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頼りにしていますよ、相棒!
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「馬鹿王子が起こした問題はすべて馬鹿王子が原因です。誰もリリアンヌ様が至らないせいだとは思っていませんわ」
「そうですよ! あんなダメ王子が、今まで大きな問題を起こさず済んだのは、間違いなくリリアンヌ様のおかげですよ。最後にとどめを刺しましたけど……」
「お、おまえたちはそんなことを思っていたのか……」
ショックを受けた様子の王子。言葉の刃、王子を切り刻む。
貴族、やっぱりこわい。
普段はあれほど王子を立て、社交の場では大人しそうな笑みを浮かべていたというのに……。
言葉の裏で何を考えているのか、本当に分からない。
「だから庶民に下るなんて……冒険者になるなんて、どうか考え直してください」
誤解、でもたしかな親切心からでている言葉。
でも、エミリーからだけは聞きたくなかった!
「なんでよ、エミリー……。それこそが本当の願いだって。エミリーだけは心の底から賛同してくれてると思ってたのに。
危険な依頼も一緒に受けて回った。
クエストの苦楽を共にした――何度も一緒に冒険した仲間じゃない!」
思わず口を突いて出てきたのは、秘密の暴露。
でも止められない。
「で、でもそれは……。私がお金を欲しているから、仕方なく……。
改めて謝罪させてください。
リリアンヌ様を危険な目に合わせてしまって、申し訳ありませんでした」
「やめてよ……」
なら、楽しんでいたのは私だけ?
だとしたらむなしさしか感じない。
そんな謝罪はまったくもって望んでいない。
「あんなに楽しそうにしてたじゃない!
キャンプをしながら笑っていたじゃない。
あの時の笑顔は、初めて聖女の魔法を発動したときの感動は――すべてウソだったというの!?」
「もちろん楽しかったです!」
エミリーの口から出たのも素直な言葉。
それを聞いてホッとする。
一方のエミリーは、その言葉を恥ずべきものだとでも言うように慌てて口を押える。
そうして言葉をつづけた。
失われた幻想を追い求めるような、そんな思い出を懐かしむような口ぶりで。
「楽しかったですけど……だからこそ申し訳なかったです。
未来の王妃である公爵令嬢を巻き込んで――ひと様の迷惑を考えずに……。
私はいったい、何をしているんだろうって……」
「エミリー……」
「受けた恩は大きすぎてとても返すことはできません!
でも――だからこそ、これで終わりなんていうのは嫌なんです!」
エミリーが本気で言っていることが分かってしまった。
私に返しきれないほどの恩があると、心の底から思っていることも理解できた。
たしかに、貴族の常識で考えて、王妃という約束された身分を捨ててまで冒険者を志すというのは理解できないのだろう。
「……何度でも言うわ。庶民になって冒険者として生活するのが私の夢だったって」
ああ、だめだ。
こんな言い方では、一度発生した思い込みを解くことは到底できない。
そんな閉塞感を破ったのは、エミリーの思いもよらないひとこと。
「なら! 私も冒険者になります!
私の聖女の力は助けになるはずです!」
「何馬鹿なこと言ってるのよ、エミリー! そんなこと出来るはずないでしょ!」
「だって……! だって……!」
どうにかして私を引き留めようとするエミリーを見て……。
ハッ、と気付く。
"おんなじなのだ"、と。
きっと私もエミリーも、常識で考えてしまって本音を見失ってしまっている。
常識を取っ払ったときに残るのは――
……なら、もしかすると。エミリーの本当の願いは?
「本気、なのね?」
「本気です。リリアンヌ様が考え直さないのなら」
「……分かったわ」
そううなずくと、エミリーは我に返ったように「申し訳ございません」と、私から距離を取る。
安心したような表情。
「何度も言うけれど……わたくし
――いいえ私は、本当に冒険者になりたいと思ってるのよ?」
口調をクエスト中のものに戻す。否、これが素である。
「なに? それともエミリーはあのクエストを一緒に受けた、楽しかった日々を否定するの?」
だいたい、あんな危険な場所まで。
好きでもないのに、本当に同情だけでついていくとでも思っているのかしら?
そう思い、思わずジト目を向けると――
「それでは、本当に?」
思わず、といった様子でおずおずとこちらの本心を問いかける。
対する私は――
「はい。もちろん本当です。私は、冒険者になりますよ!
誰のためでもなく、私自身のために! 私自身がそう望んで!」
令嬢としては"はしたない"とさえ言われそうな、感情を表に出した笑顔を浮かべる。
「それで、エミリーも来てくれるのよね?」
「もちろんです! どこまでもお供します、リリアンヌ様!」
それは今日一の良い笑顔であった。
置いてきぼりを喰らい、呆然とうる王子を完全無視して無邪気に手を取り合い喜ぶ2人。
「頼りにしていますよ、相棒!」
――それは、後々まで語り継がれる伝説のパーティー結成の瞬間であった。
「そうですよ! あんなダメ王子が、今まで大きな問題を起こさず済んだのは、間違いなくリリアンヌ様のおかげですよ。最後にとどめを刺しましたけど……」
「お、おまえたちはそんなことを思っていたのか……」
ショックを受けた様子の王子。言葉の刃、王子を切り刻む。
貴族、やっぱりこわい。
普段はあれほど王子を立て、社交の場では大人しそうな笑みを浮かべていたというのに……。
言葉の裏で何を考えているのか、本当に分からない。
「だから庶民に下るなんて……冒険者になるなんて、どうか考え直してください」
誤解、でもたしかな親切心からでている言葉。
でも、エミリーからだけは聞きたくなかった!
「なんでよ、エミリー……。それこそが本当の願いだって。エミリーだけは心の底から賛同してくれてると思ってたのに。
危険な依頼も一緒に受けて回った。
クエストの苦楽を共にした――何度も一緒に冒険した仲間じゃない!」
思わず口を突いて出てきたのは、秘密の暴露。
でも止められない。
「で、でもそれは……。私がお金を欲しているから、仕方なく……。
改めて謝罪させてください。
リリアンヌ様を危険な目に合わせてしまって、申し訳ありませんでした」
「やめてよ……」
なら、楽しんでいたのは私だけ?
だとしたらむなしさしか感じない。
そんな謝罪はまったくもって望んでいない。
「あんなに楽しそうにしてたじゃない!
キャンプをしながら笑っていたじゃない。
あの時の笑顔は、初めて聖女の魔法を発動したときの感動は――すべてウソだったというの!?」
「もちろん楽しかったです!」
エミリーの口から出たのも素直な言葉。
それを聞いてホッとする。
一方のエミリーは、その言葉を恥ずべきものだとでも言うように慌てて口を押える。
そうして言葉をつづけた。
失われた幻想を追い求めるような、そんな思い出を懐かしむような口ぶりで。
「楽しかったですけど……だからこそ申し訳なかったです。
未来の王妃である公爵令嬢を巻き込んで――ひと様の迷惑を考えずに……。
私はいったい、何をしているんだろうって……」
「エミリー……」
「受けた恩は大きすぎてとても返すことはできません!
でも――だからこそ、これで終わりなんていうのは嫌なんです!」
エミリーが本気で言っていることが分かってしまった。
私に返しきれないほどの恩があると、心の底から思っていることも理解できた。
たしかに、貴族の常識で考えて、王妃という約束された身分を捨ててまで冒険者を志すというのは理解できないのだろう。
「……何度でも言うわ。庶民になって冒険者として生活するのが私の夢だったって」
ああ、だめだ。
こんな言い方では、一度発生した思い込みを解くことは到底できない。
そんな閉塞感を破ったのは、エミリーの思いもよらないひとこと。
「なら! 私も冒険者になります!
私の聖女の力は助けになるはずです!」
「何馬鹿なこと言ってるのよ、エミリー! そんなこと出来るはずないでしょ!」
「だって……! だって……!」
どうにかして私を引き留めようとするエミリーを見て……。
ハッ、と気付く。
"おんなじなのだ"、と。
きっと私もエミリーも、常識で考えてしまって本音を見失ってしまっている。
常識を取っ払ったときに残るのは――
……なら、もしかすると。エミリーの本当の願いは?
「本気、なのね?」
「本気です。リリアンヌ様が考え直さないのなら」
「……分かったわ」
そううなずくと、エミリーは我に返ったように「申し訳ございません」と、私から距離を取る。
安心したような表情。
「何度も言うけれど……わたくし
――いいえ私は、本当に冒険者になりたいと思ってるのよ?」
口調をクエスト中のものに戻す。否、これが素である。
「なに? それともエミリーはあのクエストを一緒に受けた、楽しかった日々を否定するの?」
だいたい、あんな危険な場所まで。
好きでもないのに、本当に同情だけでついていくとでも思っているのかしら?
そう思い、思わずジト目を向けると――
「それでは、本当に?」
思わず、といった様子でおずおずとこちらの本心を問いかける。
対する私は――
「はい。もちろん本当です。私は、冒険者になりますよ!
誰のためでもなく、私自身のために! 私自身がそう望んで!」
令嬢としては"はしたない"とさえ言われそうな、感情を表に出した笑顔を浮かべる。
「それで、エミリーも来てくれるのよね?」
「もちろんです! どこまでもお供します、リリアンヌ様!」
それは今日一の良い笑顔であった。
置いてきぼりを喰らい、呆然とうる王子を完全無視して無邪気に手を取り合い喜ぶ2人。
「頼りにしていますよ、相棒!」
――それは、後々まで語り継がれる伝説のパーティー結成の瞬間であった。
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