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28.【王国SIDE】エリーゼ、結界を爆破してしまう
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結界への魔力の注ぎ方なんて、私が知るはずもない。途方に暮れながらも、私は普段のように神に祈りを捧げることにした。胸で手を組んで神に祈りを捧げる。結界師はあんなことを言っていたが、聖女の祈りには奇跡を起こす力があるはずだ。
果たして、天から神々しい光が差す。
「おお、聖女様が――!」
「なんと神々しい……!」
神々しい光は結界に吸い込まれていき――
ポフンッ
そんな間抜けな音とともに、ここら一帯を守ってきた結界の一部が爆発した。純白の光が辺りを染め上げる――皮肉なことに、なんとも美しい爆発だった。
「……はあ?」
結界にデカデカと無惨な穴が空く。
さらに結界に空いた穴からは、どす黒い瘴気が流れ出してくる。結界の奥には巨大なモンスターがいるようで、らんらんと真っ赤に輝く目だけを覗かせていた。
それは獲物を求める、圧倒的強者の眼差し。
「あ……あ…………」
ぺたりと座り込んでしまう。リステン辺境伯領での恐怖が蘇ってくる。
直径1メートルにも満たなかった結界の穴。塞がるどころか、みるみるうちにサイズを増していく。
「あれは――やばいぞ。下手すると、100メートル級の穴が空く!」
「ここはもうダメだ。すぐに逃げろっ!」
何が起こっているのか理解できなかった。
目の前のあまりに恐ろしい光景。誰もが呆然と見つめるだけだったが、最初に我に返ったのは、近衛隊のリーダーだった。その声を受けて、止まっていた時がようやく動きだす。集まっていた人々が蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。
「お助け下さい、聖女様!」
「結界師なんて要らないんですよね!」
住民から、縋るような声をかけられるが、
(そんなの――無理に決まってるじゃない)
結界に空いた穴から、先ほど瞳を覗かせたモンスターが姿を見せる。巨大な――気が遠くなるほど巨大な、二足歩行の牛型モンスター。手に持つのは体に見合った巨大な斧。
恐怖のあまり身動きも取れなかった。
「エリーゼ様、こちらに!」
強引に立たされ乱暴に引っ張られる。そのまま、なすがままに私は馬車まで連れていかれた。
(何よこれ!? 何なのよ、これは!)
私は国を守るために、結界に魔力を注ごうとしたのだ。
それだけなのに――どうして、こんなことになった?
悪い夢でも見ているようだ。ガクガクと体が震えていた。ただ取り返しの付かないことをしてしまったという恐怖。怯える子供のように泣きじゃくりながら、背を丸めるしかなかった。
「なんでこんなことになるのよ。私はただ――」
御者が全力で馬車を走らせる。
現れたモンスターは1体だけではない。
結界に空いた穴から、続々と新たなモンスターが現れていた。もはや結界の"穴"と呼ぶことすら馬鹿らしいほどに広がってしまった異形の空間。禍々しい瘴気があふれ出し、結界の奥ではおぞましいモンスターがうごめく――まさしく、この世の終わりのような光景だった。
(あ、あんなのが向かってきたら……)
「この馬車、もっと速く走れないの? こんなんじゃ、追いつかれちゃう!」
「無茶言わないで下さい、これが限界です!」
幸いにして、モンスターはこちらに興味を示すことはなかった。自らの力を誇示するように、視界に入った建造物を嬉々として破壊して回っている。不幸中の幸いなのかもしれないが、もうこの地域に人間が住むことは叶わないだろう。
否、これから国内に向かって動き始めるのだとしたら……。
「ヒィッ」
腰を抜かした領主のもとに、牛型モンスターがノッソリと足を運んだ。彼を守るはずの兵たちは、すでに我先にと逃げ出していた。彼を本当に守ってくれるはずだった結界には、崇拝する聖女により無惨な穴が空いている。
本当に大切なものをついぞ理解してこなかった者の哀れな末路。
「どうして、こんなことに……。嫌だ、死にたくない……」
うわ言のように呟く。迫りくる死に怯える。
ブンッ
牛型のモンスターが、手に持つ斧を一閃。それだけでこの地の領主は、断末魔の悲鳴も上げられず絶命した。
私はそのすべてに、見て見ぬふりをしていた。
(こんなのは嘘よ。――こんなのは嘘よ)
全部、悪い夢。
馬車の中を沈黙が支配する。
何も見たくないというように手で顔を覆う私に、近衛隊の男からは冷たい視線が突き刺さっていた。
――いくら目を塞いだところで、現実からは逃げられないというのに。
果たして、天から神々しい光が差す。
「おお、聖女様が――!」
「なんと神々しい……!」
神々しい光は結界に吸い込まれていき――
ポフンッ
そんな間抜けな音とともに、ここら一帯を守ってきた結界の一部が爆発した。純白の光が辺りを染め上げる――皮肉なことに、なんとも美しい爆発だった。
「……はあ?」
結界にデカデカと無惨な穴が空く。
さらに結界に空いた穴からは、どす黒い瘴気が流れ出してくる。結界の奥には巨大なモンスターがいるようで、らんらんと真っ赤に輝く目だけを覗かせていた。
それは獲物を求める、圧倒的強者の眼差し。
「あ……あ…………」
ぺたりと座り込んでしまう。リステン辺境伯領での恐怖が蘇ってくる。
直径1メートルにも満たなかった結界の穴。塞がるどころか、みるみるうちにサイズを増していく。
「あれは――やばいぞ。下手すると、100メートル級の穴が空く!」
「ここはもうダメだ。すぐに逃げろっ!」
何が起こっているのか理解できなかった。
目の前のあまりに恐ろしい光景。誰もが呆然と見つめるだけだったが、最初に我に返ったのは、近衛隊のリーダーだった。その声を受けて、止まっていた時がようやく動きだす。集まっていた人々が蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。
「お助け下さい、聖女様!」
「結界師なんて要らないんですよね!」
住民から、縋るような声をかけられるが、
(そんなの――無理に決まってるじゃない)
結界に空いた穴から、先ほど瞳を覗かせたモンスターが姿を見せる。巨大な――気が遠くなるほど巨大な、二足歩行の牛型モンスター。手に持つのは体に見合った巨大な斧。
恐怖のあまり身動きも取れなかった。
「エリーゼ様、こちらに!」
強引に立たされ乱暴に引っ張られる。そのまま、なすがままに私は馬車まで連れていかれた。
(何よこれ!? 何なのよ、これは!)
私は国を守るために、結界に魔力を注ごうとしたのだ。
それだけなのに――どうして、こんなことになった?
悪い夢でも見ているようだ。ガクガクと体が震えていた。ただ取り返しの付かないことをしてしまったという恐怖。怯える子供のように泣きじゃくりながら、背を丸めるしかなかった。
「なんでこんなことになるのよ。私はただ――」
御者が全力で馬車を走らせる。
現れたモンスターは1体だけではない。
結界に空いた穴から、続々と新たなモンスターが現れていた。もはや結界の"穴"と呼ぶことすら馬鹿らしいほどに広がってしまった異形の空間。禍々しい瘴気があふれ出し、結界の奥ではおぞましいモンスターがうごめく――まさしく、この世の終わりのような光景だった。
(あ、あんなのが向かってきたら……)
「この馬車、もっと速く走れないの? こんなんじゃ、追いつかれちゃう!」
「無茶言わないで下さい、これが限界です!」
幸いにして、モンスターはこちらに興味を示すことはなかった。自らの力を誇示するように、視界に入った建造物を嬉々として破壊して回っている。不幸中の幸いなのかもしれないが、もうこの地域に人間が住むことは叶わないだろう。
否、これから国内に向かって動き始めるのだとしたら……。
「ヒィッ」
腰を抜かした領主のもとに、牛型モンスターがノッソリと足を運んだ。彼を守るはずの兵たちは、すでに我先にと逃げ出していた。彼を本当に守ってくれるはずだった結界には、崇拝する聖女により無惨な穴が空いている。
本当に大切なものをついぞ理解してこなかった者の哀れな末路。
「どうして、こんなことに……。嫌だ、死にたくない……」
うわ言のように呟く。迫りくる死に怯える。
ブンッ
牛型のモンスターが、手に持つ斧を一閃。それだけでこの地の領主は、断末魔の悲鳴も上げられず絶命した。
私はそのすべてに、見て見ぬふりをしていた。
(こんなのは嘘よ。――こんなのは嘘よ)
全部、悪い夢。
馬車の中を沈黙が支配する。
何も見たくないというように手で顔を覆う私に、近衛隊の男からは冷たい視線が突き刺さっていた。
――いくら目を塞いだところで、現実からは逃げられないというのに。
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