上 下
9 / 71

9. どうしても魔王様と会わないとダメ?

しおりを挟む
『生まれつきだから仕方ないって?
 ぼくばっかり、ひめさまに愛されててずるいって……?』

 カァ...

『まあまあ、贅沢言っても仕方ないでしょ。ゾンビとかよりはマシでしょ?』

 あ、ゾンビなら神聖魔法がよく効きそう。
 魔族全体によく効くと聞いたけど、中でもゾンビ相手ならピカイチね。
 そういう意味では、カーくんより怖くないかも?

『ひめさま、カーくんこう見えてかなり落ち込んでるから。
 素朴な感想で、追撃しないで。
 ついでに、魔族を倒すこと前提に話さないで!』

 癒しの魔法って、神聖魔法ですよね。
 過去の私が使った癒しの力は、神聖魔法にもかかわらずアビーの傷を癒せたんですね。

 慌てたアビーと、しょんぼりとうなだれるカーくんを見て

「ふふっ」

 思わず笑みがこぼれました。

『ひめさま?』
「ごめんなさい。でもおかしくて。
 こうやって魔族とお話をすることになるとは思わなくて」

 実は、人族も魔族も変わらない部分があるのかも。

 身一つで、魔族領に放り出されたときはどうなるかと思いましたが。
 こうしてアビーとカーくんに出会って。
 どうにか、ここでも生きていける気がしましたよ! 

 そんな中、アビーがおずおずと。

『ひめさま……お願いがあるんだけど』
「なに? 何でも言って」

『魔王様に、会って欲しいんだ』

 はい?
 ……一体、何の冗談でしょう。



◇◆◇◆◇

「魔王様って、あの魔王ですか?」
『うん。どの魔王なのかは分からないけど魔族の王様。ひめさまが想像してる通りだと思うよ』

 魔族の頂点。
 それは私たち人間にとっては、恐怖の象徴ともいえる存在でした。

「魔族の王様……。なんで、そんな偉い魔族が、私なんかと会いたがっているの?」

 それでも、アビーの頼みなら。
 ここで唯一の協力者を失うわけにはいきません。

『う~ん。内緒!』

 どこか面白がるような口調でアビー。

 わたしとしては気が気ではありません。
 私の脳内魔王が『今宵の生贄は、人間の少女か!』などと言いながら、むしゃむしゃと私を食べてしまいました。
 ……うん、魔王怖い。

 一度も会ったことはありませんが、まるで仲良くなれそうな未来が見えません。

「アビー? どうしても魔王様と会わないとダメ?」
『ひめさまお願い! 行かないなら魔王様、飛んできちゃうかも!』

 ヒエッ。
 なんで、魔王が直々に!?
 何か恨みをかうことでもしましたか!?

『もともと、カーくんとぼくがここまで来たのも、ひめさまをお迎えするためだったんだ。
 魔王様には信頼されてるんだよ!」

 さらにアビーから追加の情報。
 カァ! とカーくんが誇らしげに鳴き声を上げました。
 どうしよう……。
 と悩みましたが、考えたところで答えは1つしかでません。

「わかりました。魔王様に会いましょう」

 アビーたちの協力がなければ、魔族領で長生きはできないでしょう。
 ならば魔王に謁見するというミッションに挑むほうが、まだ生き残れる可能性は高そうです。

『ひめさま、ありがとう!』

 嬉しそうに足元に駆け寄ってきたアビーを抱きかかえます。
 目まぐるしく変わる状況には、ついていけません。

 ――ならば

 今たしかに腕の中にある、もふもふの手触りを楽しんで心を落ち着かせましょう。

 何やらもの言いたげな顔つきで、カーくんがこちらを見上げてきました。
 歓迎していた喜びを、殺気と捉えてしまった申し訳なさ。
 でも、それ以上に……

(やっぱり、この鳥苦手だわ……)

 特にあの鋭い目つきが。
 害意はない、と聞いた今でもその迫力は健在でした。

『ひめさま怯えてる。カーくん、笑顔!』

 カッカッカッカァァ!

 クチバシが大きく開かれ、こちらに向けられました。
 私は、人を安心させるのが『笑顔』だと教わったのですが、魔族領だと違うのでしょうか。

 あれは、どう見ても笑顔ではなく威嚇行為です。
 反射的にシールド魔法を唱えたくなりますよ!

『はあ、前途多難だね……。2人には、あとあと打ち解けてもらうとして。
 魔王様を待たせてる、行こう』
「どこに?」

 アビーは首だけちょこんとこちらに向けると、にっこりこう答えました。

『魔王城!』

 ですよねー?
 いかにも魔王が住んでいそうな名前をしています。
 生きて帰れるよう祈りましょう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

魔法の使えない不良品伯爵令嬢、魔導公爵に溺愛される

ねこいかいち
恋愛
魔法で栄えた国家グリスタニア。人々にとって魔力の有無や保有する魔力《オド》の量が存在価値ともいえる中、魔力の量は多くとも魔法が使えない『不良品』というレッテルを貼られた伯爵令嬢レティシア。両親や妹すらまともに接してくれない日々をずっと送っていた。成人間近のある日、魔導公爵が嫁探しのパーティーを開くという話が持ち上がる。妹のおまけとして参加させられたパーティーで、もの静かな青年に声をかけられ……。 一度は書いてみたかった王道恋愛ファンタジーです!

辺境薬術師のポーションは至高 騎士団を追放されても、魔法薬がすべてを解決する

鶴井こう
ファンタジー
【書籍化しました】 余分にポーションを作らせ、横流しして金を稼いでいた王国騎士団第15番隊は、俺を追放した。 いきなり仕事を首にされ、隊を後にする俺。ひょんなことから、辺境伯の娘の怪我を助けたことから、辺境の村に招待されることに。 一方、モンスターたちのスタンピードを抑え込もうとしていた第15番隊。 しかしポーションの数が圧倒的に足りず、品質が低いポーションで回復もままならず、第15番隊の守備していた拠点から陥落し、王都は徐々にモンスターに侵略されていく。 俺はもふもふを拾ったり農地改革したり辺境の村でのんびりと過ごしていたが、徐々にその腕を買われて頼りにされることに。功績もステータスに表示されてしまい隠せないので、褒賞は甘んじて受けることにしようと思う。

天才と呼ばれた彼女は無理矢理入れられた後宮で、怠惰な生活を極めようとする

カエデネコ
恋愛
※カクヨムの方にも載せてあります。サブストーリーなども書いていますので、よかったら、お越しくださいm(_ _)m リアンは有名私塾に通い、天才と名高い少女であった。しかしある日突然、陛下の花嫁探しに白羽の矢が立ち、有無を言わさず後宮へ入れられてしまう。 王妃候補なんてなりたくない。やる気ゼロの彼女は後宮の部屋へ引きこもり、怠惰に暮らすためにその能力を使うことにした。

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

【完結】忘れられた王女は獣人皇帝に溺愛される

雑食ハラミ
恋愛
平民として働くロザリンドは、かつて王女だった。 貴族夫人の付添人としてこき使われる毎日だったロザリンドは、ある日王宮に呼び出される。そこで、父の国王と再会し、獣人が治める国タルホディアの皇帝に嫁ぐようにと命令された。 ロザリンドは戸惑いながらも、王族に復帰して付け焼刃の花嫁修業をすることになる。母が姦淫の罪で処刑された影響で身分をはく奪された彼女は、被差別対象の獣人に嫁がせるにはうってつけの存在であり、周囲の冷ややかな視線に耐えながら隣国タルホディアへと向かった。 しかし、新天地に着くなり早々体調を崩して倒れ、快復した後も夫となるレグルスは姿を現わさなかった。やはり自分は避けられているのだろうと思う彼女だったが、ある日宮殿の庭で放し飼いにされている不思議なライオンと出くわす。そのライオンは、まるで心が通じ合うかのように彼女に懐いたのであった。 これは、虐げられた王女が、様々な障害やすれ違いを乗り越えて、自分の居場所を見つけると共に夫となる皇帝と心を通わすまでのお話。

ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました

杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」 王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。 第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。 確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。 唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。 もう味方はいない。 誰への義理もない。 ならば、もうどうにでもなればいい。 アレクシアはスッと背筋を伸ばした。 そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺! ◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。 ◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。 ◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。 ◆全8話、最終話だけ少し長めです。 恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。 ◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。 ◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03) ◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます! 9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!

【完結】魔王様、溺愛しすぎです!

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
「パパと結婚する!」  8万年近い長きにわたり、最強の名を冠する魔王。勇者を退け続ける彼の居城である『魔王城』の城門に、人族と思われる赤子が捨てられた。その子を拾った魔王は自ら育てると言い出し!? しかも溺愛しすぎて、周囲が大混乱!  拾われた子は幼女となり、やがて育て親を喜ばせる最強の一言を放った。魔王は素直にその言葉を受け止め、嫁にすると宣言する。  シリアスなようでコメディな軽いドタバタ喜劇(?)です。 【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう 【表紙イラスト】しょうが様(https://www.pixiv.net/users/291264) 挿絵★あり 【完結】2021/12/02 ※2022/08/16 第3回HJ小説大賞前期「小説家になろう」部門 一次審査通過 ※2021/12/16 第1回 一二三書房WEB小説大賞、一次審査通過 ※2021/12/03 「小説家になろう」ハイファンタジー日間94位 ※2021/08/16、「HJ小説大賞2021前期『小説家になろう』部門」一次選考通過作品 ※2020年8月「エブリスタ」ファンタジーカテゴリー1位(8/20〜24) ※2019年11月「ツギクル」第4回ツギクル大賞、最終選考作品 ※2019年10月「ノベルアップ+」第1回小説大賞、一次選考通過作品 ※2019年9月「マグネット」ヤンデレ特集掲載作品

五年目の浮気、七年目の破局。その後のわたし。

あとさん♪
恋愛
大恋愛での結婚後、まるまる七年経った某日。 夫は愛人を連れて帰宅した。(その愛人は妊娠中) 笑顔で愛人をわたしに紹介する夫。 え。この人、こんな人だったの(愕然) やだやだ、気持ち悪い。離婚一択! ※全15話。完結保証。 ※『愚かな夫とそれを見限る妻』というコンセプトで書いた第四弾。 今回の夫婦は子無し。騎士爵(ほぼ平民)。 第一弾『妻の死を人伝てに聞きました。』 第二弾『そういうとこだぞ』 第三弾『妻の死で思い知らされました。』 それぞれ因果関係のない独立したお話です。合わせてお楽しみくださると一興かと。 ※この話は小説家になろうにも投稿しています。 ※2024.03.28 15話冒頭部分を加筆修正しました。

処理中です...