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さすが馬鹿王子ね!?

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「リリアンヌ公爵令嬢! 私は貴様の罪をここで明らかにし、婚約を破棄することを宣言する!」


 ビシィっと指を突き付けるのは、このノーリッシュ王国の第一王子であるサフィアス殿下。
 普段はあまり感情を表に現さない王子が、こうして声をあらげることは珍しい。パーティーに集まっていた人々が、何事かとこちらに視線を向けた。

「婚約……破棄ですの?」

 あまりにも突然のことで。
 私、リリアンヌは思わず聞き返すことしかできなかった。

「はっ! 相変わらず猫を被るのが上手いことだ。
 思い当たる節がないとは言わせないぞ!」
「あいにくですが、わたくしには何をおっしゃっているのか分かりません」

 小首をかしげる私に対し、相対する王子はどこまでも自信満々。
 集まった視線をものともせずに。『大義は我にあり』と言わんばかりに、王子はキッと私をにらみこう続けた。

「卑劣な手段を用いて、私の愛するエミリーを学院から追い出そうとしたではないか!
 おおかた私と仲良くしていたのが気に入らなかったのだろう?
 取り巻きを使って実行した数々の嫌がらせは、さすがに見逃すことはできんぞ!」

 それを聞いて私は……



  ――やったわ、さすが馬鹿王子ね!?
  ――ここまで思い通りに動くものなの????????


 内心で喝采を上げていた! 完璧に計画どおり!
 それにしても、ここまで思い通りになると表情を取り繕うのも大変ね!





 さて、突然だが、私リリアンヌは前世の記憶を持つ転生者だ。
 そして、目の前の単細胞……失敬、目の前の馬鹿王子は、前世で遊んでいた乙女ゲームの攻略対象なのである。

 ……そりゃあ、ゲームで遊んでいたときは幸せだったさ。
 特に、ヒロインと心を通わせてラスボスに挑む決意を語るシーンは、涙無しには語れない名シーンでした。
 それに加えて、そしてクライマックスでささやかれる甘々のボイスの数々。生きてて良かった! と画面の前でニヤニヤと気持ち悪い笑顔を浮かべたものだ。

 ――でもね、ちょっと考えてほしい
 もしそんな世界に転生してしまったとして。

 あなたは王妃になれる? 「うん」と即答した人は、ぜひとも私と変わってくれ。
 脳みそが馬鹿王子と同レベルか、さもなくば"陽キャ"なる人種だ。つまり私の敵だ。

 どれだけ王子が美形でも! 王子ルートが素晴らしい出来だったとしても!!
 こうして転生してしまったら話は別なのよ!!!!

 "王子"と結ばれるってことは、"王妃"にならないといけないってことでしょ?

 無理! 絶対に! 無理だから!
 前世ではただの学生だった私がよ? それって、なんの冗談よ!?

 何を隠そう前世の私は、人目を避けて小説やゲームの世界に閉じこもっていた。
 端的に言ってコミュ障なのである。
 それも、ただのコミュ障ではない。人に話しかけられただけでテンパってアワワワするコミュ障OFコミュ障、最強のコミュ障である。
 人前での演説なんて、考えるだけでぞっとするね!

 じゃあ、どうしようか。


 ――シナリオの通りに婚約破棄されればいい
 ね? 簡単でしょ?


 幸いにも、私が転生したのはヒロインと攻略対象を邪魔する"悪役令嬢"と呼ばれるポジションのキャラクターみたいです。


 ――ヒロインじゃなくて良かった!!!
 もしもヒロインとして生まれていたら……と想像してみてゾっとする。仮に、この世界に「シナリオの強制力」と呼ばれるものが働くなら。

 どれだけ避けようとしても迫ってくる攻略対象、逃れられぬ王妃の椅子。

 ――うわあ……
 想像するだけで悪夢だ!

 しかも攻略対象は乙女ゲームとは違って生きている人間。良いところだけではない、生の人間なのである。それこそ長い年月を一緒に過ごせば、嫌だって欠点も目に付くものだ。

 ……後は頼んだぞ、ヒロインちゃん!
 私は、目の前で……王子と私の様子をハラハラ見守る愛らしい少女にチラッと目を向ける。
 彼女こそ、乙女ゲームのヒロインことエミリーである。


 その点、悪役令嬢ならば安心だ。シナリオの強制力万歳!
 与えられた配役は、かませ犬といったところだろう。
 何もしないでも婚約破棄をさせられ……最終的には断罪、爵位も取り消され庶民としての第二の人生を約束された身なのだ。


 そうと決まれば……



 ――冒険者ギルドに入るぞ!!

 そうよ、せっかく異世界に転生したのに王妃? 王子? 婚約破棄?
 そんなみみっちいことは気にしたくもない。
 早く庶民になって、自由に生きたいわ!
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