50 / 71
49. なるほどな、魔王様が惚れ込むわけだ
しおりを挟む
カレイドル男爵令嬢とのやり取りを終えて。
あいつの思い通りにさせてなるものか、と私は決意を新たに今後の方策を練ります。
「フォード王子の言い分は全くの言いがかり。
仮に遠見の魔法での発言が認められたとしても、私が魔族と組んで国に敵対しているという証拠になるはずがありません」
私の潔白を証明することが、そのまま魔族に敵意がないということの証拠にもなる。
「なぜ魔族たちに助けられたのか? というのは確実に聞かれるでしょう。
最初からこの国に攻め入るために魔族と内通していたから助けられた、フォード王子はそう主張するつもりでしょうね」
結界のおかげで魔族はこの国には入ってこられない、そう信じられているはずです。そんな中どうやって魔族と内通していたと主張するのかは興味深いですが……
「正直に答えるなら。幼いころに魔王の部下を無意識に救っていたため、魔王に恩人と思われていたんです、という答えになりますが……」
――すごい嘘っぽい
真実は作り話よりも噓っぽい。本人ですら、いまだに信じられないような出来過ぎた話なのです。
なんならフォード王子の主張する「復讐のため魔族と手を組んで、人間を滅ぼそうとした」という主張の方がよっぽどあり得そうと思わせます。
――だとしても、正直に話すしか道はありませんよね
私は手の中にすっぽりと収まる小さな宝玉を、そっと握り込みました。
たとえ話すことができなくとも、魔王様が今も見てくれていると思うだけで勇気がわいてきます。
たとえ道が困難だったとしたって。こんな事で、へこたれている場合ではありません。
◇◆◇◆◇
「貴族裁判の日程が決まったぞ。今から2日後だそうだ」
「そうですか……」
答えのでない思案に沈んでいると、地下牢まで兵士が伝えにきました。
ずいぶんと急な話です。
「へへっ。我らがひめさまは、これからの自らの命運が決まろうっていうのに、随分と落ち着いてるんだな?」
「え……?」
人間の中にその呼び方をする者はいないはず。
だとすると……
「あなたですね。重要な情報を引っこ抜いて、ポンポンと魔族領に渡しているスパイは」
「スパイって、また人聞きが悪いことを」
「事実じゃないですか……」
国家転覆罪の疑いでとらえられた大罪人、牢の中で魔族領のスパイと秘密裏に会談。フォード王子がこの場面を見たら「ほら見たことか!」と声高に叫びそうです。
「それで、いつごろ事を起こすんだ? 和平交渉のためなんてのは表向きの理由だろう。
結界内に潜伏している魔族たちの士気は十分だぜ」
「冗談でもやめてくださいね?」
いきなり何とも恐ろしいことを口にする魔族に、私はぎこちない笑みを浮かべます。
魔王様が、どんな気持ちで私を送り出したと思っているのか。
「でもよ、この国は本当に腐ってると思わねえか?
フォード王子は滅茶苦茶だし、放っている国王も大概だろう」
「否定はしません」
「フォード王子の策略で、人間は魔族への警戒心を強めている。
……この火種を利用して、戦争を起こしたいやつがいるんだろうさ」
脳裏をよぎったのは、戦争が起きた後のことを平然と話すカレイドル男爵令嬢の姿。
「魔王様が人間と和平が結べると夢を見ているのは、ひめさまが原因だろう?
甘っちょろい夢を見るのは勝手だ。けどな、魔族が滅びに向かうような選択を、取らせるわけにはいかないんだわ」
魔族がおそれているのは歴史を繰り返すこと。だまし討ちのような形でまた魔王が討たれること。
「大勢の血が流れた後に、何が残るというんですか」
「多少の犠牲で、魔族の平穏が保たれるなら安いもんだろう」
目の前のスパイは、彼なりに魔族の未来を考えているのでしょう。
だとしても、私は魔王様の期待を背負ってここにいます。例え魔王様の配下の魔族であったとしても――邪魔されるわけにはいきません。
「そんな勝手を、許すわけにはいきませんよ」
「ほう。非力な人間のくせに。
許さないと言って、どうするつもりだ?」
「……魔王様に、あなたの暴走を伝えます」
残念ながら力づくで魔族を抑え込むことはできません。
大口を叩きはしましたが、私にできることは魔王様にここで起きていることを伝えるのが関の山。
「その宝玉は、ひめさまの命綱じゃないのか?
もしここで人間たちに襲われでもしたら、身を守るすべもないだろうに。そんなことのために使っちまって良いのか?」
「止める手段がそれしかないなら、私は迷いませんよ。
私の身よりも、魔王様にこの情報を伝える方が大切ですから」
スパイの魔族の顔を見据えて、キッパリと私は告げる。
「ふっ……。なるほどな、魔王様が惚れ込むわけだ」
魔族は一瞬ほうけたような顔をしていましたが、やがてふっと表情を崩すると穏やかな笑みを浮かべたのでした。
あいつの思い通りにさせてなるものか、と私は決意を新たに今後の方策を練ります。
「フォード王子の言い分は全くの言いがかり。
仮に遠見の魔法での発言が認められたとしても、私が魔族と組んで国に敵対しているという証拠になるはずがありません」
私の潔白を証明することが、そのまま魔族に敵意がないということの証拠にもなる。
「なぜ魔族たちに助けられたのか? というのは確実に聞かれるでしょう。
最初からこの国に攻め入るために魔族と内通していたから助けられた、フォード王子はそう主張するつもりでしょうね」
結界のおかげで魔族はこの国には入ってこられない、そう信じられているはずです。そんな中どうやって魔族と内通していたと主張するのかは興味深いですが……
「正直に答えるなら。幼いころに魔王の部下を無意識に救っていたため、魔王に恩人と思われていたんです、という答えになりますが……」
――すごい嘘っぽい
真実は作り話よりも噓っぽい。本人ですら、いまだに信じられないような出来過ぎた話なのです。
なんならフォード王子の主張する「復讐のため魔族と手を組んで、人間を滅ぼそうとした」という主張の方がよっぽどあり得そうと思わせます。
――だとしても、正直に話すしか道はありませんよね
私は手の中にすっぽりと収まる小さな宝玉を、そっと握り込みました。
たとえ話すことができなくとも、魔王様が今も見てくれていると思うだけで勇気がわいてきます。
たとえ道が困難だったとしたって。こんな事で、へこたれている場合ではありません。
◇◆◇◆◇
「貴族裁判の日程が決まったぞ。今から2日後だそうだ」
「そうですか……」
答えのでない思案に沈んでいると、地下牢まで兵士が伝えにきました。
ずいぶんと急な話です。
「へへっ。我らがひめさまは、これからの自らの命運が決まろうっていうのに、随分と落ち着いてるんだな?」
「え……?」
人間の中にその呼び方をする者はいないはず。
だとすると……
「あなたですね。重要な情報を引っこ抜いて、ポンポンと魔族領に渡しているスパイは」
「スパイって、また人聞きが悪いことを」
「事実じゃないですか……」
国家転覆罪の疑いでとらえられた大罪人、牢の中で魔族領のスパイと秘密裏に会談。フォード王子がこの場面を見たら「ほら見たことか!」と声高に叫びそうです。
「それで、いつごろ事を起こすんだ? 和平交渉のためなんてのは表向きの理由だろう。
結界内に潜伏している魔族たちの士気は十分だぜ」
「冗談でもやめてくださいね?」
いきなり何とも恐ろしいことを口にする魔族に、私はぎこちない笑みを浮かべます。
魔王様が、どんな気持ちで私を送り出したと思っているのか。
「でもよ、この国は本当に腐ってると思わねえか?
フォード王子は滅茶苦茶だし、放っている国王も大概だろう」
「否定はしません」
「フォード王子の策略で、人間は魔族への警戒心を強めている。
……この火種を利用して、戦争を起こしたいやつがいるんだろうさ」
脳裏をよぎったのは、戦争が起きた後のことを平然と話すカレイドル男爵令嬢の姿。
「魔王様が人間と和平が結べると夢を見ているのは、ひめさまが原因だろう?
甘っちょろい夢を見るのは勝手だ。けどな、魔族が滅びに向かうような選択を、取らせるわけにはいかないんだわ」
魔族がおそれているのは歴史を繰り返すこと。だまし討ちのような形でまた魔王が討たれること。
「大勢の血が流れた後に、何が残るというんですか」
「多少の犠牲で、魔族の平穏が保たれるなら安いもんだろう」
目の前のスパイは、彼なりに魔族の未来を考えているのでしょう。
だとしても、私は魔王様の期待を背負ってここにいます。例え魔王様の配下の魔族であったとしても――邪魔されるわけにはいきません。
「そんな勝手を、許すわけにはいきませんよ」
「ほう。非力な人間のくせに。
許さないと言って、どうするつもりだ?」
「……魔王様に、あなたの暴走を伝えます」
残念ながら力づくで魔族を抑え込むことはできません。
大口を叩きはしましたが、私にできることは魔王様にここで起きていることを伝えるのが関の山。
「その宝玉は、ひめさまの命綱じゃないのか?
もしここで人間たちに襲われでもしたら、身を守るすべもないだろうに。そんなことのために使っちまって良いのか?」
「止める手段がそれしかないなら、私は迷いませんよ。
私の身よりも、魔王様にこの情報を伝える方が大切ですから」
スパイの魔族の顔を見据えて、キッパリと私は告げる。
「ふっ……。なるほどな、魔王様が惚れ込むわけだ」
魔族は一瞬ほうけたような顔をしていましたが、やがてふっと表情を崩すると穏やかな笑みを浮かべたのでした。
0
お気に入りに追加
1,433
あなたにおすすめの小説
【完】婚約破棄?望みません。王子の土下座を所望です。
桜 鴬
恋愛
【週末集中連載。4/4 PM18:10完結】
第三王子の婚約者である私は魔術師でもある。私は王命により隣国との戦争にて、広域魔法による稲妻を放ち、布陣を敷く隣国の兵たちを全滅させた。この大量殺戮により、隣国は白旗を上げ停戦となる。しかし避難指示の出ていたはずの自国の村人たちもが、連絡の遅延により巻き込まれ全滅してしまった。
***
「望みのままに。ですか? ならば! 」
「ほう。やはりそなたにも欲はあるのだな? なんなりと申せ。世に叶えられぬことなどない」
戦争の功労者が順に呼ばれ、各自に勲章が渡され望みを聞かれている。今は私の番だった。
「では遠慮なく。後から無理だの不敬罪など、取ってつけないで下さいませ。決して無理難題では有りません」
「父上! コヤツに報奨など必用有りません! 国に献身することは当たり前のことです! 」
この俺様が私の婚約者である第三王子。私の望みはこの王子に……
「では。民に向けて、第三王子からの土下座を要求いたします」
土下座は私にではなく民にです!婚約破棄?それは私からは望みません。なぜ私からは破棄をする必要が?そちらからどうぞ。まあ婚姻するつもりはありませんけど?
これは孤児であった私が本当の自分をみつけ、幸せになるまでの物語。
本編・①~⑦まで。
後日談(もと婚約者。王子side)・㊤㊥㊦
10篇にて完結予定です。
*****
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
運命に勝てない当て馬令嬢の幕引き。
ぽんぽこ狸
恋愛
気高き公爵家令嬢オリヴィアの護衛騎士であるテオは、ある日、主に天啓を受けたと打ち明けられた。
その内容は運命の女神の聖女として召喚されたマイという少女と、オリヴィアの婚約者であるカルステンをめぐって死闘を繰り広げ命を失うというものだったらしい。
だからこそ、オリヴィアはもう何も望まない。テオは立場を失うオリヴィアの事は忘れて、自らの道を歩むようにと言われてしまう。
しかし、そんなことは出来るはずもなく、テオも将来の王妃をめぐる運命の争いの中に巻き込まれていくのだった。
五万文字いかない程度のお話です。さくっと終わりますので読者様の暇つぶしになればと思います。
この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
成り上がり令嬢暴走日記!
笹乃笹世
恋愛
異世界転生キタコレー!
と、テンションアゲアゲのリアーヌだったが、なんとその世界は乙女ゲームの舞台となった世界だった⁉︎
えっあの『ギフト』⁉︎
えっ物語のスタートは来年⁉︎
……ってことはつまり、攻略対象たちと同じ学園ライフを送れる……⁉︎
これも全て、ある日突然、貴族になってくれた両親のおかげねっ!
ーー……でもあのゲームに『リアーヌ・ボスハウト』なんてキャラが出てた記憶ないから……きっとキャラデザも無いようなモブ令嬢なんだろうな……
これは、ある日突然、貴族の仲間入りを果たしてしまった元日本人が、大好きなゲームの世界で元日本人かつ庶民ムーブをぶちかまし、知らず知らずのうちに周りの人間も巻き込んで騒動を起こしていく物語であるーー
果たしてリアーヌはこの世界で幸せになれるのか?
周りの人間たちは無事でいられるのかーー⁉︎
2度目の人生は好きにやらせていただきます
みおな
恋愛
公爵令嬢アリスティアは、婚約者であるエリックに学園の卒業パーティーで冤罪で婚約破棄を言い渡され、そのまま処刑された。
そして目覚めた時、アリスティアは学園入学前に戻っていた。
今度こそは幸せになりたいと、アリスティアは婚約回避を目指すことにする。
身分差婚~あなたの妻になれないはずだった~
椿蛍
恋愛
「息子と別れていただけないかしら?」
私を脅して、別れを決断させた彼の両親。
彼は高級住宅地『都久山』で王子様と呼ばれる存在。
私とは住む世界が違った……
別れを命じられ、私の恋が終わった。
叶わない身分差の恋だったはずが――
※R-15くらいなので※マークはありません。
※視点切り替えあり。
※2日間は1日3回更新、3日目から1日2回更新となります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる