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24.【王国SIDE】世界一の結界師をクビにした愚か者たち
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私の「結界を聖女の力で修繕してみせる」という宣言に、国王は黙ったまま言葉を発しない。
(いけるっ!)
別にウソをついたわけではない。ただ――ちょっと未来の話をしただけなのだ。今から聖女の力を鍛えて国を守護できるようになれば、何も問題はない。
問題を先送りにするだけの言葉だったが、ここまで来てしまった以上はそれで押し通すしかないのだ。
「姉上、それは本当ですか?」
誤魔化しきれると確信したとき、アレクが意地悪くニヤリと笑った。そして、傍付きの者に何かをささやく。アレクの命令を受けてやってきたのは、私の見知らぬ老人たちだった。
「……誰よ、そいつら?」
「姉上が愚かにもクビにした結界師に代わり、新たに国を守護してくださる結界師様たちだ」
私の怪訝な顔を見て、アレクはニコリと笑みを浮かべる。現れた3人の老人は、アレクが紹介するとそれぞれ礼をしていく。
「大事になると思って、ツテを頼って大急ぎで結界師を3人雇い入れたのだ」
(何をしらじらしい! 昨日の今日で3人も結界師を雇えるわけないじゃない)
何から何まで、計算ずくだったのだろうか!?
アレクは、結界師の重要性を理解していたのだろう。その上で、私に失態をおかさせるためだけにリットをクビにさせたのだ。あり得ない判断だった。
「アレク、あなた結界師の重要性を知った上で、リットのやつをクビにすることを許容したの!?」
「あれほど反対したじゃないですか! でも……姉上の熱い気持ちに負けてしまった。勢いに押されて、結界師をクビにすることに同意してしまった――本当に一生の不覚です」
(真っ赤なウソ。止める気なんて、まったく無かったくせに!)
事態を静観する人々に訴えかけるように、アレクは自らの行動を恥じるような表情を作り出す。今やアレクは、完全に謁見の間の空気を味方に付けていた。
ろくに結界師のことを調べず行動にした私も、悪いかもしれない。それでも傍観したアレクも同罪――こうして一方的に断罪されるいわれは無い。
「聖女というのは、ほんとうに結界を維持できる力を持つ存在なのですか?」
「まさか、真っ赤なウソですよ。聖女は、光属性の術式が突出して得意なものに与えられる称号にすぎません。結界のことは結界師にしか分かりませんよ」
アレクは呼び寄せた結界師に、そう証言させた。
さらに結界師は、こうも証言していく。
「この国の結界師は、世界中で有名じゃった。これほど巨大な国をたった1人で守れる者など――世界中を探してもただ1人。否、歴史を遡っても見つかるかどうか」
結界師の口から語られるのは、リットに対する称賛。
「教えを乞いたいと望む者は数多い。しかし弟子はたったの1人しか取らなかったと言われている。外の結界師と、交わりを持とうとしない孤高の結界師」
(やめてよ、そんな評判は聞きたくもない!)
容赦なく突きつけられる、結界師としてのリットの評価。
「そんな常識外れの結界師に守られて、この国は栄えてきたのだろう」
そんなこと――私は知らなかったのに。
「そんな多大な恩恵を受けてきたにも拘らず、勢力争いの果てにクビ? この国の者たちは、どこまで愚かなのだ!」
アレクに雇われた結界師たちは、この場に集まった人々をひどく冷めた目で見ていた。その言葉は私だけに向けられた物でない。雇い主のアレクに対する苛立ちも感じられた。
自分たちの敬愛する結界師がクビになる一部始終を見ていたのだ。アレクに命じられ何も口を出せないまま。
不信感なんてレベルではないだろう。
「やはり結界師――リット殿は、この国には必要な人材だったのでは?」
「エリーゼ王女が先走って、取り返しのつかないことをしてしまった」
「新たな結界師様が、聖女の力なんてアテにならないと言っているではないか!」
私を糾弾する声が響く。
ざわめきが、一段と大きくなる。
この混乱を抑えられるものは、この場にはいなかった。
(いけるっ!)
別にウソをついたわけではない。ただ――ちょっと未来の話をしただけなのだ。今から聖女の力を鍛えて国を守護できるようになれば、何も問題はない。
問題を先送りにするだけの言葉だったが、ここまで来てしまった以上はそれで押し通すしかないのだ。
「姉上、それは本当ですか?」
誤魔化しきれると確信したとき、アレクが意地悪くニヤリと笑った。そして、傍付きの者に何かをささやく。アレクの命令を受けてやってきたのは、私の見知らぬ老人たちだった。
「……誰よ、そいつら?」
「姉上が愚かにもクビにした結界師に代わり、新たに国を守護してくださる結界師様たちだ」
私の怪訝な顔を見て、アレクはニコリと笑みを浮かべる。現れた3人の老人は、アレクが紹介するとそれぞれ礼をしていく。
「大事になると思って、ツテを頼って大急ぎで結界師を3人雇い入れたのだ」
(何をしらじらしい! 昨日の今日で3人も結界師を雇えるわけないじゃない)
何から何まで、計算ずくだったのだろうか!?
アレクは、結界師の重要性を理解していたのだろう。その上で、私に失態をおかさせるためだけにリットをクビにさせたのだ。あり得ない判断だった。
「アレク、あなた結界師の重要性を知った上で、リットのやつをクビにすることを許容したの!?」
「あれほど反対したじゃないですか! でも……姉上の熱い気持ちに負けてしまった。勢いに押されて、結界師をクビにすることに同意してしまった――本当に一生の不覚です」
(真っ赤なウソ。止める気なんて、まったく無かったくせに!)
事態を静観する人々に訴えかけるように、アレクは自らの行動を恥じるような表情を作り出す。今やアレクは、完全に謁見の間の空気を味方に付けていた。
ろくに結界師のことを調べず行動にした私も、悪いかもしれない。それでも傍観したアレクも同罪――こうして一方的に断罪されるいわれは無い。
「聖女というのは、ほんとうに結界を維持できる力を持つ存在なのですか?」
「まさか、真っ赤なウソですよ。聖女は、光属性の術式が突出して得意なものに与えられる称号にすぎません。結界のことは結界師にしか分かりませんよ」
アレクは呼び寄せた結界師に、そう証言させた。
さらに結界師は、こうも証言していく。
「この国の結界師は、世界中で有名じゃった。これほど巨大な国をたった1人で守れる者など――世界中を探してもただ1人。否、歴史を遡っても見つかるかどうか」
結界師の口から語られるのは、リットに対する称賛。
「教えを乞いたいと望む者は数多い。しかし弟子はたったの1人しか取らなかったと言われている。外の結界師と、交わりを持とうとしない孤高の結界師」
(やめてよ、そんな評判は聞きたくもない!)
容赦なく突きつけられる、結界師としてのリットの評価。
「そんな常識外れの結界師に守られて、この国は栄えてきたのだろう」
そんなこと――私は知らなかったのに。
「そんな多大な恩恵を受けてきたにも拘らず、勢力争いの果てにクビ? この国の者たちは、どこまで愚かなのだ!」
アレクに雇われた結界師たちは、この場に集まった人々をひどく冷めた目で見ていた。その言葉は私だけに向けられた物でない。雇い主のアレクに対する苛立ちも感じられた。
自分たちの敬愛する結界師がクビになる一部始終を見ていたのだ。アレクに命じられ何も口を出せないまま。
不信感なんてレベルではないだろう。
「やはり結界師――リット殿は、この国には必要な人材だったのでは?」
「エリーゼ王女が先走って、取り返しのつかないことをしてしまった」
「新たな結界師様が、聖女の力なんてアテにならないと言っているではないか!」
私を糾弾する声が響く。
ざわめきが、一段と大きくなる。
この混乱を抑えられるものは、この場にはいなかった。
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