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2.王都書生編

閑話 専属魔法師の復命と恋愛トークと苦笑

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 少し、時間が遡る。
 アルフレッドが復興計画案を考えている頃の王都

 第三王女専属魔法師のシルフェ・アンダーソンは第三王女アリア・フランドへ復命を行っていた。

 アリアは、いつもの庭園の景色を見ながら、紅茶を楽しんでいる。
 今いる王城の奥まった場所にある、お気に入りのサロンで、いつものメンバー、第三王女付護衛騎士1名、専属メイド2名、そして、学生時代からの友人で、魔術大学校を主席で卒業した優秀な専属魔法師と一緒にいる。

 シルフェは、アリアと学生時代からの付き合いであるため、4名の中で一番心を許されており、周りも、その気安い関係を認めていた。

 そんな身内だけのくつろいだ雰囲気の中、シルフェの報告を聞く。

 「殿下。パルスキーについて、残念ながら財務閥の弱みを握ることはかないませんでした。事前に報告書にて記載した通り、エクリン家の次期当主チャールズ殿が自ら出ばり、不正と腐敗を断罪しました。黒幕の代官、御用商人は既に逮捕・拘束されており、手足となって実行していた獅子の牙も、幹部連中はすでに処断され、壊滅状態です」

 シルフェはアルフとの約束を守り、自分も不正の断罪に手をかした等と、アリアへ余計な報告は控えた。

 「シルフェ。長きに渡っての内偵ご苦労様でした。パルスキーの不正の件は、ネズミが如く、すばやい階位三位の財務次官殿から、国王陛下へ直に報告をあげたそうです。自浄作用で解決させたのだから、仕置きは内々にすませることでお父様もすでに許可なさったそうです。シルフェには手間をかけて申し訳ないことをしましたが、姉さまと話をして、これ以上パルスキーを探っても益がないこととなりました」

 「いえ。もったいないお言葉で恐縮です。殿下。それにしても、財務次官殿が、自ら財務閥の恥部を国王陛下へご報告されるとは。インフォ殿はなんとも目端が利くお方ですね。」

 「ええ。まったく。最小の被害で済むよう手はずを整えて、「裏」を「表」に転ずるなんて、してやられたわ」

 第三王女のアリア・フランドは、財務次官インフォ卿の素早い行動で、結局、今回、財務閥の弱みを握れなかった事に対して、忌々しさを感じ、ほんの一瞬だけ、眉間に皺を寄せた。

 「ところで、シルフェ。内偵の仕事明けにしては、珍しく機嫌が良いようだけど、パルスキーでなにかあったのかしら?」

 アリアは王族としての教育を受けてきたため、感情の切り替えが素早い。インフォ卿の事はすぐに心の奥にしまい込んだ。その際に、ふと、長期間王都を離れた際の復命時には、自分の腹心がいつもは、ピリピリした雰囲気を漂わせ、そして猛々しい魔素を纏うのに、今日は、珍しく、穏やかな雰囲気で復命していること気が付いた。

 「い、いえ、特にこれといって」

 アリアの直感が働いた。

「わかったわ。男ね!」

 いたずらっ子のような表情で、アリアは言う。

 シルフェはアリアのセリフに、自分の顔だけでなく首まで火照ってきていることを感じた。

 護衛騎士は、いつものアリアとシルフェの恋愛トークがはじめるのを予感して苦笑いする。

 「旅先で恋に落ちてきたのね。あなた。学生時代から男の影がないと思っていたら、意外に隅に置けないわね。どんな相手なの?白状なさいな。シルフェ」

 こうなるとアリアは聞き出すまで止まらない。シルフェは、観念して、内偵中に出会ったエクリン家書生のアルフレッド・プライセンについて報告する。せめてもの抵抗で、恋愛トークにならないようできる限り仕事調で報告するにように説明する。

 「プライセン子爵家の三男ねぇ。当代のエルモ・プライセン卿は武名に聞こえた貴族だったわね、確か。先日のシスプチン王国の飛竜騎士とオークの襲来も寡兵で見事撃退し、お父様から褒賞をもらっていたわね」

 シルフェは王都に戻ってから、アリアへ復命するまでの短い間に、時間が許す限り、プライセン子爵家やアルフレッドのことを、伝手を使って丹念に調べ上げていた。先日のシスプチン王国の急襲の際、軍監として派遣されたテリトー卿の報告書も王女専属魔法師の権限を使って、閲覧し、味方の5倍以上の兵力差で、かつ飛竜とオークの精鋭を、魔法師もいない状況で、アルフが見事、撃退していたことに言葉がでなかった。

 「殿下。その飛竜騎士とオークの精鋭部隊を実際、追い払ったのは、アルフ君です。軍監のテリトー中佐の報告書を確認しました」

 「シルフェ。アルフ「くん」? 愛称で呼んでいるなんて、すっかり懇意になったようね」

 「い、いえ。失礼しました。ただ、パルスキーで会った時に思ったのですが、当人は、底が見えないというか、とても12歳に思えなくって」

 アリアがとっさに真面目な顔つきをつくり、

「シルフェ。主君でなく、友達として言うわね。人の趣味にケチをつけるつもりはないの。私は貴方に幸せになってもらいたいだけなのよ。よければ、私がプライセン子爵家へ話を通してもよいのよ。だけど、ショタはいただけないわ。そのアルフ君が成長するまで、あと3年は待ちなさい」

 「で、で、殿下。わ、わ、私は真面目にお話申し上げているのです!!」

 シルフェは真っ赤になってアリアに反論しようとするが、アリアが笑いながら謝る。

 「フフフフフ。シルフェ。ごめんなさい。あなたがあまりにも幸せそうな顔だったので、つい、からかってしまったわ。それで、そのアルフ君はどのくらい使えそうなの?」

 シルフェは、恥ずかしさで、言葉に詰まりそうになるが、表情を引き締めて真面目なトーンでアリアに報告する。

「正直に申し上げて、情報収集力は私より上です。作戦参謀としても非常に優秀です。突破力、洞察力、立案力、指揮力も申し分ありません。それと、当人は、魔法は使えないと言っていましたが、意図的に隠している可能性があります」

 「あなたほどの魔法師でも、魔法の痕跡探知ができないということなの?」

 「はい。魔法の痕跡は調べた限り、確認できませんでした。ただ、なんとなく違和感があるというか、なにか未知の力を行使している可能性があります。いずれにしろ、今のスペック、将来性を考えると、彼ほどの逸材を見逃す手はありません。他の陣営からの手が付く前に、早急に抱え込むことを進言いたします」

 「なるほどね。確か書生といったわね。シルフェ。あなた、そのアルフ君を口説けるかしら?もちろん、仕事上の意味よ。」

 「は、はい!もちろんです。お任せください」

 「そうしたら、戻ったばかりで悪いけど、しばらくまた内偵にでてくれるかしら?行先は行政大学校よ。講師としての役職をすぐ用意するから、プライセン子爵家の三男を懐柔してきなさい。魔法大学校の俊才のあたなが、そんなにもご執心なんて初めてのことだから、卒業後は、ぜひ私たちの派閥に組み込みたいわね」

 「同じ王都内での活動ですので、定期的に、ご報告にあがります」

 シルフェのやる気のある返事を聞き、アリアはニヤッと笑った後、真面目の表情をつくった。

 「色気で誘惑するまでは良いけど、身体の重ねるのは、3年ほど自重しなさいね。もしどうしても、雰囲気に流されて、やむを得ない場合は、避妊することだけは忘れないように」

 「で、で、殿下!な、な、なにをおっしゃいます」

 シルフェは真っ赤になりながらも、またアルフに行政大学校で再会できるのを楽しみに感じていた。
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