれた商品を見た。
 全て消滅したり、消えたりする物らしい。

 1年間未使用だったら消えるランプ?
 心がザワついた。
 
 俺はランプを手に取った。

「ランプの横に書かれている数字が0になりますと、そのランプは消滅致します」

 この世界も1年が365日である。
 ランプに書かれた数字は231日だった。

「使っていいか?」
 と俺は店主に尋ねた。

「もちろんでございます」

 ランプには油が入っていて、そこに魔法で火を付けた。
 
 ランプの横に書かれた文字が365日に書き換えられた。

「使用すれば365日に戻ります」
 

 1年で消滅してしまうシリーズの商品は結構あった。
 消滅することに商品価値が無いらしく、このジィジィが開発した消滅シリーズは売れていないみたいだった。

「この商品は誰が作っている?」
 と俺は店主に尋ねた。

「私でございます。消える物が大好きでございまして。私以外はこんな素晴らしい物を作れないのでございます」
 ザ・変わり者である。
 消えることばかり研究して商品開発しているジィジィ。
 もしかしたら、この変人ジィジィは凄い物を開発しているのかもしれない。

「通貨も消すことができるか?」

「はい?」と店主が首を傾げた。

「1年間使用しなかった通貨を消すってことはできるのか?」

「それはもちろん出来ますが」

「これは凄い発明だぞ」
 と俺は言った。

 消えるお金を作ることができれば、この街は、いやこの国は凄いスピードで発展して行くだろう。
 
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