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3. ねえ、ヒロインちゃんにストーカーされてるんだけど!?
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「平民になったら。
まずはあの食堂に行ってみたかったのよ!」
ついに平民になったのだ。
やりたいことはいくらでもあった。
(まず行きたい場所は――あそこ!)
冒険者御用達の大衆食堂。
これまで到底目にすることがなかった未知の料理を提供しているはずだ。
私は期待と共にその扉を開き、
「お姉さま!」
「あ、アメリア。どうしてここに!?」
いきなりアメリアとエンカウントした。
「ど、どうしてあなたがここにいるの。
何でここが分かったの!?」
「お姉さまのことなら、何でもお見通しです。
どこまでもついて行きます!」
え、何それ怖い。
私ストーキングされてるの?
内心ドン引きした私に、アメリアははじける笑みを向ける。
その笑みは、できれば婚約者(王子)に向けてあげて下さい。
「いつまで突っ立ってるんですか。
ほらほら、はやく座ってください!」
ポカンとする私を自分の席へと引っ張っていく。
勢いに負けた私は、アメリアの言葉に大人しく従うことにする。
「おばちゃん、名物串カツもう1つ。
お姉さま、飲み物はオレンジジュースで良いですか?」
「え、ええ……」
「それからロシアンたこ焼きで追加で」
私を席まで引きずり、アメリアは店員を呼びテキパキと注文を済ませた。
「よ、よく来るんですか?」
「無性に懐かしくなるんですよ、ここの味」
元平民のアメリアにとって、貴族が口にする料理よりこうした店の方が口に合うは当然だろう。
アメリアはホカホカのおまんじゅうにかぶりつくと、幸せそうな笑みを浮かべた。
(ああっ!
そんなはしたない食べ方をっ!)
教育係がいれば卒倒しそうな光景。
もっともここに口うるさい人はいない。
「マナーはすっかり忘れてしまったようね」
「ええ、お城にポイしてきました」
ジト目で見つめる私。
アメリアはいたずらっぽい笑みを浮かべる。
「おいしいですよ。
お姉さまも、お一つどうですか?」
「いただくわ」
私はアメリアに差し出された『たこ焼き』なる物を受け取った。
おそるおそるツンツンとつつく私を見て、アメリアは面白がりながら、
「お姉さま、こういうのは一気に食べるんですよ」
そう言いながら一口で口の中に放り込む。
そして「ね?」と私にも食べるように促す。
「な、なるほど?」
郷に入っては郷に従えという格言もある。
私も恐る恐る口の中に放り込んで、
(な、なにこれ。辛っ!?)
刺すような味に、思わず涙目になった。
思わず吐き出しそうになるが、元・貴族のプライドと理性を総動員して我慢。
「おいしいでしょう。まだまだありますからね?」
「え、遠慮しておくわ」
美味しそう2つめを頬張るアメリアを、信じられないと見つめる私。
(なるほど、庶民の味方の食事処は恐ろしいところね)
「ごめんなさい。
ロシアンたこ焼きは1つだけ外れで、激辛のものが入ってたんです。
まさか一発目から当てるなんて、お姉さまは持ってますね!」
アメリアはオレンジジュースをこちらに手渡した。
(なんでそんな恐ろしいものを勧めてくるのよ?)
不満を込めて睨むと、彼女はけらけらと屈託なく笑った。
(ああ、アメリアと話すのもこれで最後か)
楽しそうなアメリアを見て、少しだけしんみりしてしまう。
最後の語らいを楽しみ、私は食堂を後にした。
◇◆◇◆◇
「今日から冒険者としてやっていくのね!」
次に私が向かったのは、冒険者ギルドであった。
この国では、冒険者として活動するためにはギルドへの届出が必要となる。
冒険者ギルドの扉を叩き――
「待ってました、お姉さま!」
「アメリア、なんだってここに!?」
扉を開けると、なぜかアメリアが現れた。
ストーカーも真っ青な出現頻度、もはや軽いホラーである。
「ど、どうしてあなたがここにいるの。
というか何でここが分かったの!?」
「冒険者になるならここを訪れるに違いない!
簡単な推理ですよ、お姉さま!」
そういってアメリアはガバッと私の胸に飛び込んできた。
その可憐な姿は、どうか婚約者(王子)に以下略。
「何しに冒険者ギルドに?」
「もちろんお姉さまに会いに!」
「さっき会ったばっかりでしょう……」
呆れた目線を向けるも、まるで堪えた様子の無いアメリア。
一緒に居られて嬉しいというストレートな歓喜の感情が、締まりのない笑顔から伝わってくるようだ。
「おねえさまをパーティーに加えたいと思ったんです!」
「え、あなた冒険者登録をしていたの?」
「こんなこともあろうかと!」
どんなことよ!?
王子の婚約者が冒険者の資格を持っていたと知れたら、みなが腰を抜かすだろう。
怪我でもさせたら一大事だ。
そんな私の心配を余所に――ちゃっかりと私をパーティーメンバーに登録するアメリア。
「まだCランクのパーティーです。
お姉さまから見れば頼りないかもしれませんが……」
「パーティーに入れてもらえるだけ有り難いわ」
冒険者のランクはEランクから始まり、D→C→B→A→Sと続く。
パーティーのランクもまた同様だ。
Eランクの駆け出し冒険者は、パーティーを組むことも困難だ。
まずは雑用をこなして、ランクを上げていくことになると思っていた。
Cランクのパーティーと言えば十分中堅。
いきなり入れるのは幸運としか言いようがない。
「むしろEランクの私が、いきなり入って大丈夫なの?」
「最近はあまり顔を出せてませんが、リーダーは私です。
お姉さまの腕前は私が保証します!」
心強い言葉。
ずっと夢見てきた私より、アメリアが冒険者の先輩だというのは少し腑に落ちない。
「楽しみですね、明日からの冒険!」
少し複雑な私の心境を知ることもなく。
アメリアはパーティー登録証を幸せそうに見つめ、ニコニコと私にそう言った。
パーティーメンバーとの顔合わせは後日行うことにして、私たちは冒険者ギルドを後にする。
◇◆◇◆◇
(未来の王妃に、そんな暇あるはずがないのに……)
アメリアが城に帰った後。
私は内心でため息をついた。
アメリアは本格的に次期王妃としての位を約束されたことになる。
これからは、益々忙しくなるだろう。
自由気ままに冒険者として活動なんて夢のまた夢だ。
――私は知らなかったのだ。
ヒロインちゃんの執念は、私の想像の埒外にあるということを。
まずはあの食堂に行ってみたかったのよ!」
ついに平民になったのだ。
やりたいことはいくらでもあった。
(まず行きたい場所は――あそこ!)
冒険者御用達の大衆食堂。
これまで到底目にすることがなかった未知の料理を提供しているはずだ。
私は期待と共にその扉を開き、
「お姉さま!」
「あ、アメリア。どうしてここに!?」
いきなりアメリアとエンカウントした。
「ど、どうしてあなたがここにいるの。
何でここが分かったの!?」
「お姉さまのことなら、何でもお見通しです。
どこまでもついて行きます!」
え、何それ怖い。
私ストーキングされてるの?
内心ドン引きした私に、アメリアははじける笑みを向ける。
その笑みは、できれば婚約者(王子)に向けてあげて下さい。
「いつまで突っ立ってるんですか。
ほらほら、はやく座ってください!」
ポカンとする私を自分の席へと引っ張っていく。
勢いに負けた私は、アメリアの言葉に大人しく従うことにする。
「おばちゃん、名物串カツもう1つ。
お姉さま、飲み物はオレンジジュースで良いですか?」
「え、ええ……」
「それからロシアンたこ焼きで追加で」
私を席まで引きずり、アメリアは店員を呼びテキパキと注文を済ませた。
「よ、よく来るんですか?」
「無性に懐かしくなるんですよ、ここの味」
元平民のアメリアにとって、貴族が口にする料理よりこうした店の方が口に合うは当然だろう。
アメリアはホカホカのおまんじゅうにかぶりつくと、幸せそうな笑みを浮かべた。
(ああっ!
そんなはしたない食べ方をっ!)
教育係がいれば卒倒しそうな光景。
もっともここに口うるさい人はいない。
「マナーはすっかり忘れてしまったようね」
「ええ、お城にポイしてきました」
ジト目で見つめる私。
アメリアはいたずらっぽい笑みを浮かべる。
「おいしいですよ。
お姉さまも、お一つどうですか?」
「いただくわ」
私はアメリアに差し出された『たこ焼き』なる物を受け取った。
おそるおそるツンツンとつつく私を見て、アメリアは面白がりながら、
「お姉さま、こういうのは一気に食べるんですよ」
そう言いながら一口で口の中に放り込む。
そして「ね?」と私にも食べるように促す。
「な、なるほど?」
郷に入っては郷に従えという格言もある。
私も恐る恐る口の中に放り込んで、
(な、なにこれ。辛っ!?)
刺すような味に、思わず涙目になった。
思わず吐き出しそうになるが、元・貴族のプライドと理性を総動員して我慢。
「おいしいでしょう。まだまだありますからね?」
「え、遠慮しておくわ」
美味しそう2つめを頬張るアメリアを、信じられないと見つめる私。
(なるほど、庶民の味方の食事処は恐ろしいところね)
「ごめんなさい。
ロシアンたこ焼きは1つだけ外れで、激辛のものが入ってたんです。
まさか一発目から当てるなんて、お姉さまは持ってますね!」
アメリアはオレンジジュースをこちらに手渡した。
(なんでそんな恐ろしいものを勧めてくるのよ?)
不満を込めて睨むと、彼女はけらけらと屈託なく笑った。
(ああ、アメリアと話すのもこれで最後か)
楽しそうなアメリアを見て、少しだけしんみりしてしまう。
最後の語らいを楽しみ、私は食堂を後にした。
◇◆◇◆◇
「今日から冒険者としてやっていくのね!」
次に私が向かったのは、冒険者ギルドであった。
この国では、冒険者として活動するためにはギルドへの届出が必要となる。
冒険者ギルドの扉を叩き――
「待ってました、お姉さま!」
「アメリア、なんだってここに!?」
扉を開けると、なぜかアメリアが現れた。
ストーカーも真っ青な出現頻度、もはや軽いホラーである。
「ど、どうしてあなたがここにいるの。
というか何でここが分かったの!?」
「冒険者になるならここを訪れるに違いない!
簡単な推理ですよ、お姉さま!」
そういってアメリアはガバッと私の胸に飛び込んできた。
その可憐な姿は、どうか婚約者(王子)に以下略。
「何しに冒険者ギルドに?」
「もちろんお姉さまに会いに!」
「さっき会ったばっかりでしょう……」
呆れた目線を向けるも、まるで堪えた様子の無いアメリア。
一緒に居られて嬉しいというストレートな歓喜の感情が、締まりのない笑顔から伝わってくるようだ。
「おねえさまをパーティーに加えたいと思ったんです!」
「え、あなた冒険者登録をしていたの?」
「こんなこともあろうかと!」
どんなことよ!?
王子の婚約者が冒険者の資格を持っていたと知れたら、みなが腰を抜かすだろう。
怪我でもさせたら一大事だ。
そんな私の心配を余所に――ちゃっかりと私をパーティーメンバーに登録するアメリア。
「まだCランクのパーティーです。
お姉さまから見れば頼りないかもしれませんが……」
「パーティーに入れてもらえるだけ有り難いわ」
冒険者のランクはEランクから始まり、D→C→B→A→Sと続く。
パーティーのランクもまた同様だ。
Eランクの駆け出し冒険者は、パーティーを組むことも困難だ。
まずは雑用をこなして、ランクを上げていくことになると思っていた。
Cランクのパーティーと言えば十分中堅。
いきなり入れるのは幸運としか言いようがない。
「むしろEランクの私が、いきなり入って大丈夫なの?」
「最近はあまり顔を出せてませんが、リーダーは私です。
お姉さまの腕前は私が保証します!」
心強い言葉。
ずっと夢見てきた私より、アメリアが冒険者の先輩だというのは少し腑に落ちない。
「楽しみですね、明日からの冒険!」
少し複雑な私の心境を知ることもなく。
アメリアはパーティー登録証を幸せそうに見つめ、ニコニコと私にそう言った。
パーティーメンバーとの顔合わせは後日行うことにして、私たちは冒険者ギルドを後にする。
◇◆◇◆◇
(未来の王妃に、そんな暇あるはずがないのに……)
アメリアが城に帰った後。
私は内心でため息をついた。
アメリアは本格的に次期王妃としての位を約束されたことになる。
これからは、益々忙しくなるだろう。
自由気ままに冒険者として活動なんて夢のまた夢だ。
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