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2.王都書生編

18.内政を楽しむことのススメ

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 俺は、この数日間徹夜で考えた再建案について熱弁をふるう。しかし、ジャームスさんとチャールズさんはなかなか首を縦に振らない。

 「アルフ君。君の再掲案がよくまとまっているのは認めるよ。原因と対策の一貫性もあるしスピード感も感じる。だけど、恥をさらすようだけど、我が家の家計は火の車でね。貸与住宅、住民の税の一部免除、「パトリ」への賃金支払い、そんな莫大な予算を組める余裕はないんだよ」

 とジャームスさん。

 「御用商人のレングと賄賂代官のゴットンの不正蓄財を没収したので、それを財源にあてることができるのではないでしょうか?」

 俺も粘り、なんとかパルスキーの再建を迅速に進めたい。

 「不正蓄財を当てれば、我が家はスッカラカンになる。鼻血もだせない。そんな時に万が一、災害などの緊急事態が起きでもしたら、我が家は破産だよ」

 と、今度は、会計局、お金の専門家のチャールズさんも攻めてきた。

 「それと、今回の件を、大臣や次官に「穏便に済ますよう便宜をはかってほしい」、と頼んだ時に、財務閥の汚点になるから、敵対派閥に攻撃されないとも限らないので、急ぎ借財を減らすように条件を付けられているんだよ。大臣や次官の手前、先に借金をいくらかでも返済してからでないと、エクリン家は立ち行かないのが、辛いところだ」

 と、ジャームスさんが、財務閥の内情まで、打ち明けてきた。
 
 確かに、俺の計画だと、俺がネコババしたレングの不正蓄財もあわせてつぎ込んで、やっと賄える予算規模だ。その代わり、一気にパルスキーを再建し税収を回復させ、今後の町の発展を見越せば、10年でエクリン家の借財を返済できる見込みだった。

 事業規模拡張を優先するか、先に借金返済を優先するか。




 深夜まで白熱し議論を重ねたが、結局、財務閥の大臣や次官に助けてもらった手前、意向には逆らえないので、俺の案の1/3の規模でまずは再建計画を実施することとなった。

 しがらみの辛いところだ。

 俺の試算だと、エクリン家の借金返済は、今後、35年かかる。そのころにはジャームスさんは死出は旅立ち、チャールズさんはおじいちゃんになっているだろう。なので、ジュリちゃんの子供の代でようやくジャームスさんの先代のツケから解放されることとなる。

 祖父の放蕩でひ孫までが苦しむ、とは。
 じーさんよ、子孫に祟るね。

 
 
 一息いれたところで、チャールズさんの奥さんのエスタさんがお茶を入れてくれた。
 数週間ぶりにあったけど、やっぱり、エスタさん、母乳のニオイがする。母の匂い。癒されるなー。

 おっと、こっそり「クンクン」したことがバレたか、距離を少しをあけられてしまった。

 翌日、新しく代官になったチャールズさんの従弟 真面目だけが取り柄のハワードさんと復興計画の実行の分担について、話し合いを行った。

 ハワードさんもエクリン家の血筋だけあって、バリバリのインドア派。真面目で細かいところまで配慮ができる人みたいだ。だけど、荒事は大変苦手ということなので、「パトリ」、「赤獅子」などの元獅子の牙のやつらにあったら、鼻水たらしながら、ビビってしまいそうだ。仕方ないので、治安関係は俺が受け持つことになった。トビアスにいっぱい働いてもらおう。








『どうじゃ?主殿よ。自信のほどは。』

 エクスが聞いてくる。
 今日は、町の復興計画を立案・実行を開始してから、4か月目の犯罪発生件数の報告があがってくることになっている日だ。税収全体の回復は、まだ正確には見ることができないが、事業主からの税収は、順調に伸びている。

 そのため、一番インパクトの大きい、治安の状況を確認する。

 獅子の牙が解散し、町の様子もだいぶ落ち着いたように見える。
 人も外からパルスキーに集まっているように見えるし、宿屋の区画は盛況だし、新規事業の出資申請も少しずつ増えている。
 以前は、カオスと化していた路地にはいると、相変わらず、小汚いが、犯罪取り締まりをしている「パトリ」のメンバーが巡回しており、重犯罪は相当減った気がする。

 実は、俺も時折、時間をみつけて、町を見回っていたんだよね。

 『甘味を探していただけだろうに。主殿よ』

 ん?誰のせいで俺が苦労して新作の甘味を探していたと思っているんだ。

 
 代官のハワードさんの部屋へ、パトリの頭目のトビアスとシンバと一緒に向かった。
 ノックして部屋に入ると、ハワードさんが満面の笑みで俺たちを迎え入れ、上がってきた犯罪発生件数の報告書の説明してくれた。

「アルフ君。やったね!犯罪率が大幅にへっているよ!君の頑張りの成果だよ」

 ハワードさんの話を聞き、「フゥー」と安堵する。

 俺の予想通り、殺人、誘拐などの重犯罪は大幅に減っていた。ただ、窃盗、恐喝、住居侵入などの軽犯罪も減ってはいるがまだまだよその町に比べて高い。

 でもこれで一先ず、俺の役割を終わったな。
 町の再建の道筋をつけることができ、やり切った感とこれで終わりかと思うと寂しさが両方、沸き起こってくる。

 『感慨深いか。主殿よ。荒事も面白いが、こういう街づくりも我には面白くうつったぞ。これこそ主殿のところにいる醍醐味じゃな』

 めずらしくエクスも、殊勝なコメントをしてくれる。
 話をいろいろ聞いてくれてありがとうな。相棒。

 今夜は久しぶりにぐっすり眠れそうだ。

 翌日、王都へ向かい、ジェームスさんから、称賛の言葉と行政大学校への推薦状を無事もらうことができた。
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