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2.王都書生編

14.乙女の心を知るために長生きすることのススメ

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 バッカスの催眠状態からの刷り込みはうまくいき、その後の展開は順調に進んだ。

 シンバとアーチャー家護衛2名は、レスターが取り入ろうとした地下組織(仮称:ニオイフェチーズ)と敵対している別の王都地下組織の構成員のよう偽装した。敵の敵は味方という訳だ。見事にキースは引っかかった。加工した裏帳簿の写をキースへ渡し、レスターの造反を印象付ける。

 タイミングよく、バッカスが姿を消し、拉致されたよう偽装する。

 キースはバッカスが姿を消したことはレスターの仕業と疑い、ナンバー2の派閥とナンバー3の派閥で見事に潰しあいを開始してくれた。

 そんなバタバタの状況だったので、おっさんAと約束した、翌日の夜、レスターは、街はずれの墓場には現れず、代わりに代理の部下BとおっさんAがきた。レスター以外と話しても致し方ないので、交渉は決裂、王都の地下組織(仮称:ニオイフェチーズ)は、助力は断念する、と伝え別れた(元々、ニオイフェチーズなんてないし、助力するつもりもなかったからね)。

 キース、レスターのそれぞれの陣営が殺し合い、ボロボロになってきたため、俺が、レスター、キースの順に、首筋の頸動脈に小太刀を一閃させ、二人の暗殺を完了した。行方不明ではなく、ちゃんと死んだことが分かるように死体を残しておいた。これで獅子の牙にも二人が死んだことが伝わるだろう。
 
 おっさんAことキュロス?
 両陣営の潰しあいの中で、行方不明となったみたいだ。兄を見捨てて一人逃げたな。
 やっぱり、睨んだ通りの小物ヤローだ。マジ、親近感を持つ。

 ナンバー2、3がいなくなったところで、姿を消していた頭目バッカスを再登場させて、レスターの不正に気が付かなかった経理部門の統括のナンバー4に責任を取らせ処断する。

 最後の仕上げで、今回の内紛の責任を取り、バッカスは頭目を止め、後見役へ退く。ナンバー1から4がいなくなったところ、バッカスの後任に、シンバの護衛の一人であるトビアスを指名させて、見事、獅子の牙の乗っ取りが完了した。

 トビアスは人がいいけど、ひげ面の悪人顔なので、犯罪組織の長にはもってこいだ、と冗談でいったら、悲しい顔していた。ごめん、トビアス。言い過ぎた。強く生きてくれ。

 すべて想定通り順当に終わった。
 にもかかわらず、お一人、頬を膨らませて、ご機嫌斜めな人がいる。

 「シルフェさん、獅子の牙は、幹部がいなくなり、牙を抜かれた状態になりました。頭目の権力移譲に際して、我々から怪我人もでなかったのに、なぜそんなにご機嫌斜めなんですか?」

「それは、、、、。私がキュロスを監視している間に、キースとレスターの内紛がはじまっちゃうし、いつの間にか、二人とも相打ちになっちゃうし。置いてきぼりをくらったっていうか、疎外感でさみしいというか、、、、。それに、バッカスが頭目を引退したからといって、まだ犯罪組織には、在籍しているのでしょう? 解決したことにならないわ」

 俺が、ナンバー2と3を暗殺したことは当然シルフェさんには秘密にしている。
 
 それにしても、年ごろの娘さんの心境は難しいなぁ。
 彼女もいたこともない俺に、乙女の気持ちなんてわかる訳もない。
 
 頬を膨らさせて拗ねているところは、かわいらしいんだけどね。

 『主殿の力になりたかったということのようじゃな。感謝の言葉でもかけて、娘っ子のおかげで助かった、と伝えると満足すると思うぞ。主殿よ』

 さすが、魔王様。人の心が読めるし、なにより1000年以上生きていて経験豊富なだけのことはある。乙女の心を知るために、俺も長生きしよう。
 
 それと、エクスに今度、甘味を差し入れしようと心に誓った。

 『甘味10個だぞ。この貸しは高いぞ。主殿よ』

「シルフェさん、キュロスを監視してくれてありがとうございました。レスター共々、あのタイミングで暴発されると、あとの計画に支障がでてしまいましたから、ホントに助かりましたよ。それと、バッカスが、一人残っていたところで、実権は後任のトビアスへ移り、今更なにもできません。トビアスは徐々に獅子の牙を解体していくので、機嫌直してください」

 まだ、納得していないようだったが、俺が感謝していることを伝えたら少し気持ちがほぐれたようだ。

 ちなみに獅子の牙の権力の移譲劇は、俺の独断で決め、俺単独で実行した。シンバたちを連れていくとシルフェさんも連れて行けとうるさいので、秘密裏に進めて、一気にバッカス引退までもっていった。

 ん?獅子の牙の構成員が新参のトビアスについてくるのかって?
 そのために、獅子の牙を一代で作り上げた創設者であるバッカスをトビアスの後見につけたのだよ。別にバッカスを始末してもよかったのだけど、催眠状態が一生続くので、俺の駒として働いてくれるだろうから、余生はゆっくり過ごさせてあげよう。

 さて、次のステップへ進もう。
 と言っても、御用商人のレングと代官は、獅子の牙の裏帳簿と全能草で催眠状態にしてしまえば、状況証拠と、本人の自白まで簡単に引き出せる。ほぼ事件は終わったも同然だ。

 ただ、町の権力者の御用商人と代官を逮捕するには、それなりの見せ方を考えないとならない。

 いくら領主と言えども、何でも思い通りにはいかない。逮捕の正当性を後々、王都の役人にも説明できるようにしないと逆に領主が処罰される。逮捕の正当性があることをしっかり見せつけるため、エクリン家の次期当主チャールズさんに、王都からパルスキーまで緊急事態と伝え、急ぎご足労願った。






「アルフ君。代官のゴットンと御用商人のレングを逮捕するだって?証拠はあるのかい?」

 そうえいえば、町の代官の名前がゴットンというのを、今初めて意識したな。

 シルフェさんの隠れ家で、俺、チャールズさん、シンバ、シルフェさんとで密談する。
 シルフェさんが第三王女の部下であることは変に騒がれても困るので、チャールズさんには実家関係の協力者ということで身分を隠しておく。

 それと、トビアスは獅子の爪の新頭目として活動しているので、この場にはおらず、もう一人の護衛パリ―は家の外で、不審者がいないか監視している。

 チャールズさんはいつもの穏やかな声だが、多少の焦りが混じっている。
 事が大きいので、俺に町の主要人物二人を逮捕する証拠を問うてきた。

 裏帳簿を元に、獅子の牙の犯罪行為、それを指示していた御用商人の悪事、裏でレングを操っていた代官ゴットンの暗躍を説明する。チャールズさんは見習いと言え、さすが会計局の官僚だけあって、裏帳簿のカネの流れを確認してすべてを悟ったようだ。

 しばらくして「フゥー」とため息をついた。

「アルフ君。どうやらこの帳簿を見る限り、君の言っている通りみたいだ。エクリン家の不始末で面倒かけてすまなかった。これがもし王家や財務閥の他家の知るところになっていたら、エクリン家は窮地に陥っていたと思う。内々で証拠をみつけてくれたことに、感謝の言葉もない」

 チャールズさんが頭を下げてくる。
 どうやらチャールズさんは二人の逮捕に納得して、今回の俺らの仕置きに感謝してくれているみたいだ。その気持ちが変わらないうちに、御用商人を逮捕しに向かう。






「これは、これは、エクリン家のチャールズ様でございませんか。本日は手前どもにどのようなご用向きでしょうか?」

 御用商人の屋敷に向かい、チャールズ名にて面会を申し込んだ。
 エクリン家に次期当主が直々に訪問したことを聞き、レングはもみ手の高速回転をしながら、急いで出先から戻ってきたようだ。

「レング。日ごろから、御用商人として、パルスキーの発展に尽力してくれていたことに感謝する。今日はお前に少し話があって寄らせてもらった」

「なんと、もったいない。チャールズ様は会計局の逸材と評判のお方。その方にそのようなお褒めの言葉を頂戴し、なんと光栄なことでございます」

 長い。この上っ面のやり取りはいつまで続くんだ、と思った時にチャールズさんが切り込んだ。

「これまでのお前の尽力に感謝しているのは本当だ。だが、残念なことにレング、お前の不行跡が見つかったので、お前を逮捕しないとならない。私としてもこのようなことになって残念だ。詳しくは、王都の審問官に話すがよい」

 レングは、「む、無実です!」とか「代官のゴットン様に取り次いでください!」とか「証拠はあるのでしょうな!」とか、暴れながら喚いていたが、シンバが取り押さえ、首筋に当て身を打ちすえ、気絶させる。

 かっけー。シンバ、武術の達人みたいに見えたよ。

 これまで、レングを護衛していた獅子の牙の面々は、内紛時以来退去しており、レングの屋敷に主の連行を妨げる護衛はいない。

 使用人や商家の部下たちは、突然のレングの逮捕で騒然となっていた。

 あっけなく、御用商人レングは逮捕され、一旦代官所へ連行されるため、引きずられていった。
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