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7. ねえ、魔王と戦うことになったんだけど!?

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 ある日のこと。
 冒険者ギルドには『S級特務』が張られていた。
 他のS級パーティーは国を出払っているため、実質私たちに対する国からの指名クエストとも言えるもの。

「内容は――魔王討伐依頼。
 お姉さま。勇者にはぴったりの依頼ですね!」

 私の傍らには、無邪気にアメリアが並び立つ。
 あまりに一緒に行動することが多すぎて忘れそうになってたけど、これでもこの子は未来の王妃様。

 このクエストの危険は、普段の比ではいだろう。
 いつものノリで連れて行く訳にはいかない。

「アメリア、いいえアメリア様。
 今度ばかりは、あまりに相手が悪すぎます。
 これから国を背負う次期王妃を、連れて行くわけには参りません」

 冒険者ギルドのど真ん中で、私はアメリアの正体を口にする。
 ギルド内は、ざわざわとした喧噪に包まれた。

 どれだけ説得しようとも、アメリアは絶対に付いてきてしまうだろう。
 これはアメリアを危険な目に遭わさないための強硬策だ。

 危険な行為ではあるが、ここにいる冒険者は信用できる。
 アメリアをきっちりと護衛しながら、城まで送り届けてくれるだろう。

「あいにくですが"勇者様"に付いていくよう、国王から指示されています。
 お姉さま、お忘れですか?
 私は王妃である前に、聖女なんですよ」

 しかしアメリアは、既に許可を取っていると言い放った。
 そう言われてしまえば、勇者となってしまった私に彼女を止める術はない。
 人の気など知らず、アメリアはニコニコ楽しそうにしていた。



◇◆◇◆◇

 魔王城に向かう道中。

「アメリア、今回の敵は本当に強大。
 私の力では、あなたを守れるかは分かりません。
 自分の身ぐらいは、自分で守る覚悟をしておいて」
「違いますよ、おねえさま?」

 アメリアはくるりと振り返って、私の言葉を否定すると、

「私がおねえさまを守るんです」

 茶目っ気たっぷりにそう応える。
 同性でありながら、思わず見ほれてしまうような美しい笑みを見て――


「お互い生きて帰りましょうね」

 私はそう返すだけで精一杯。
 アメリアは「はいっ!」と嬉しそうにうなずいた。
 


◇◆◇◆◇

 そうして魔王城にたどり着いた私たちを、魔王が出迎える。
 魔物の王、名実ともに最強の敵だ。


「どれ、我の相手をするのは……?」

 身にまとっている魔力の質が違う。
 空間を歪めるほどの圧倒的濃度の魔力をまとって、悠々と現れた魔王は、

「女子供ばかりではないか」

 つまらなそうにそう吐き捨てた。


「貴様らはなぜ、魔王である我を倒そうとする」
「え……?」

 いきなり問いかけられ、私は答えに窮する。 
 依頼があったからとしか言えない。

 思えば平穏に冒険者として暮らしたいと願っていたはずなのに――気が付いたら勇者として聖剣を携えて魔王に挑んでいる現状。
 「どうしてこうなった!?」と、私が問いかけたい。
 ただ冒険者になりたかっただけなのに。


「聖剣を持った、そこの女なぞーー」

 え、私?

「勇者というより、見た目は完全に悪役ではないか」

 悪役面なのは自覚しているが、いきなり失礼なことを言う。
 でもこの悪役顔のおかげで、無事に婚約破棄してもらえたのだ。
 だいぶイラッとしたが許そう。


「どうせ強い使命感を持っているわけでもあるまい?
 その場に立っているのも、成り行き任せだろう」

 まったくもってその通りである。
 だからアメリア、魔王が私の悪口を言うたびに鋭い殺気を放つのを止めてくれませんかね?

「そのような相手ーー魔王である我が、わざわざ相手にする必要もない」

 あ、無益な殺傷を好まないタイプだ。
 この魔王優しい。


「おねえさまを侮辱しないで下さい!!」

 この魔王、全くもって正しいことしか言わない。
 私はひそかに魔王の慧眼におののいていたが、突如として大声をアメリアが上げた。

 魔王の魔力に怯えてしまった自分を恥じるように。
 自ら鼓舞するように。


「おねえさまは悪役顔を駆使して、自ら泥を被ってくださったのです。
 冒険者になりたいなんて嘘までついて、私と王子の仲を応援して下さったのです!」

 え、ちょっと待って?
 誰のことだそれは。

「ここに立っているのが成り行きまかせ?
 そんなはずがないではありませんか!」

 いいえ、100%成り行きですが?


「おねえさまは追放された瞬間、まずは仲間を募ったのです。
 いずれは国が魔王により脅かされることを、分かっておられたのです」

 いやいや、復活するのが分かってるなら止めるって。


「ドラゴン退治でサクサクッと知名度を上げてみせました。
 危険を顧みないその行為は、誰にも真似出来ない尊い行為です。
 依頼を受けられる権利を手にしたら、そのまま聖剣を抜くための旅に出ました。
 ――すべてこの時を予測していたとしか思えません!」

 すべて偶然の産物だから。
 というか半分ぐらいはあなたの提案じゃない!
 そう反論する声は、怒りに我を失ったアメリアには届かない。


「おねえさまの行動は、全てこの時に繋がっていたのです!」

 そんなことはない。
 ……そんなことないよね?


「魔王であろうと、お姉さまを侮辱することは許しません。
 あなたがお姉さまの何を知ってると言うんですか!」

 あなたよりは知ってると思いますけどね!?
 私の声なき声は、やはり誰にも届かない。


「女勇者よ。貴様がそこまでの覚悟を持って、我に挑もうとしていたとは知らなかった。
 侮辱した詫びだ――全身全霊で迎え撃とう」

 そう言った魔王から放たれる殺気が、さらに一段階強まる。
 どす黒い魔力は考えられないほどの密度であり、もはや可視化されているほど。

 あまりに強すぎた。
 こんなバケモノとやりあうなど、冗談ではない。



「おねえさまの手を煩わせる必要なんてありません。
 私ひとりで十分です」

 そう言って私をかばうように前に出たのは聖女・アメリア。

「そ、そんなこと出来るわけが……」
「任せて下さい」

 アメリアはやっぱりいつもの笑みを浮かべて、魔王の前に立ちはだかる。
 純白の魔力を身にまとった凛々しい立ち姿。

 こちらも化け物のように強かった。
 今まで力を隠していたというのか。

 魔王と聖女の放つ魔力が、ぶつかり合う。
 その衝撃は魔王城の内装を破壊し、さらには行き場を失ったエネルギーか雷となり、あたりに降り注ぐ。
 

 魔王の力はやはり圧倒的であった。
 アメリアの放つ純白の光を押しつぶすように、禍々しい魔力が迫っている。

「あ、アメリア?」
「おねえさま」

 聖剣を持つだけの私に、アメリアが視線を向けてきていた。

 たしかに私は聖剣を使えるようになった。
 それでもこの争いに割って入れるほどの実力は、持っていない。

 力のない自分が悔しい。 



「おねえさま、どうか私の言うことを繰り返してください」
「アメリア……」

 どれだけ押されていても、アメリアの瞳に諦めの色はない。
 彼女のほうがよっぽど勇者にふさわしい、そんなことすら思ってしまう。


「我、聖剣に選ばれし者なりーー」
「我、聖剣に選ばれし者なりーー」

「聖女の真なる加護を授けられし者なりーー」
「聖女の真なる加護を授けられし者なりーー」

 アメリアの言葉を、必死に復唱する。
 言葉の意味など理解する余裕もない。

「聖女の魔力を喰らい、今こそ真なる力を我に示せーー」
「聖女の魔力を喰らい、今こそ真なる力を我に示せーー」

 その言葉を発した刹那。
 アメリアの体から放たれていた聖なる魔力が、私の持つ聖剣の仲に吸い込まれていく。
 吸い込まれる、などという生やさしいものではない。まるで聖剣が、彼女の魔力を喰らっているような光景。

 今しかない、それは直感。
 まるでアメリアの意志に導かれるように。


 私は魔力を込めると、聖剣を振り抜いた。
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