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53. 困惑がこちらにまで伝わってくるようです

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「魔族領へと追放されたフィーネ・アレイドルは、あろうことか魔族たちと手を結んだのだ。
 すべては魔族領への追放刑に不服を持ち、人類に復讐するために違いない!」

 冷ややかな会場の空気もなんのその。
 フォード王子は、どうにか形勢を変えようと「魔族と組んで人間を滅ぼそうとしている」と今回の裁判の核心に迫る部分を口にします。



「どうせ自分の失態を帳消しにするために、更なる罪をフィーネ様になすりつけようとしているのでは?」
「普通の人間が至る発想ではありませんわ。さすがに信じられませんわね」
「だとしても、真実は明らかにして欲しいですな」
「ああ。フィーネ様が魔族領から生還したのは事実。
 そこで何があったかは、気になるところだ」

 ざわざわざと傍聴席からささやきき声が聞こえます。 
 会場内の大半は、フォード王子に疑わし気な目線を向けています。


「わ、私からも証言します!」

 形勢の不利を悟ったのでしょうか。
 ジュリーヌさんが、そう言いながらピョコっと姿をのぞかせました。


「フォード王子の新たな婚約者、ジュリーヌ・カレイドルです!」

 私の出番! とばかりに、許可も取らずに勝手に壇上だんじょうに登ったジュリーヌさんは、好き勝手に話し始めました。
 会場内からは「非常識な!」と刺すような冷たい視線が注がれますが、まるでこたえた様子もありません。


「私の得意魔法は『遠見の魔法』です。
 このような場所に立つのは恐くて恐くて。
 だとしても、国を悲劇的な未来から救うため……勇気を出して証言します!」

 まるで巨悪に立ち向かう、か弱い少女のように。
 内面の醜さを巧妙に隠したまま、ジュリーヌさんはキッとこちらを睨みつけました。

「フィーネ様。私はあなたの罪を告発します!」

「ジュリーヌは非常に優秀な魔法使いだ。
 遠見の魔法は特に優秀で信用できることを、私が保証する。
 裁判長、ジュリーヌに発言の許可を」

 そっとフォード王子がそう言い添えます。

 仮に私が無実だった場合、ジュリーヌさんは私を嵌めようとした張本人になります。
 私の有罪を叫ぶフォード王子が保証したところで、ジュリーヌさんを信頼できるはずがないでしょう。
 裁判長は渋い顔をしていましたが、やがては「良いだろう」と頷いてみせました。


「地獄から這い戻ってでも復讐してやる、と言い残してフィーネ様は魔族領に追放されました。
 パーティー会場で見せた人々を呪うような執念が忘れられず、私はフィーネ様のことを定期的に『遠見の魔法』で見守ることにしたのです」


 フォード王子もジュリーヌさんも、なぜこうも人の発言を捏造するのでしょうか。
 恐ろしいものを見てしまったとばかりに声を震わせ、ジュリーヌさんは言葉を続けます。

「私は信じられない光景を見ることになりました。
 魔族領に辿り着いたフィーネ様は、現れた魔王直属の部下をアゴで使ったんです。
 更には自身を魔王城へと連れて行かせた。まるで魔族の上に君臨する、女王のような立ち振る舞いでした」

 ジュリーヌさんは、まるで本当に見ていたかのように。
 さらには私の心証を悪くするために、あからさまな虚飾も交えながら。
 魔族領での出来事を語ってみせたのでした。


「――このように私は彼女の行いを見てきました。
 フィーネ様が魔族たちへ情報を流し、魔王と組んで国を滅ぼそうとしているのは明白です!」

 涙を流しながら必死に訴えかけるジュリーヌさん。
 我が意を得たりとばかりに、フォード王子も声を張り上げました。

「ジュリーヌの言う通りだ。
 この国はフィーネ・アレイドルという類を見ない大罪人により、前例のない危機に立たされている。我が国は団結して魔族へと立ち向かわねばならない。
 どうか、賢明な判断をお願いしたい!」



 パラパラパラと、なぜか小さな拍手が起こり――あまりの場違いっぷりにすぐに消えていきました。
 拍手している人物を見ると、断罪パーティーで見たことがある顔ぶれが並んでいたのを確認。
 なるほど。フォード王子は自らのがかかった者を会場に送り込むことに成功していたのですね。



 ――歴史に残る大罪人を裁くため、これほどの規模の裁判を開いておいて。
 ――用意した証拠は、フォード王子に都合の良い演説だけ?

 フォード王子たちの熱弁とは逆に、会場の空気は冷え切り見事に静まり返っています。
 傍聴人の困惑が、こちらにまで伝わってくるようです。
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