上 下
14 / 14

14. お断りです。故郷に帰って妖精さんたちと幸せに暮らしますから

しおりを挟む
 便宜を図るなどといっても、所詮は人ごとですよね。
 同じような言葉を5年前にも聞きましたよ。
 もう帝国はコリゴリです。


『恥知らず!』
『アルシャがそんな話を受ける筈がないの~』

 全くもってその通りです。
 人をバカにするのも大概にして欲しい。


「以前、私は嫌がる娘を帝国に送りました。
 聖女として人の役に立って、今後の糧になるならと。
 その結果、娘はボロボロに傷つけられて帰ってきた。
 ――帝国がしでかしたことを、忘れたとは言わせませんよ」

 お母さんも厳しい表情で皇帝を睨みます。


「私たちも鬼ではありません。
 帝国で万が一があれば、これからも依頼はお受けしますよ。
 もちろん適正価格で」

 ――この国に訪れる大災厄は、決して終わってはいない


 お母さんが発した言葉は、皇帝を絶望させるには十分すぎるほどのもので。



「アルシャ様。
 国賓扱いします。
 ついでに我が第一皇子の婚約者としましょう。
 未来の皇妃です。誰もが憧れるシンデレラストーリーですよ!」

 お母さんの決意が固いと見るや、皇帝は説得相手を私に切り替えたようで。
 私に考える暇を与えてなるものか、とでもいうように矢継ぎ早に言葉を続けます。
 

 ――なるほど? 未来の皇妃ですか


 微塵みじんも心が揺らぎませんね。
 だって私は――

「お断りです! 故郷に帰って妖精さんたちと幸せに暮らしますから」

 故郷で楽しく暮らせるだけで幸せですから。



◇◆◇◆◇

 邪竜の侵入事件から数か月が経ち。
 帰った直後は、お母さんに憧れてちょっとだけ大げさな聖女の儀式を行ったりもしましたが。


『暇だよ!』
『見てるだけで退屈なの~』

 妖精さんにはすこぶる不評なので断念。
 それでも妖精と仲良くなることは出来ていて、今では更に多くの妖精さんとお喋りできるようになりました。


『次は何して遊ぶよ?』
『毎日アルシャが楽しそうで嬉しいの~』

 ぶんぶん、と小さな手を上下させる妖精さんに

「今日は、近くの河で遊びましょう。
 魚がいっぱい取れるように。みんなが幸せに暮せるように!」

『わ~い!』
『村の人たち、みんな陽だまりみたいなの~』

 遊び感覚で手を貸してくれてます。


「アルシャ、また腕を上げたんじゃない?」
「そんなことないよ。
 お母さんみたいに上手に演舞は舞えないもん」 

「ふふ。そこだけは譲れないわね。
 そこまで妖精に愛されて、本当にこれからが楽しみだわ~」


 お母さんはそう言いながら、私の髪を撫でてくれます。
 そんな様子を微笑ましく見守ってくれるのは、5年ぶりに帰ってきた私を暖かく迎えてくれた村人たち。



 妖精さんたちに、お母さん。
 一緒に暮らす村人たちも、何の打算もなく親切で。離れていた時を感じさせない程に暖かい。
 大好きな人たちに囲まれて、毎日の生活がとても楽しいです。

 ――私は今、とても幸せです
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(25件)

キンドル・ファイバー

 ストレスフリーでざまぁも決まり、サクサク読めて面白かったですぜ!
 個人的に気になったのは、宰相等の部下が糞なのは当然として、皇帝の不手際の多さですかねぇ...w

 皇帝自身が聖女の有用性を理解していたにも関わらず、聖女の担当を理解が無い者にやらせてしまったのは上司として失格でしたな。
 あと、ここからは自分の想像ではありますが...宰相が嘘を織り混ぜて書いたであろう報告書を見て、聖女がどう扱われてるとか知れなかったにしても、裏を取らなかった皇帝の責任はだいぶ大きいだろうなぁと感じました。

解除
🌷︎
2021.02.20 🌷︎

面白かったです。
最後が恋愛要素がなく、陛下のお誘いもスパッとお断りしてたのが良かったです。
これでいきなり他の王子が出てきてエンドだったら在りきたりなので、そういうのがなくて、お母さんと妖精さんと幸せにってのが、好感持てました♡

解除
ケイ
2020.08.08 ケイ

今後聖女に仕事を頼む時の値段も相応のものになるから帝国の財政がきつくなるだろうなあ責めて宰相の財産を賠償金にしていたら値段も安くて済んだんだろうなあ(魔法研究が打ち切りになれば今までの研究成果も台無しになるしやらかした事がバレたら皇帝も無事では済まないでしょうね)と言うか魔法の研究打ちきりは出来ないかな今後聖女に何か頼めば財政にダメージが来るからある程度は魔法研究の成果で対応するしかないと思います(宰相の息がかかった計画なのでイメージが悪いを理由に貴族は反対しそうですが)

解除

あなたにおすすめの小説

団長サマの幼馴染が聖女の座をよこせというので譲ってあげました

毒島醜女
ファンタジー
※某ちゃんねる風創作 『魔力掲示板』 特定の魔法陣を描けば老若男女、貧富の差関係なくアクセスできる掲示板。ビジネスの情報交換、政治の議論、それだけでなく世間話のようなフランクなものまで存在する。 平民レベルの微力な魔力でも打ち込めるものから、貴族クラスの魔力を有するものしか開けないものから多種多様である。勿論そういった身分に関わらずに交流できる掲示板もある。 今日もまた、掲示板は悲喜こもごもに賑わっていた――

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

【完結】冤罪で処刑されたので復讐します。好きで聖女になったわけじゃない

かずき りり
ファンタジー
好きで聖女になったわけじゃない。 好きで王太子殿下の婚約者になったわけじゃない。 贅沢なんてしていない。 下働きのように、ただこき使われていただけだ。 家族の為に。 なのに……偽聖女という汚名を着せて、私を処刑した。 家族を見殺しにした……。 そんな国に復讐してやる。 私がされた事と同じ事を お前らにも返してやる。 ******************* こちらの作品はカクヨムにも掲載しています。

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜

星里有乃
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」 「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」 (レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)  美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。  やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。 * 2023年01月15日、連載完結しました。 * ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。お読みくださった読者様、ありがとうございました! * 初期投稿ではショートショート作品の予定で始まった本作ですが、途中から長編版に路線を変更して完結させました。 * この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。 * ブクマ、感想、ありがとうございます。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

『スキルなし』だからと婚約を破棄されましたので、あなたに差し上げたスキルは返してもらいます

七辻ゆゆ
恋愛
「アナエル! 君との婚約を破棄する。もともと我々の婚約には疑問があった。王太子でありスキル『完全結界』を持つこの私が、スキルを持たない君を妻にするなどあり得ないことだ」 「では、そのスキルはお返し頂きます」  殿下の持つスキル『完全結界』は、もともとわたくしが差し上げたものです。いつも、信じてくださいませんでしたね。 (※別の場所で公開していた話を手直ししています)

婚約破棄……そちらの方が新しい聖女……ですか。ところで殿下、その方は聖女検定をお持ちで?

Ryo-k
ファンタジー
「アイリス・フローリア! 貴様との婚約を破棄する!」 私の婚約者のレオナルド・シュワルツ王太子殿下から、突然婚約破棄されてしまいました。 さらには隣の男爵令嬢が新しい聖女……ですか。 ところでその男爵令嬢……聖女検定はお持ちで?

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。