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永遠のヒロイン
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俺は映画館ではポップコーンは食べない派である。
あれを上映中にモシャモシャ食べているとポップコーンの方が気になっちゃって、もう映画が頭に入って来ない。ポップコーンの硬い部分が歯に詰まり、移住を決め込んでしまえばポップコーンの謎の硬い部分を舌先でレロレロすることになってしまう。ごめんなさい、そんな事はどうでもいいっすよね。
過去の記憶なのだからアニーの目線の映像になっていないとおかしいのだけど、人間の目線の映像は見ていて酔うから、猫型ロボットの設定で視点は俯瞰《ふかん》になっている。
チェルシー曰く、過去のことを思い出す時、人間は俯瞰《ふかん》して思い出すことができるように、読み込んだ記憶の映像もそれぐらい出来るらしい。
さすが猫型ロボット。そこはお客さんの事を考えてくれている。
俺はアニーの過去の映像を見た。
母親が病気になっているところから映像は始まった。
エルフの全てがそうであるように綺麗なお母さんだった。
髪は金髪で、肌は透き通るように白い。
想像通りのエルフって感じである。ただ耳は尖っていない。
だけど頬が少しだけやつれ、咳き込んでいた。
母親は木で作られたベッドで横になっていた。
掛け布団は無く、藁《わら》に埋もれている。
「大丈夫?」
と心配そうにアニーが尋ねた。
「大丈夫よ」
とお母さんが言う。
でも本当は大丈夫じゃなかった。
村の外に巨大な魔物が現れ、母親に飲ませる薬草が無かったのだ。
狩をするために村から出たエルフ達は帰って来なかった。
村は食糧難に陥り《おちいり》、体調を崩す村人達も現れた。
その1人がアニーの母親だった。
母親は苦しい思いを娘にさせないように、自分が食べられなくてもアニーにだけは食事を与えた。
父親は狩に行って帰って来なかった。
日に日に母親の体調は悪くなっていく。
自分が薬草を取りに行かなくちゃ母親は死んでしまう。
アニーは村の外に出ることを決心した。
「アニー行っちゃダメだよ」
村の外に出ようとした時、少年に呼び止められた。
彼女が振り返ると、そこには2人の少年がいた。
俺は2人の少年の事を知っている。エルフの村に行った時、矢を飛ばして来た2人の少年達である。この子達とアニーはどういった関係だったんだろうか? と呟くとチェルシーが気をきかせて、彼等との思い出を流してくれた。
身長が高い方がケニーという名前で、身長が低い方がユイという名前だった。
2人とも金髪で肌が白い美男子である。
歳が近い3人は兄弟のように育った。
村で歳が近いのは3人だけだった。
エルフは子どもの出産率が低い。長寿だから子どもをバンバンと産みすぎると人口が増えすぎて食糧難になってしまうからである。
だから村に子どもは3人しかいなかった。
どちらかの少年がアニーと結婚するんだろう、と2人は思っていた。だから兄弟のように育ちながらも少年達はライバル関係にあり、アニーは2人の永遠のヒロインだった。
ケニーという少年は彼女よりも3つ年上だった。小さい時からアニーは彼のことをお兄ちゃんのように慕っていた。
少年の後を必死に付いて行っている幼少期のアニーの映像が流れた。
彼女はずっとケニーの背中を追いかけていたのだ。
ケニーは弓が上手く、遠くの獣にも当てることができた。
エルフの狩には必ず弓を使った。そして確実に魔物や獣を仕留めるために矢には魔法が付与された。
仕留める生き物によって矢にかける魔法は異なった。
火の魔法、雷の魔法、氷の魔法、決して強い魔法ではないけど矢の先端にかけることによって攻撃力を出すことができた。
俺達に矢を放って来た時、魔法は付与されていなかった。
もしかしたら彼等は威嚇として飛ばしていただけなのかもしれない。
村に入って来たら殺される。だから出て行ってくれ、そういう思いで俺達に矢を放っていたのかもしれない。
身長の低いユイは3つ年下の男の子だった。弓は得意ではなかったけど、生活魔法が得意だった。
エルフの生活には魔法がかかせなかった。
なにせ水道も無いし、ガスも無いし、電気も無いのだ。
魔法には得意分野という物が存在するけど、ユイは生活魔法の全てを扱うことができた。水を出し、物を冷やし、食べ物を焼き、明かりを付け、汚れを浄化し、寒い時は体を温め、暑い時は体を冷やした。それに彼は土を耕すことも魔法で出来た。
だけど彼は泣き虫で、よくアニーに慰められていた。
狩にユイが付いて行った時、彼だけが遭難したことがある。
彼は小さな洞穴で身を丸めて泣いていた。それを見つけたのはアニーだった。
いつも3人は一緒だった。
それに少年達はアニーの事が好きだった。
だからアニーが薬草を取りに村の外に行こうとした時も付いて行こうとしたのだ。
「お前が行くなら俺も行く」とケニーが行った。
彼は弓と矢を持っていた。
「ぼくも行くよ」と震えながらユイは言った。
エルフは耳が良く、心臓の鼓動まで聞き取ることができるらしい。
心臓の音を聞けばその人の精神状態を読み取ることができる。
相手の気持ちがわかるからエルフは争いが少ない、と聞いたことがある。
アニーも2人の心臓の音を聞いたのかもしれない。
彼女は村の外に行く事をやめた。
だけど夜になり、みんなが寝静まった後、アニーは1人だけ村の外に出た。
母親の薬草を取りに行くために。
あれを上映中にモシャモシャ食べているとポップコーンの方が気になっちゃって、もう映画が頭に入って来ない。ポップコーンの硬い部分が歯に詰まり、移住を決め込んでしまえばポップコーンの謎の硬い部分を舌先でレロレロすることになってしまう。ごめんなさい、そんな事はどうでもいいっすよね。
過去の記憶なのだからアニーの目線の映像になっていないとおかしいのだけど、人間の目線の映像は見ていて酔うから、猫型ロボットの設定で視点は俯瞰《ふかん》になっている。
チェルシー曰く、過去のことを思い出す時、人間は俯瞰《ふかん》して思い出すことができるように、読み込んだ記憶の映像もそれぐらい出来るらしい。
さすが猫型ロボット。そこはお客さんの事を考えてくれている。
俺はアニーの過去の映像を見た。
母親が病気になっているところから映像は始まった。
エルフの全てがそうであるように綺麗なお母さんだった。
髪は金髪で、肌は透き通るように白い。
想像通りのエルフって感じである。ただ耳は尖っていない。
だけど頬が少しだけやつれ、咳き込んでいた。
母親は木で作られたベッドで横になっていた。
掛け布団は無く、藁《わら》に埋もれている。
「大丈夫?」
と心配そうにアニーが尋ねた。
「大丈夫よ」
とお母さんが言う。
でも本当は大丈夫じゃなかった。
村の外に巨大な魔物が現れ、母親に飲ませる薬草が無かったのだ。
狩をするために村から出たエルフ達は帰って来なかった。
村は食糧難に陥り《おちいり》、体調を崩す村人達も現れた。
その1人がアニーの母親だった。
母親は苦しい思いを娘にさせないように、自分が食べられなくてもアニーにだけは食事を与えた。
父親は狩に行って帰って来なかった。
日に日に母親の体調は悪くなっていく。
自分が薬草を取りに行かなくちゃ母親は死んでしまう。
アニーは村の外に出ることを決心した。
「アニー行っちゃダメだよ」
村の外に出ようとした時、少年に呼び止められた。
彼女が振り返ると、そこには2人の少年がいた。
俺は2人の少年の事を知っている。エルフの村に行った時、矢を飛ばして来た2人の少年達である。この子達とアニーはどういった関係だったんだろうか? と呟くとチェルシーが気をきかせて、彼等との思い出を流してくれた。
身長が高い方がケニーという名前で、身長が低い方がユイという名前だった。
2人とも金髪で肌が白い美男子である。
歳が近い3人は兄弟のように育った。
村で歳が近いのは3人だけだった。
エルフは子どもの出産率が低い。長寿だから子どもをバンバンと産みすぎると人口が増えすぎて食糧難になってしまうからである。
だから村に子どもは3人しかいなかった。
どちらかの少年がアニーと結婚するんだろう、と2人は思っていた。だから兄弟のように育ちながらも少年達はライバル関係にあり、アニーは2人の永遠のヒロインだった。
ケニーという少年は彼女よりも3つ年上だった。小さい時からアニーは彼のことをお兄ちゃんのように慕っていた。
少年の後を必死に付いて行っている幼少期のアニーの映像が流れた。
彼女はずっとケニーの背中を追いかけていたのだ。
ケニーは弓が上手く、遠くの獣にも当てることができた。
エルフの狩には必ず弓を使った。そして確実に魔物や獣を仕留めるために矢には魔法が付与された。
仕留める生き物によって矢にかける魔法は異なった。
火の魔法、雷の魔法、氷の魔法、決して強い魔法ではないけど矢の先端にかけることによって攻撃力を出すことができた。
俺達に矢を放って来た時、魔法は付与されていなかった。
もしかしたら彼等は威嚇として飛ばしていただけなのかもしれない。
村に入って来たら殺される。だから出て行ってくれ、そういう思いで俺達に矢を放っていたのかもしれない。
身長の低いユイは3つ年下の男の子だった。弓は得意ではなかったけど、生活魔法が得意だった。
エルフの生活には魔法がかかせなかった。
なにせ水道も無いし、ガスも無いし、電気も無いのだ。
魔法には得意分野という物が存在するけど、ユイは生活魔法の全てを扱うことができた。水を出し、物を冷やし、食べ物を焼き、明かりを付け、汚れを浄化し、寒い時は体を温め、暑い時は体を冷やした。それに彼は土を耕すことも魔法で出来た。
だけど彼は泣き虫で、よくアニーに慰められていた。
狩にユイが付いて行った時、彼だけが遭難したことがある。
彼は小さな洞穴で身を丸めて泣いていた。それを見つけたのはアニーだった。
いつも3人は一緒だった。
それに少年達はアニーの事が好きだった。
だからアニーが薬草を取りに村の外に行こうとした時も付いて行こうとしたのだ。
「お前が行くなら俺も行く」とケニーが行った。
彼は弓と矢を持っていた。
「ぼくも行くよ」と震えながらユイは言った。
エルフは耳が良く、心臓の鼓動まで聞き取ることができるらしい。
心臓の音を聞けばその人の精神状態を読み取ることができる。
相手の気持ちがわかるからエルフは争いが少ない、と聞いたことがある。
アニーも2人の心臓の音を聞いたのかもしれない。
彼女は村の外に行く事をやめた。
だけど夜になり、みんなが寝静まった後、アニーは1人だけ村の外に出た。
母親の薬草を取りに行くために。
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