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……交尾しますか?
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ランプの明かりを消した暗闇の中。
床に女の子を寝かせるのは気が引けたから、彼女にはソファーの背もたれを倒したベッドを使ってもらっていた。
俺は寝袋の中に入って、床に転がっている。
魔物と戦っている時のアニーは汗だくで暑くて仕方がなかったのだろうけど、ダンジョンの中は少しだけ肌寒い。洞窟なのでヒヤッとする。ランプの明かりを消した時に見た彼女の姿は毛布に丸まっていた。
俺も毛虫みたいに寝袋の中だった。暑いのにも寒いのにも耐性があるおかげで温度の変化には強い。本当は寝袋も必要が無いけど寝やすいから使っている。
「……勇者様」
と暗闇の中でアニーの声が聞こえた。
「どうしたの?」
と暗闇の中で俺も返事をする。
「私とミナミ様は勇者様の妻になるんですか?」
「そうだよ」
奴隷を禁止している貴族が、奴隷を飼い続けることができないから契約を変更するのだ。
「セドリッグから聞いたの?」
「はい」と彼女が返事をした。
「私がしていることは勇者様の妻になるための教育だと伺っております」
もしかしたらセドリッグの教育と俺の教育は目的が違うのかもしれない。
俺は彼女が1人になっても生きていけるために教育している。
セドリッグは貴族の妻として恥じないように彼女を教育しているらしい。
今はどちらも必要だからセドリッグの教育方針には口を出さないでいよう。
セドリッグには口の悪いミナミも同じように教育してほしい。でもミナミは魔王を倒した英雄の1人である。だから貴族の妻になっても誰も批判しない。
「……私は奴隷です。本当に勇者様の妻になっていいんでしょうか?」
「俺の妻になるのは嫌かい?」
「……妻がいいです」
「アニーとミナミを2人とも妻にする。2人も妻にする旦那が嫌なら、別の契約でもいいんだよ?」
「権力があるという証明なので多妻はかまいません。……そうじゃなくて、私が勇者様の妻になる資格があるんでしょうか?」
彼女の質問は俺の妻になることが嫌とか、そういう事じゃなくて、純粋に不安なのだろう。
村から追い出され、母親を亡くし、頼るのは俺しかいない。
アニーは帰る場所を無くした子なのだ。俺に見放されたら彼女は1人になってしまう。
俺が彼女を見放すことはない。だから彼女の不安を払拭してあげたかった。
「アニーの事を大切に思っている」と俺は言った。
「これから先、もし君が悪いことをしてしまっても、もし君が俺のことを嫌いになったとしても俺はアニーのことを大切に思っている。世界中が君の敵になっても俺だけはアニーの味方だよ。君が地獄に落ちてしまったら俺も一緒に行ってあげる。だからアニー、心配しなくて大丈夫なんだよ。俺は君のことを永遠に大切に思うし、大事にする」
これは娘にも妻にも言ったことだった。
そして帰る場所が無くなったチェルシーやミナミやバランにも言ったことだった。
俺は大切に思っている彼等あるいは彼女等に精神の安全地帯を作りたかった。作らなくてはいけなかった。せめて俺の隣だけは精神の安全地帯にしてあげたかった。
ベッドの上で彼女が動く音が聞こえた。
「……そっちに行っていいですか?」
とアニーが尋ねた。
えっ? そっちって?
彼女が立ち上がったのが音でわかった。
そして床で寝ている俺にアニーが近づいて来る。
「私が入れる隙間ありますか?」
「あるけど、でもギュウギュウだよ?」
暗闇の中で手探りで彼女は俺の寝袋を探し出した。
俺の寝袋はチャックとかボタンとかは付いていない。コの字型になっているタイプで、そのまま空いているところから入るしかない。
宿替えするヤドカリのように、寝袋の隙間にアニーが入って来た。
彼女の生足が、俺の肌と重なる。
スベスベだった。
よいしょ、よいしょ、と小さい声で呟きながら彼女が寝袋の奥に入って来る。
やっぱり寝袋の中はギュウギュウで、自然と生足同士が絡み合う。
俺は彼女を腕枕するような形になり、アニーは俺の首元に顔を付ける形になった。
「エルフの夫婦は抱き合って眠るんです。……だから」
と彼女が言った。
うん、と俺が頷く。
俺達はしばらく何も言わず、寝袋の中で抱き合った。
彼女の体は柔らかく、生肌の箇所はスベスベで、なぜか甘い匂いがした。
しばらくしてから彼女が喋り出した。
「……村を出て奴隷商に捕まってから、ずっと孤独でした」
アニーが言う。
うん、と俺は頷く。
「……勇者様のおかげで私は孤独じゃありません」
うん、と俺は頷く。
「ふつつか者ですが、これからよろしくお願いします」
ふつつか者ってどこで覚えて来たんだよ?
「こちらこそ、よろしくお願いします」
アニーと絡んでいる足が、モゾモゾと動いて、俺の太ももを擦った。
「……交尾しますか?」
「えっ?」
「交尾……しますか?」
「それを言えって、チェルシーに言われたの?」
「交尾したら勇者様を幸せにできる、ってチェルシー様に言われました」
アイツ、何を教えてんだよ。帰ったら頭を叩いてやろう。
交尾はしない。日本に帰るチャンスがあった時に愛している人が異世界にいると帰れなくなってしまう。
これをアニーに言うことはできなかった。
彼女を愛せない、ということになってしまうからである。
大切に思っている、とさっき言ったばかりなのだ。
「交尾をするには君は幼すぎるよ」
と俺は言った。
「未成熟な君の子宮を傷つけることがあれば、子どもができなくなってしまう」
「……でも、12歳から結婚できますよ?」
こっちの世界では12歳から結婚ができてしまうのだ。
「ルールが間違っているんだよ。早すぎるんだよ」
「勇者様は結婚しても、交尾はしてくれないのですか?」
「そのうち」と俺は言った。
「いつですか?」
アニーが問い詰めてくる。
俺は交尾をする気が無い。だから出来る限り約束を引き伸ばしたかった。
「20歳」と俺が言った。
「なんで20歳なんですか?」と彼女が尋ねた。
「俺の故郷の成人の年齢だよ」
と俺は言った。
言いながら日本の成人の年齢って18歳に切り替わったんじゃなかったっけ? と思い出す。
「エルフの成人の年齢は16歳です。それじゃあ16歳になったら交尾してください」
「18歳」
と俺は言った。
「なんで18歳なんですか?」
「俺の故郷の成人の年齢だよ」
「20歳じゃなかったんですか? そもそも勇者様の故郷の成人年齢は私には関係ないですよね?」
もしかしてアニーってめちゃくちゃ理論派なの?
グイグイきてヤバい。
「18歳というのは俺が童貞を捨てた歳でもあるんだ」
「15歳」
とアニーが言った。
「年齢が早まっているじゃないか」
「私の父親が童貞を捨てた年です」
「それは関係ないだろう」
「私にとっても勇者様が童貞を捨てた年も関係ありません」
「17歳」と俺が言う。
「どうして17歳なんですか?」
「……理由は無いけど」
「さきほど私の体を心配してくれましたが、エルフは16歳から成長しません。だから16歳でお願いします」
完全に負けた。
「……わかった。16歳」と俺は言った。
交渉がうめぇーな、と俺は純粋に関心していた。
もしかしたら彼女の隠れた才能なのかもしれない。
16歳で交尾をする理由がハッキリとしていた。だから喋っているうちに16歳の年齢が交尾の適齢期のような気がした。
年齢を引き伸ばして、言い訳をして結局交尾はしないつもりなのに……。
床に女の子を寝かせるのは気が引けたから、彼女にはソファーの背もたれを倒したベッドを使ってもらっていた。
俺は寝袋の中に入って、床に転がっている。
魔物と戦っている時のアニーは汗だくで暑くて仕方がなかったのだろうけど、ダンジョンの中は少しだけ肌寒い。洞窟なのでヒヤッとする。ランプの明かりを消した時に見た彼女の姿は毛布に丸まっていた。
俺も毛虫みたいに寝袋の中だった。暑いのにも寒いのにも耐性があるおかげで温度の変化には強い。本当は寝袋も必要が無いけど寝やすいから使っている。
「……勇者様」
と暗闇の中でアニーの声が聞こえた。
「どうしたの?」
と暗闇の中で俺も返事をする。
「私とミナミ様は勇者様の妻になるんですか?」
「そうだよ」
奴隷を禁止している貴族が、奴隷を飼い続けることができないから契約を変更するのだ。
「セドリッグから聞いたの?」
「はい」と彼女が返事をした。
「私がしていることは勇者様の妻になるための教育だと伺っております」
もしかしたらセドリッグの教育と俺の教育は目的が違うのかもしれない。
俺は彼女が1人になっても生きていけるために教育している。
セドリッグは貴族の妻として恥じないように彼女を教育しているらしい。
今はどちらも必要だからセドリッグの教育方針には口を出さないでいよう。
セドリッグには口の悪いミナミも同じように教育してほしい。でもミナミは魔王を倒した英雄の1人である。だから貴族の妻になっても誰も批判しない。
「……私は奴隷です。本当に勇者様の妻になっていいんでしょうか?」
「俺の妻になるのは嫌かい?」
「……妻がいいです」
「アニーとミナミを2人とも妻にする。2人も妻にする旦那が嫌なら、別の契約でもいいんだよ?」
「権力があるという証明なので多妻はかまいません。……そうじゃなくて、私が勇者様の妻になる資格があるんでしょうか?」
彼女の質問は俺の妻になることが嫌とか、そういう事じゃなくて、純粋に不安なのだろう。
村から追い出され、母親を亡くし、頼るのは俺しかいない。
アニーは帰る場所を無くした子なのだ。俺に見放されたら彼女は1人になってしまう。
俺が彼女を見放すことはない。だから彼女の不安を払拭してあげたかった。
「アニーの事を大切に思っている」と俺は言った。
「これから先、もし君が悪いことをしてしまっても、もし君が俺のことを嫌いになったとしても俺はアニーのことを大切に思っている。世界中が君の敵になっても俺だけはアニーの味方だよ。君が地獄に落ちてしまったら俺も一緒に行ってあげる。だからアニー、心配しなくて大丈夫なんだよ。俺は君のことを永遠に大切に思うし、大事にする」
これは娘にも妻にも言ったことだった。
そして帰る場所が無くなったチェルシーやミナミやバランにも言ったことだった。
俺は大切に思っている彼等あるいは彼女等に精神の安全地帯を作りたかった。作らなくてはいけなかった。せめて俺の隣だけは精神の安全地帯にしてあげたかった。
ベッドの上で彼女が動く音が聞こえた。
「……そっちに行っていいですか?」
とアニーが尋ねた。
えっ? そっちって?
彼女が立ち上がったのが音でわかった。
そして床で寝ている俺にアニーが近づいて来る。
「私が入れる隙間ありますか?」
「あるけど、でもギュウギュウだよ?」
暗闇の中で手探りで彼女は俺の寝袋を探し出した。
俺の寝袋はチャックとかボタンとかは付いていない。コの字型になっているタイプで、そのまま空いているところから入るしかない。
宿替えするヤドカリのように、寝袋の隙間にアニーが入って来た。
彼女の生足が、俺の肌と重なる。
スベスベだった。
よいしょ、よいしょ、と小さい声で呟きながら彼女が寝袋の奥に入って来る。
やっぱり寝袋の中はギュウギュウで、自然と生足同士が絡み合う。
俺は彼女を腕枕するような形になり、アニーは俺の首元に顔を付ける形になった。
「エルフの夫婦は抱き合って眠るんです。……だから」
と彼女が言った。
うん、と俺が頷く。
俺達はしばらく何も言わず、寝袋の中で抱き合った。
彼女の体は柔らかく、生肌の箇所はスベスベで、なぜか甘い匂いがした。
しばらくしてから彼女が喋り出した。
「……村を出て奴隷商に捕まってから、ずっと孤独でした」
アニーが言う。
うん、と俺は頷く。
「……勇者様のおかげで私は孤独じゃありません」
うん、と俺は頷く。
「ふつつか者ですが、これからよろしくお願いします」
ふつつか者ってどこで覚えて来たんだよ?
「こちらこそ、よろしくお願いします」
アニーと絡んでいる足が、モゾモゾと動いて、俺の太ももを擦った。
「……交尾しますか?」
「えっ?」
「交尾……しますか?」
「それを言えって、チェルシーに言われたの?」
「交尾したら勇者様を幸せにできる、ってチェルシー様に言われました」
アイツ、何を教えてんだよ。帰ったら頭を叩いてやろう。
交尾はしない。日本に帰るチャンスがあった時に愛している人が異世界にいると帰れなくなってしまう。
これをアニーに言うことはできなかった。
彼女を愛せない、ということになってしまうからである。
大切に思っている、とさっき言ったばかりなのだ。
「交尾をするには君は幼すぎるよ」
と俺は言った。
「未成熟な君の子宮を傷つけることがあれば、子どもができなくなってしまう」
「……でも、12歳から結婚できますよ?」
こっちの世界では12歳から結婚ができてしまうのだ。
「ルールが間違っているんだよ。早すぎるんだよ」
「勇者様は結婚しても、交尾はしてくれないのですか?」
「そのうち」と俺は言った。
「いつですか?」
アニーが問い詰めてくる。
俺は交尾をする気が無い。だから出来る限り約束を引き伸ばしたかった。
「20歳」と俺が言った。
「なんで20歳なんですか?」と彼女が尋ねた。
「俺の故郷の成人の年齢だよ」
と俺は言った。
言いながら日本の成人の年齢って18歳に切り替わったんじゃなかったっけ? と思い出す。
「エルフの成人の年齢は16歳です。それじゃあ16歳になったら交尾してください」
「18歳」
と俺は言った。
「なんで18歳なんですか?」
「俺の故郷の成人の年齢だよ」
「20歳じゃなかったんですか? そもそも勇者様の故郷の成人年齢は私には関係ないですよね?」
もしかしてアニーってめちゃくちゃ理論派なの?
グイグイきてヤバい。
「18歳というのは俺が童貞を捨てた歳でもあるんだ」
「15歳」
とアニーが言った。
「年齢が早まっているじゃないか」
「私の父親が童貞を捨てた年です」
「それは関係ないだろう」
「私にとっても勇者様が童貞を捨てた年も関係ありません」
「17歳」と俺が言う。
「どうして17歳なんですか?」
「……理由は無いけど」
「さきほど私の体を心配してくれましたが、エルフは16歳から成長しません。だから16歳でお願いします」
完全に負けた。
「……わかった。16歳」と俺は言った。
交渉がうめぇーな、と俺は純粋に関心していた。
もしかしたら彼女の隠れた才能なのかもしれない。
16歳で交尾をする理由がハッキリとしていた。だから喋っているうちに16歳の年齢が交尾の適齢期のような気がした。
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