上 下
25 / 56
2章 赤ちゃんと孤児とオークキング

第25話 ガンガンレベル上げして私達を守ってね

しおりを挟む
 俺はオークが持っていた錆びた剣を拾った。殺された少年の持ち物なんだと思う。
 俺が剣を拾った瞬間にみるみる剣に錆びが無くなって綺麗になっていった。
 俺は驚いた。なぜ錆びた剣が新品になっていくんだろうか? ‥‥思い当たる節が一つだけあった。
『経済』というパッシブスキルがある。ドロップアイテムが高価になる、というモノである。
 もしかしたらドロップアイテム‥‥戦利品は質が良くなるのかもしれない。

 3人も目を丸くして、新品になった剣を見つめていた。
「コレはクロスが使え」と俺は言って彼に剣を渡した。
「ありがとう」と彼は小さく呟いた。

 それから俺はオークの首にぶら下げられていた2人の少年の頭を外した。
 頭部の側面に穴が開けられている。その穴に紐を通してネックレスにしていた。
『経済』の高価は少年の頭部には作用しなかった。
 だけど紐の品質だけは良くなった。
 もしかしたら金銭になるモノは質が良くなるけど、金銭にならないモノは質が良くならないのかもしれない。
 2人の少年の頭部は、怯えていた。
 
 アイリとマミが泣きそうな顔をして、コチラに手を伸ばした。
 2人の少年の頭部を彼女達に渡す。
 彼女達はうずくまるように頭部を抱きしめて泣いた。クロスも少女達のところへ行き、頭部に触れた。

 俺は3人を横目にオークの左耳を切った。討伐の証拠として左耳を冒険者ギルドに提出しないといけないのだ。
 そしてオークの胸を小刀で切り裂き、心臓を取り出した。空気に触れた心臓は結晶化していく。これが魔力石である。

 2人の少年の頭部は門の近くに埋めた。いつでもお墓参りが出来るように。
 クロスとマミとアイリは泣きながら土を堀り、頭部を埋めていた。
 そして俺達は街に戻った。

「先生、ごめん」とアイリが震えた声で言う。
「どうしたの?」と俺は尋ねた。
「せっかく買ってもらった服を汚しちゃった」とアイリが言った。
 アイリの緑色の服には、赤い血がついていた。
 クロスとマミも自分の服の状況を確認した。マミは赤い服だから血がわかりにくいけど、クロスの服は汚れていた。
「洗い替えを買ったらいい」と俺が言う。

 冒険者ギルドに行く。
 オーク討伐の報酬は、金貨2枚だった。
 そして魔法石も売った。すごく質が良い、と評価されたオークの魔法石は金貨2枚だった。

 3人に1枚ずつ金貨を渡した。
「今日のご飯代と服代を先生に返す」とクロスが言う。
「私も」と2人の少女が言った。
 これじゃあ俺が貰いすぎだ、と俺は思った。
「それじゃあ、こうしよう。この金貨で3人の服を、もう一着ずつ買ってあげる。それと晩ご飯はウチで食べて帰りなさい」と俺が言う。

「先生」と小さくマミが手をあげて言った。「私もいいの?」
 討伐の役に立ってないけどいいのか? と彼女は聞いているのだろう。
「もちろん」と俺は答えた。
「次からは食事代を引いた4等分した金額が君達の報酬になる」
 と俺が言う。
 3人には美子さんの料理を毎日食べてほしかった。美子さんの料理には特別な力があるのだ。そのおかげで俺は、この世界に来てから病気や怪我で苦しめられたことがないのだ。
「うん」と3人が嬉しそうに頷いた。
 後で一食の値段を美子さんに聞こう。

 冒険者ギルドはお酒も提供している。テーブルには冒険者稼業をやっている者達が酒を飲んでいた。そんな飲んだくれの集団が嫌なことを語っているのを耳にする。
「この国の騎士団達はオークキングに負けて、帰って来ているらしいぞ」「それじゃあこの国もオークキングに攻められるのも時間の問題じゃねぇーか」「逃げるなら今か?」「どこに逃げるんだよ。隣の国も危険度は一緒だろう」
 テーブルのあちこちで似たような話題を冒険者達がしていた。
 
 冒険者ギルトを出ると古着屋に行った。3人は今着ている服と似たような服を購入した。別に好きなモノを買っていいんだよ? と俺は言ったけど、選択肢が多すぎてよくわからん、同じモノでお願いしまーす、みたいなノリだった。
 そして3人を家に招いて晩御飯を食べた。妻は彼等を連れて来るのを見越して多めに作ってくれていた。
 これから先も彼等と一緒にご飯を食べることを美子さんに伝えた。食事代を引いたお金を彼等に報酬として渡す旨も伝えた。
 美子さんは3人が泊まれるように2階も片付けていた。だけど3人は泊まらなかった。家に仲間が帰って来た時に自分達がいないと探し回るかもしれないから、という事で、あのボロボロの孤児院に帰らなくてはいけない。
 他の仲間は森に出かけて以来、帰って来ていないらしい。
 ご飯を食べ終えると美子さんの指示で3人は食器の洗い方を教わっていた。自分で食べた食器は自分で洗う。子ども達が食器を洗っているから俺も自分の分の食器は自分で洗った。

「先生、ありがとう」
 とクロスが手を振った。
「気をつけて帰り」と俺が言う。
「はい」とマミが元気よく返事をした。
「明日も赤ちゃんをいっぱい抱っこさせてね」とアイリが言った。
 そして3人は仲間の帰りを待つために、あのボロボロの孤児院に帰ってしまった。

 俺はネネちゃんを抱っこしていた。
 小さな生き物が俺の服にしがみついている。
 俺は片腕でネネちゃんを抱っこして、片腕で美子さんの背中をさすった。
「あの子達を受け入れてくれてありがとう」
 と俺は言った。
「あの歳の子達を私は教えていたのよ」
 と彼女が言った。
 本当の先生は彼女なのだ。
「育児で大変なのに美子さんの仕事を増やしてごめん」
 と俺は言った。
 俺は赤の他人の食事を彼女に作らせているのだ。
「別にかまわないわよ」
 とニッコリと美子さんが言った。
 ネネちゃんが俺の腕の中で眠っている。
「これから俺は3人とレベル上げをして強くなる」と俺は宣言した。
 飲んだくれの冒険者が言っていた事が頭を過ぎる。だけど美子さんを不安にさせるだけだから言わなかった。
「レベルは上がったの?」と彼女が尋ねた。
「上がったよ」
「それじゃあ強くなれるじゃない。ガンガンレベル上げして私達を守ってね」と美子さんが微笑んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生貴族可愛い弟妹連れて開墾します!~弟妹は俺が育てる!~

桜月雪兎
ファンタジー
祖父に勘当された叔父の襲撃を受け、カイト・ランドール伯爵令息は幼い弟妹と幾人かの使用人たちを連れて領地の奥にある魔の森の隠れ家に逃げ込んだ。 両親は殺され、屋敷と人の住まう領地を乗っ取られてしまった。 しかし、カイトには前世の記憶が残っており、それを活用して魔の森の開墾をすることにした。 幼い弟妹をしっかりと育て、ランドール伯爵家を取り戻すために。

~最弱のスキルコレクター~ スキルを無限に獲得できるようになった元落ちこぼれは、レベル1のまま世界最強まで成り上がる

僧侶A
ファンタジー
沢山のスキルさえあれば、レベルが無くても最強になれる。 スキルは5つしか獲得できないのに、どのスキルも補正値は5%以下。 だからレベルを上げる以外に強くなる方法はない。 それなのにレベルが1から上がらない如月飛鳥は当然のように落ちこぼれた。 色々と試行錯誤をしたものの、強くなれる見込みがないため、探索者になるという目標を諦め一般人として生きる道を歩んでいた。 しかしある日、5つしか獲得できないはずのスキルをいくらでも獲得できることに気づく。 ここで如月飛鳥は考えた。いくらスキルの一つ一つが大したことが無くても、100個、200個と大量に集めたのならレベルを上げるのと同様に強くなれるのではないかと。 一つの光明を見出した主人公は、最強への道を一直線に突き進む。 土曜日以外は毎日投稿してます。

そよ風と蔑まれている心優しい風魔法使い~弱すぎる風魔法は植物にとって最高です。風の精霊達も彼にべったりのようです~

御峰。
ファンタジー
才能が全てと言われている世界で、両親を亡くしたハウは十歳にハズレ中のハズレ【極小風魔法】を開花した。 後見人の心優しい幼馴染のおじさんおばさんに迷惑をかけまいと仕事を見つけようとするが、弱い才能のため働く場所がなく、冒険者パーティーの荷物持ちになった。 二年間冒険者パーティーから蔑まれながら辛い環境でも感謝の気持ちを忘れず、頑張って働いてきた主人公は、ひょんなことからふくよかなおじさんとぶつかったことから、全てが一変することになる。 ――世界で一番優しい物語が今、始まる。 ・ファンタジーカップ参戦のための作品です。応援して頂けると嬉しいです。ぜひ作品のお気に入りと各話にコメントを頂けると大きな励みになります!

聖女やめます……タダ働きは嫌!友達作ります!冒険者なります!お金稼ぎます!ちゃっかり世界も救います!

さくしゃ
ファンタジー
職業「聖女」としてお勤めに忙殺されるクミ 祈りに始まり、一日中治療、時にはドラゴン討伐……しかし、全てタダ働き! も……もう嫌だぁ! 半狂乱の最強聖女は冒険者となり、軟禁生活では味わえなかった生活を知りはっちゃける! 時には、不労所得、冒険者業、アルバイトで稼ぐ! 大金持ちにもなっていき、世界も救いまーす。 色んなキャラ出しまくりぃ! カクヨムでも掲載チュッ ⚠︎この物語は全てフィクションです。 ⚠︎現実では絶対にマネはしないでください!

元外科医の俺が異世界で何が出来るだろうか?~現代医療の技術で異世界チート無双~

冒険者ギルド酒場 チューイ
ファンタジー
魔法は奇跡の力。そんな魔法と現在医療の知識と技術を持った俺が異世界でチートする。神奈川県の大和市にある冒険者ギルド酒場の冒険者タカミの話を小説にしてみました。  俺の名前は、加山タカミ。48歳独身。現在、救命救急の医師として現役バリバリ最前線で馬車馬のごとく働いている。俺の両親は、俺が幼いころバスの転落事故で俺をかばって亡くなった。その時の無念を糧に猛勉強して医師になった。俺を育ててくれた、ばーちゃんとじーちゃんも既に亡くなってしまっている。つまり、俺は天涯孤独なわけだ。職場でも患者第一主義で同僚との付き合いは仕事以外にほとんどなかった。しかし、医師としての技量は他の医師と比較しても評価は高い。別に自分以外の人が嫌いというわけでもない。つまり、ボッチ時間が長かったのである意味コミ障気味になっている。今日も相変わらず忙しい日常を過ごしている。 そんなある日、俺は一人の少女を庇って事故にあう。そして、気が付いてみれば・・・ 「俺、死んでるじゃん・・・」 目の前に現れたのは結構”チャラ”そうな自称 創造神。彼とのやり取りで俺は異世界に転生する事になった。 新たな家族と仲間と出会い、翻弄しながら異世界での生活を始める。しかし、医療水準の低い異世界。俺の新たな運命が始まった。  元外科医の加山タカミが持つ医療知識と技術で本来持つ宿命を異世界で発揮する。自分の宿命とは何か翻弄しながら異世界でチート無双する様子の物語。冒険者ギルド酒場 大和支部の冒険者の英雄譚。

最底辺の転生者──2匹の捨て子を育む赤ん坊!?の異世界修行の旅

散歩道 猫ノ子
ファンタジー
捨てられてしまった2匹の神獣と育む異世界育成ファンタジー 2匹のねこのこを育む、ほのぼの育成異世界生活です。 人間の汚さを知る主人公が、動物のように純粋で無垢な女の子2人に振り回されつつ、振り回すそんな物語です。 主人公は最強ですが、基本的に最強しませんのでご了承くださいm(*_ _)m

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜

桜井正宗
ファンタジー
 能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。  スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。  真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。

処理中です...