性奴隷を飼ったのに

お小遣い月3万

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魔王に大切なモノを渡す

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 魔王のところに辿り着くまでに三日かかった。
 その間の記憶はあまりない。
 色んなことを考えていたような気もするし、何も考えられなかったような気もする。
 ずっと寝ていたような気もするし、一睡もしなかったような気もする。
 
 先に進めなかったので、途中で馬車を降りて歩いた。
 半日ぐらい歩いた先に魔王がいた。
 彼女は岩の上に座って光合成をしているようだった。
 光合成で魔力は元に戻るのだろうか?

 召喚したばかりの頃は幼女ぐらいの姿だったけど、今では高校生ぐらいの姿に戻っている。
 褐色の肌。露出が多い防具。白い髪。

「もう来たのか?」
 イライアが言った。

 ナナナとアニーが怯えている。

「なんじゃ? その虚ろな目は」
 切れ長の目で彼女が俺を見る。

「賢者の石は、どう使えばいい?」
 と俺は尋ねた。

 ハハハハ、とイライアが爆笑する。
「お主はまだそんな事を言っておるのか。そこの猫に聞かなかったのか?」

「聞いていない」
 と俺が言う。

「まあ、よい。それじゃあ妾《わらわ》が教えてやろう」
 とイライアが言った。
「賢者の石はな、元の世界に戻す道具じゃ」

 元の世界に戻す道具?

「勇者はココとは別の世界から来たのだろう? その世界に帰るための道具じゃ」
 とイライアが言った。

 元の世界に帰る?

 俺はチェルシーを見た。

 猫は俺を見ないように下を向いた。

「俺、日本に帰れたのか」と俺は呟いた。

「良かったじゃねぇーか」
 と下を向きながらチェルシーが言った。

「これでお前は日本に帰れるじゃねぇーか。それじゃあバイバイ。向こうに行っても元気でな」

「……なんで隠してたんだよ?」
 イライアの過去の映像を見た時も賢者の石の情報は編集でカットされていた。
 チェルシーは意図的に隠していたのだ。

「マジでわかんねぇーの? バカじゃねぇーの?」
 とチェルシーが言った。
「小次郎は俺達に帰る場所を作ろうとしていたけど、違げぇーんだよ。俺達の帰る場所は、あの家じゃねぇーんだよ。お前のところなんだよ。もう俺は帰る場所を失いたくなかったんだよ。ミナミにも帰る場所を失ってほしくなかったんだよ」

 理由を聞けばチェルシーを責める気にはなれなかった。

「それで?」と俺は魔王に尋ねた。
「賢者の石で人を蘇らせることができるのか?」
 今は日本の帰り方よりも、ミナミを蘇らす方法を聞きたかった。

「元の世界に戻すための道具じゃ。黄泉《よみ》の世界に行った人間もコッチの世界に戻すことができる」

 やっぱりミナミを蘇らせる方法はあった。
 日本に帰るよりも、そのために賢者の石を使いたい。

「ただし」とイライアは言った。
「黄泉の国から人間をコッチの世界に戻す時はコストが必要じゃ」

 コスト?

「1億人の人間の魂」
 と魔王は言った。

「1億人」
 と俺は呟いた。

「妾は100年かけて500万人ぐらいの魂を賢者の石に吸わせた。残りは9500万人というところか」

 残り9500万人。
 100年かけて500万人ということは、簡単に計算しても1900年かかることになる。

「お前の力なら、もっと殺せたんじゃないか?」と俺は尋ねた。

「人間を殺しはじめたら各国で勇者が召喚される。だから人間を殺すのは意外と難しいのじゃ。それでもやるか勇者よ?」
 と魔王が言った。

 たしかに勇者召喚は厄介である。
 世界が俺を魔王認定して勇者召喚する前に一気に人間を殺さないといけないだろう。
 大きな魔法で街を破壊するか?
 いや、それじゃあ足りない。
 世界を滅ぼすつもりで魔法を撃とう。
 それでも魂は足りないだろう。

 この世界は人口が少ない。
 街以外に散らばった人間を殺さないといけないだろう。
 魔物を召喚しまくって、ソイツ等にも頑張ってもらわなくちゃいけない。
 すごい時間がかかる。
 俺が死ぬまでにミナミを蘇らせることができるのか?

 チェルシーが俺の足にしがみついた。

 今ミナミを蘇らせるために考えを巡らしているのに、なんだよ?

「ミナミは死んだんだ」
 とチェルシーが言った。
「ミナミは死んだんだよ、小次郎」

 猫がバランを見た。
 俺もハゲたドワーフを見た。

 バランはドワーフの英雄だった男である。
 だけど妻と子どもを魔王の配下に殺され、ショックのあまり毛は全て抜け落ちた。
 生きるのが辛いから自分の脳みその一部を取り出して俺達の仲間になった。
 バランは脳が欠けている。だから考えるのが苦手だった。
 悲しいことがあっても1日も感情を留めておくことができない。
 三日前までバランは泣いていたのに今では普段通りの表情をしていた。

 ココまで一緒に来た仲間を見渡す。
 チェルシー、バラン、アニー、ナナナ。
 みんな大切だった。
 出会って来た人達を殺すことが俺にはできるのだろうか?
 幸せになってほしいと思った人達を殺すことが俺にはできるのだろうか?

 俺が人間を殺し始めたら、魔王認定されるだろう。
 俺が彼等を殺さなくても、仲間を巻き込むことになる。

 俺は世界中の人間を敵に回してもミナミを救いたかった。だけど無理だった。
 それがショックだった。
 彼女のためなら何でもしてあげるつもりだったのに、俺はミナミのために世界を滅ぼすこともできない。
 ミナミのために俺は魔王にもなれない。
 他に守る人達がいた。

「無理だわ」
 と俺は言った。
「ミナミを蘇らせることは俺にはできない」

 ミナミは死んだんだ。

「あぁ」とチェルシーが言った。
「わかってる」

 
「それで勇者よ」
 と魔王が言った。
 ココからが本題という口調だった。
「妾にやってほしいことがあるのだろう?」

 ミナミを殺した王族を殺してほしい。
 俺には王族を殺せなかった。
 王族を殺せば魔王認定される。
 魔王は世界の敵になる。
 誰にも手出しされないように国を作るのが俺の課題だった。
 魔王イライアには王族殺しの罪を被ってほしかった。

「やってほしいことがある」
 と俺が言う。

「なんじゃ?」

「この国の王族を根絶やしにしてほしい。できれば国民を殺さずに」
 と俺は言った。

「無理じゃ」
 と魔王が言った。

 無理?

「妾は交換条件と言っただろう? 先にお前の大切なモノを差し出せ」

「何がほしいんだ?」

「殺された女を出せ」
 と魔王が言った。

 どうして?
 ミナミは死んでいる。

「いいから出せ。悪いようにはせん」

 魔王を信じて俺はアイテムボックスからミナミを取り出した。
 彼女は心臓が抉れていた。
 ミナミは目覚めることのない眠りについている。

「この女の赤子を貰う」
 と魔王が言った。

「赤子? 赤ちゃんのことか?」

「そうじゃ。早くせんと赤子が死んでしまう」

 死んでしまうと言われて「わかった」と俺は言うしかなかった。

 魔王がミナミのお腹に手をかざした。

 ミナミのお腹から小さな光が取り出された。
 そして、その小さな光はイライアのお腹に入って行く。

「よかった。まだ生きておる」
 と魔王が言った。
 そして彼女は小さな光が入った自分のお腹を愛おしそうに撫でた。

「ミナミに赤ちゃんがいたのか?」
 と俺は尋ねた。

「気づかなかったのも無理はなかろう。まだ小さい。体もできておらん。でも赤子は生きておる」

 そうか、と俺は呟いた。

「その子をどうするんだ?」
 と俺は尋ねた。

「妾が産んで大切に育てる」
 と魔王が言った。

 イライアの記憶を見たことがある。
 彼女がどれほど愛情深い人間が知っていた。

「その子はイライアのお腹の中で生きているんだな」
 よかった、と俺は思った。
 生きていてくれてよかった。

 俺はイライアが愛おしく撫でているお腹を見つめた。

「それじゃあ勇者の命令を受託しよう。王族だけを根絶やしにすればいいのだな」
 彼女が空を飛んで行く。
 そして魔王は王都に向かった。
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