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23.【王国SIDE】エリーゼ、聖女の力を過信する
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「お父さま、エリーゼ王女を連れてきました」
私が謁見の間に入ると、中にいる貴族たちの視線が突き刺さった。人数はリットにクビを言い渡した時と同様か――それ以上だろうか。社交界の場で何度か挨拶を受けたこともある、この国の中核にいる人物だ。
「ご苦労だった、アレクよ。
今後の国の行方を決める重大な話し合いだ。そなたからも意見を聞きたい」
「はいっ!」
弟のアレクは勢いよく返事をして、その場に待機する。
玉座に座る父は、いつも通り威厳に満ちた顔をしていた。暖かさの欠片もない冷たい視線に射抜かれ、私は思わず怖気づく。
「エリーゼ。リステン辺境伯の収める領地で、結界が破られたという報告が届いている。それは事実か?」
「事実です。領地の結界に直径30メートルの巨大な穴があき、そこからモンスターが侵入しておりました」
息をのむ声が聞こえる。国王は静かに考え込んでいたが、
「結界が破られる事はないか? 私は、結界師をクビにする時に、何度も念押しをしたはずだ。目先の利益にとらわれ、早まった判断をしているのではないかとな?」
平然と言ってのけた。
(この、クソオヤジ! 何その私が悪いみたいな言い方。出費を抑えられるならと、ろくに確認もせずノリノリだったくせに!)
娘の意見をホイホイ聞き入れた、愚かな国王。そんな批判を受け入れてでも、私だけのせいだと言い張るつもりだろうか。結界師にクビを言い渡したことは、そこまでの大問題だとでも言うのか。
「結界に穴があいただと!? 建国以来なかった――大事件ではないか!」
「直径30メートルだと? Aランクのモンスターも侵入できる大きさだぞ!」
「これが結界師をクビにしたせいだとしたら、とんでもないことだぞ!」
内心で叫び声を上げる私をよそに、謁見の間は混乱に包まれる。
ザワザワと、不安を叫ぶ声が広がっていく。そしてその矛先は、"改革"として、結界師をクビにするよう各所に働きかけていた私に向かう。
(冗談じゃない。こんな混乱の責任を取らされてたまるもんですか!)
「ご安心ください! すでに侵入したモンスターはリステン辺境伯の手によって打ち倒されております。結界の修繕もすでに行われており――」
「そんなことは聞いていない!」
声を荒げたのは、弟のアレクであった。大げさな身振り手振りを混じえ、私を糾弾するように叫ぶ。
「結界が破られた、というのは事実。『結界師など詐欺師だ』と、あれほど声高に叫んでおいて――その翌日に結界が破られたなど。姉上はこの件の責任を、どのように取るおつもりですか?」
「結界師を追い出したことと、結界の綻びには何の因果関係もありません!」
ギリ、と私は歯ぎしり。そう叫ぶしか手がなかった。
(おのれ……リットめ。こんな面倒なトラブル、よくも残していってくれたわね)
ここにはいない結界師を、内心で口汚く罵る。まったくもって逆恨みであった。
(落ち着きなさい、エリーゼ。結界師をクビにしたことは、どう言い繕っても、私の責任にされてしまう。それが問題にならないぐらい、私の有用性が示せれば良い!)
「結界なんて、聖女の力で修繕できます。あんな詐欺師、聖女の私がいれば不要です」
それが事実であるかは関係ない。
私に宿った聖女の力は、この程度の逆境なら簡単に跳ね返せるはずなのだ。脳裏に、リステン辺境伯領で見た絶望的な光景がよみがえるが――そんなことより、自分の立場の方がはるかに大切だった。
この場で隙を見せるわけにはいかないのだ。
私が謁見の間に入ると、中にいる貴族たちの視線が突き刺さった。人数はリットにクビを言い渡した時と同様か――それ以上だろうか。社交界の場で何度か挨拶を受けたこともある、この国の中核にいる人物だ。
「ご苦労だった、アレクよ。
今後の国の行方を決める重大な話し合いだ。そなたからも意見を聞きたい」
「はいっ!」
弟のアレクは勢いよく返事をして、その場に待機する。
玉座に座る父は、いつも通り威厳に満ちた顔をしていた。暖かさの欠片もない冷たい視線に射抜かれ、私は思わず怖気づく。
「エリーゼ。リステン辺境伯の収める領地で、結界が破られたという報告が届いている。それは事実か?」
「事実です。領地の結界に直径30メートルの巨大な穴があき、そこからモンスターが侵入しておりました」
息をのむ声が聞こえる。国王は静かに考え込んでいたが、
「結界が破られる事はないか? 私は、結界師をクビにする時に、何度も念押しをしたはずだ。目先の利益にとらわれ、早まった判断をしているのではないかとな?」
平然と言ってのけた。
(この、クソオヤジ! 何その私が悪いみたいな言い方。出費を抑えられるならと、ろくに確認もせずノリノリだったくせに!)
娘の意見をホイホイ聞き入れた、愚かな国王。そんな批判を受け入れてでも、私だけのせいだと言い張るつもりだろうか。結界師にクビを言い渡したことは、そこまでの大問題だとでも言うのか。
「結界に穴があいただと!? 建国以来なかった――大事件ではないか!」
「直径30メートルだと? Aランクのモンスターも侵入できる大きさだぞ!」
「これが結界師をクビにしたせいだとしたら、とんでもないことだぞ!」
内心で叫び声を上げる私をよそに、謁見の間は混乱に包まれる。
ザワザワと、不安を叫ぶ声が広がっていく。そしてその矛先は、"改革"として、結界師をクビにするよう各所に働きかけていた私に向かう。
(冗談じゃない。こんな混乱の責任を取らされてたまるもんですか!)
「ご安心ください! すでに侵入したモンスターはリステン辺境伯の手によって打ち倒されております。結界の修繕もすでに行われており――」
「そんなことは聞いていない!」
声を荒げたのは、弟のアレクであった。大げさな身振り手振りを混じえ、私を糾弾するように叫ぶ。
「結界が破られた、というのは事実。『結界師など詐欺師だ』と、あれほど声高に叫んでおいて――その翌日に結界が破られたなど。姉上はこの件の責任を、どのように取るおつもりですか?」
「結界師を追い出したことと、結界の綻びには何の因果関係もありません!」
ギリ、と私は歯ぎしり。そう叫ぶしか手がなかった。
(おのれ……リットめ。こんな面倒なトラブル、よくも残していってくれたわね)
ここにはいない結界師を、内心で口汚く罵る。まったくもって逆恨みであった。
(落ち着きなさい、エリーゼ。結界師をクビにしたことは、どう言い繕っても、私の責任にされてしまう。それが問題にならないぐらい、私の有用性が示せれば良い!)
「結界なんて、聖女の力で修繕できます。あんな詐欺師、聖女の私がいれば不要です」
それが事実であるかは関係ない。
私に宿った聖女の力は、この程度の逆境なら簡単に跳ね返せるはずなのだ。脳裏に、リステン辺境伯領で見た絶望的な光景がよみがえるが――そんなことより、自分の立場の方がはるかに大切だった。
この場で隙を見せるわけにはいかないのだ。
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