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過去編④ 予兆
Side Story 6 - Boy Gets Mad at Boys
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幸がいなくなって、俺らはクラブ中を探し回った。トイレ、ラウンジ、バー、幸が行きそうなところを手分けして探したけど幸はいない。幸が黙ってクラブを出て行くとは思えないから、ここにいるはず。ここにいないってことは、何かあったってことだ。もしクラブの外に連れ去られてたらと思うと気が気じゃないが、まずはクラブ内を探すのが先だ。
ダンスフロアには人が多すぎて、幸ひとりを虱潰しに探すには時間が掛かり過ぎる。それならと、俺はDJブースに押し入ってDJのマイクを奪った。
「ちょ、お前なにやって、」
「幸! 幸! 聞こえてたら返事しろ、幸! 幸ー!」
突然の乱入にざわつくフロアに俺の焦った声が響く。
「おい誰か、幸見なかったか、幸。俺と同じくらいの歳で、白いシャツ着てて、背は、……ちっ、離せよっ!」
慌ててやって来たセキュリティに取り押さえられても、マイクだけは離さなかった。
「畜生! 誰でもいい、幸がどこ行ったか見たやつはいねえのかよっ!」
「啓、この子たち、幸ちゃん見たって。男に殴られてどっかに連れて行かれたって」
「おい、それ、嘘じゃねえだろうな?」
「ちょっと、啓。この子たち脅してどうすんの」
「他のやつらもそう言うてるから間違いないで、啓。連れてかれたんはあっちの方や」
瑠偉が指差した先には、クラブの地下にあるVIPルームへの専用エレベーターがある。
「そこだ」
騒ぎを聞きつけて現れたクラブのオーナーに事情を説明して合鍵を貰い、片っ端からVIPルームを開けて回った。
果たして、三つ目に開けた部屋に幸はいた。
「幸っ!!!」
幸からの返事はない。薄暗い部屋にだらりと垂れた幸の白い腕だけが見えた。
「幸……」
幸は確かにここにいる。ほっとしたのは一瞬だった。
部屋が明るくなって男三人に押さえつけられている半裸の幸が目に入った瞬間、俺はそいつらに殴り掛かっていた。
「ちょ、啓! そんなやつらより、幸ちゃん病院連れてくのが先! 啓ってば!」
「啓っ、やりすぎや! そいつら死んでまうぞ! 啓! アホ! 言うこと聞けや!」
瑠偉に殴られて、俺も殴り返した。俺と瑠偉の殴り合いは、煌が呼んだ救急車が来るまで続いた。
幸は気を失ってたけど外傷はなかった。幸のことは心配だけど、病院へ付き添う役目は煌に頼んだ。行先は煌の親父さんがやってる病院だ。煌が一緒のほうが何かと都合がいいだろう。俺はクラブに残ってやるべきことを済ませてから病院へ向かうつもりだった。
オーナーの部屋を訪ねると、案の定、幸を襲った三人はロープで縛られて床に転がされていた。瑠偉に力尽くで止められてなかったら、俺はこいつらを殴り殺してただろう。
「兄さん」
そう呼び掛けると、オーナーは意外そうに眉を上げた。
「久しぶりだな、その呼び方」
「大事な従弟に甘えられて嬉しいだろ?」
「で? 何が望みだ、啓」
「そいつらを警察に引き渡す」
「可愛い従弟の頼みでもそれはできない」
「どうしても?」
「ああ。大体、お前だって警察沙汰になっていいことなんてないだろう?」
「俺が未成年で酒飲んでたり、こいつら殴り倒したり?」
「そうだ。わかってるなら、」
「もう警察には連絡したから」
「なんだって?」
「もうすぐここへ来るよ。こいつら捕まえに」
「馬鹿なことを……そんなことしたら啓お前だって面倒なことになるぞ」
「兄さんも捕まっちゃうかな? 未成年に酒出してたクラブのオーナーだもんな」
「啓! お前いい加減にし、」
「うそうそ。兄さん、大丈夫だって。俺らに都合悪いことは全部もみ消すから」
「な、なに言って……」
「こいつら絶対に許さねえ。傷害罪で刑務所送りにしてやる。示談なんか絶対にしねえよ、兄さん」
どうせ兄さんは金で解決しようと思ってたんだろうけど、そうはいかない。
黙り込んだ兄さんを尻目に、男たちに向き直る。
「お前ら知ってる? 傷害の刑罰は十五年以下の懲役。お前らの場合は何年つくかなー」
「な、……お、お前が殴ったんじゃねえか。お前が一方的に俺らを殴ったんだろうがっ」
「そうだそうだ。傷害罪で捕まるのはお前だ」
「俺らはただあいつに酒飲ませただけ、……ぅぐっ」
「あ、足が滑った」
その汚い口で幸のことを語るんじゃねえ。
「幸いにも俺、ダチにかなり殴られたんだわ。超痛いからアバラ数本はやっちゃってる。まあ俺もそいつ殴り倒したから、お互いさまだけど。だから俺とそいつはお前らに殴られて、身を守るためにお前ら殴り返したことにするわ。正当防衛ってやつ?」
「は? な、なに言って、」
「最後まで聞けよ、まだ終わってねえから。そんでまたまた幸いなことに、そいつの親父さんは警察のお偉いさんでさ。俺らに都合が悪いことは全部もみ消してくれるって」
「ば、バカな……そんなことできるわけ……」
「できるんだよ。権力も財力もあるやつ敵に回すと怖いって、知らなかった? 俺の大事なもんに手ぇ出したお前らがバカだったってわけ。人生終わっちゃったな、かわいそー」
タイミングよく瑠偉に先導された警察がやって来て、三人は逮捕された。
「啓、さっき言ってた、都合が悪いことは全部もみ消すとかっていうのは……」
「瑠偉の親父さんが警察のお偉いさんってのはほんとの話。あとは俺の願望」
「いや、うちのおとん、やる気満々やったで? まあ、なかったことをでっち上げるわけちゃうしな。あいつら幸ちゃんのこと殴ってるし、無理やり酒飲ませて失神させてるし、明らかにレイプしよとしてたしな。幸ちゃんがどうしたいかが一番大事やけど、傷害罪で起訴できるやろって」
そこへ煌から電話が入り、幸は眠っているだけで危険な状態ではないと告げられて、俺はやっと安堵の息を吐いた。
ダンスフロアには人が多すぎて、幸ひとりを虱潰しに探すには時間が掛かり過ぎる。それならと、俺はDJブースに押し入ってDJのマイクを奪った。
「ちょ、お前なにやって、」
「幸! 幸! 聞こえてたら返事しろ、幸! 幸ー!」
突然の乱入にざわつくフロアに俺の焦った声が響く。
「おい誰か、幸見なかったか、幸。俺と同じくらいの歳で、白いシャツ着てて、背は、……ちっ、離せよっ!」
慌ててやって来たセキュリティに取り押さえられても、マイクだけは離さなかった。
「畜生! 誰でもいい、幸がどこ行ったか見たやつはいねえのかよっ!」
「啓、この子たち、幸ちゃん見たって。男に殴られてどっかに連れて行かれたって」
「おい、それ、嘘じゃねえだろうな?」
「ちょっと、啓。この子たち脅してどうすんの」
「他のやつらもそう言うてるから間違いないで、啓。連れてかれたんはあっちの方や」
瑠偉が指差した先には、クラブの地下にあるVIPルームへの専用エレベーターがある。
「そこだ」
騒ぎを聞きつけて現れたクラブのオーナーに事情を説明して合鍵を貰い、片っ端からVIPルームを開けて回った。
果たして、三つ目に開けた部屋に幸はいた。
「幸っ!!!」
幸からの返事はない。薄暗い部屋にだらりと垂れた幸の白い腕だけが見えた。
「幸……」
幸は確かにここにいる。ほっとしたのは一瞬だった。
部屋が明るくなって男三人に押さえつけられている半裸の幸が目に入った瞬間、俺はそいつらに殴り掛かっていた。
「ちょ、啓! そんなやつらより、幸ちゃん病院連れてくのが先! 啓ってば!」
「啓っ、やりすぎや! そいつら死んでまうぞ! 啓! アホ! 言うこと聞けや!」
瑠偉に殴られて、俺も殴り返した。俺と瑠偉の殴り合いは、煌が呼んだ救急車が来るまで続いた。
幸は気を失ってたけど外傷はなかった。幸のことは心配だけど、病院へ付き添う役目は煌に頼んだ。行先は煌の親父さんがやってる病院だ。煌が一緒のほうが何かと都合がいいだろう。俺はクラブに残ってやるべきことを済ませてから病院へ向かうつもりだった。
オーナーの部屋を訪ねると、案の定、幸を襲った三人はロープで縛られて床に転がされていた。瑠偉に力尽くで止められてなかったら、俺はこいつらを殴り殺してただろう。
「兄さん」
そう呼び掛けると、オーナーは意外そうに眉を上げた。
「久しぶりだな、その呼び方」
「大事な従弟に甘えられて嬉しいだろ?」
「で? 何が望みだ、啓」
「そいつらを警察に引き渡す」
「可愛い従弟の頼みでもそれはできない」
「どうしても?」
「ああ。大体、お前だって警察沙汰になっていいことなんてないだろう?」
「俺が未成年で酒飲んでたり、こいつら殴り倒したり?」
「そうだ。わかってるなら、」
「もう警察には連絡したから」
「なんだって?」
「もうすぐここへ来るよ。こいつら捕まえに」
「馬鹿なことを……そんなことしたら啓お前だって面倒なことになるぞ」
「兄さんも捕まっちゃうかな? 未成年に酒出してたクラブのオーナーだもんな」
「啓! お前いい加減にし、」
「うそうそ。兄さん、大丈夫だって。俺らに都合悪いことは全部もみ消すから」
「な、なに言って……」
「こいつら絶対に許さねえ。傷害罪で刑務所送りにしてやる。示談なんか絶対にしねえよ、兄さん」
どうせ兄さんは金で解決しようと思ってたんだろうけど、そうはいかない。
黙り込んだ兄さんを尻目に、男たちに向き直る。
「お前ら知ってる? 傷害の刑罰は十五年以下の懲役。お前らの場合は何年つくかなー」
「な、……お、お前が殴ったんじゃねえか。お前が一方的に俺らを殴ったんだろうがっ」
「そうだそうだ。傷害罪で捕まるのはお前だ」
「俺らはただあいつに酒飲ませただけ、……ぅぐっ」
「あ、足が滑った」
その汚い口で幸のことを語るんじゃねえ。
「幸いにも俺、ダチにかなり殴られたんだわ。超痛いからアバラ数本はやっちゃってる。まあ俺もそいつ殴り倒したから、お互いさまだけど。だから俺とそいつはお前らに殴られて、身を守るためにお前ら殴り返したことにするわ。正当防衛ってやつ?」
「は? な、なに言って、」
「最後まで聞けよ、まだ終わってねえから。そんでまたまた幸いなことに、そいつの親父さんは警察のお偉いさんでさ。俺らに都合が悪いことは全部もみ消してくれるって」
「ば、バカな……そんなことできるわけ……」
「できるんだよ。権力も財力もあるやつ敵に回すと怖いって、知らなかった? 俺の大事なもんに手ぇ出したお前らがバカだったってわけ。人生終わっちゃったな、かわいそー」
タイミングよく瑠偉に先導された警察がやって来て、三人は逮捕された。
「啓、さっき言ってた、都合が悪いことは全部もみ消すとかっていうのは……」
「瑠偉の親父さんが警察のお偉いさんってのはほんとの話。あとは俺の願望」
「いや、うちのおとん、やる気満々やったで? まあ、なかったことをでっち上げるわけちゃうしな。あいつら幸ちゃんのこと殴ってるし、無理やり酒飲ませて失神させてるし、明らかにレイプしよとしてたしな。幸ちゃんがどうしたいかが一番大事やけど、傷害罪で起訴できるやろって」
そこへ煌から電話が入り、幸は眠っているだけで危険な状態ではないと告げられて、俺はやっと安堵の息を吐いた。
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