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1.子爵領編

5.嘘でも言い続けると真実になることのススメ

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 たった1日でケリがついたといって、すぐに領都に戻ると、撃退が早すぎて怪しまれると思い、シスプチン王国軍を追い返してから3日後に領都へ報告の使者を送った。証拠として、飛竜の爪とオークの耳、騎士の兜を伝令に持たせた。

 ちなみに、切り取られたオークの耳の裏をクンクンとニオイを嗅いでみると、強烈な発酵臭がした。カビの生えたキノコの匂いに似ており、はぁー、臭いけどクセになりそうなニオイだった。

 使者を領都へ送り、その後との指示が届くまでの間、シンバが兵士達へ、如何に事前に緻密な策を弄し、敵の油断を誘い追い詰め、見事、撃退することができたのか、わざとらしいくらい大げさに何度も何度も語り聞かせた。

 人生の師である愛書「小役人のススメ」にも「虚の多数にて真となる」とあり、「嘘でも言い続けると真実になる」という意味だ。

 繰り返し聞くと催眠療法みたいな効果があり、みんな完全に信じ込んでいる。

 決して、魔法なんてつかってないのだよ。みんな。

 ただ、陰で、兵士たちが、実は作戦は俺が立案したのではないか、とのうわさが広がり、俺のことを「作戦の魔法師」と呼んでいることが聞こえてきたのが気になる。

 それから、2週間後に、父上からの慰労の使者が砦に着て、急ぎ領都に戻ってくるように指示を受けた。シスプチン王国が撃退できた理由を直に聞きたいとのことだ。どうも250名で1400名の敵、しかも飛竜騎士団やオーク隊といった精鋭もいたのに、あっさり追い返すことができたというのが信じられないようだ。

 俺とシンバしか知らないことだが、敵軍は、5名の魔法師以外、壊滅させたため、数か月単位で増援もないだろう。最低限の人員のみ砦に残し、残りは領都へ帰任することにした。

 今回は、大手柄だったので、帰任する際に、貴族用の馬車を父上が手配してくれた。

 三男なんて、パンの無駄扱いだったが、急にVIP待遇になったのが、逆に引っかかる。




 2名乗車の馬車の中で、シンバが真剣な顔で話しかけてくる。

 「アルフ様。エルモ様へどのような報告をされるつもりですか ?」

 「シンバが兵士達へした話と合わせるつもりだよ。ただ、流言で油断を誘ったこと、斥候による情報収集、それと戦術策を考えたのは、シンバということにするけど。俺がやったのは、単に兵士達の士気を高めただけ、ということにする。今回は大手柄だから、下手したら、シンバは子爵領の騎士団長になっちゃうかもしれないな」

 軽口をたたいてみせると、シンバが深刻な顔を向けてきた。

 「アルフ様、今回の大手柄は、モンド様、ピーチャー様から良い顔はされませんね。下手をしたら、自分の地位を取って代わられると不安をお持ちになり、暗殺される可能性すらあります。それを考えると、私に手柄を押し付けた方が確かに良いですけど、そうすると、私はアルフ様と一緒に王都にいけなくなってしまいます。」


 「え?シンバも王都に来るつもりだったの?アーチャー家はどうするのさ?」

 「アーチャー家は、従兄に家督を譲るつもりです。姉と私はアルフ様が王都で落ち着いたところで、プライセン家へ暇乞いをして、合流させていただく所存です」

 シンバが真剣な面持ちで俺の顔をまっすぐ見据えてくる。

 これはさすがに真剣に答えないといけないと思った。

 考えてみれば、乳母のエリカが育ての親、母といってもよく、守役のシンバは、父のようで、兄のような存在だった。姉と弟で、父と母って、禁断の香りがするなー。

 貴族家で子供が生まれると、重臣や功臣の家から守役を選出する。守役は、教育係であり、将来の重臣候補だ。ただ、三男以降の守役は、パン無駄扱いで、貴族の子弟本人の立場がそもそも弱いので、旨味は少ない。

 多分に漏れず、三男の俺が子爵家に居続けた場合、今回のような足止め役のような命を張った役回りがこれからも多くなっていくだろうし、守役であるシンバも付き合わされることになる。だから俺が王都に出ることを理由に守役を返上するという手もあったはずなのに、まったく律儀なことだ。

 「シンバ・アーチャー。お前の忠節、本当に感謝する。心の底からうれしい。でも、本当にいいのか? いや、もう聞くまい。王都へでて、拠点ができたら、お前とエリカを迎え入れる。アルフレッド・プライセンの名に懸けて。お前は、家宰として、エリカは侍女長として、父・兄・母のごとくこれからも俺を支えてくれ。だた、小役人から、高い給金を期待しないでくれよ。」

 「ありがたき幸せ。謹んでお受けいたします。家宰として、これからもアルフ様に尽くす所存です。」

 「それもこれもうまく王都へ行く算段がついてからだけどな」

 馬車の中で、海からの潮風にあたりながら、論功行賞の場で、どうやって金銭的な支援をしてもらいつつ、王都行きを勝ち取り、中央官吏になるためのコネを使わせてもらうのかの算段を考えはじめていた。





 
 シンバ・アーチャーは、後年、「黒の宰相」と呼ばれ、周辺国を畏怖させたアルフレッド・プライセンの右腕として、歴史に名を残すことなる。
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