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13.守護竜の心

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 いつの間にか、ラフィーネとの通信は途絶えていました。

 大地を揺るがさんばかりの守護竜の祈り。
 王宮で発生した混乱も、ラフィーネとの通信で容易に想像できました。

「……済まない。ときどき呪いのようにイリス嬢への悪口が届くのが、あまりに不愉快だったんだ」
「私の妹が、とんだご迷惑を――。どうしてそのようなことをしたのか……」

 祈りは守護竜への感謝を伝えるものです。
 どのような理由があれ、人を呪う気持ちを届けるなど言語道断。


「だとしても感情で動いた挙句、肝心のイリス嬢を怯えさせるとは。こんなことでは国を守護する者として失格だな……」

 アルペジオは自嘲するように、そんなことを言いました。


「そんなことはありません。もともと聖女の祈りを対価に、人が一方的に恩恵を享受していたのです。その祈りが未熟なら、お怒りになるのも当然のことです」
「そうか……」

 私がそう口にしても、アルペジオの表情は晴れませんでした。

 守護竜はすべての人間から敬われ、時には恐れられるような存在。
 しかし私には、アルペジオがそのような遠い存在には思えませんでした。

「……それに、私は嬉しかったですよ? アルペジオ様が、私のために怒ってくださったこと。恐ろしいなんて思いません」

 もっとも、これは私の個人的な感情です。
 アルペジオにとって、何の慰めにもならないだろうと思っていましたが、

「そうか――それなら良かった」

 彼は安堵したように、そう呟きました。
 それからアルペジオは傍に居た私を、そっと抱き寄せました。

「あ、あの。アルペジオ様?」

 ここからでは、彼の表情は見えません。
 それでも彼の暖かさと息遣いを感じ、私は頬が熱くなってしまいます。


「まさか我の方が、励まされようとはな……」
「す、すいません。生意気なことを言ってしまって!」

 慌てる私を見て、アルペジオはくすくすと笑います。


「いつからだろうな。祈りの主に興味を持ってしまったのは――」

 何も変わらない対価として届くだけの祈り。
 誰からの祈りかなど、気にしたこともなかったと彼は言う。
 人間と守護竜の契約でしかなく、それで構わなかったのだと。


「なのに、いつの間にか日々の楽しみになってしまったんだ。
 聖女でもないたったひとりの祈りが。
 いつしかその祈りの主が、特別な存在になってしまった」

 懐かしむように口にするアルペジオ。


「だからこそ、屋敷での扱いを知った時は、怒りが抑えきれなかった。
 気持ちの籠らない『聖女』の祈りは、心が響かなかった」
「アルペジオ様……」

 私の祈りが特別なもの?
 いまいち現実感を欠いた言葉に聞こえましたが、それでも目の前にいるアルペジオの体温は本物でした。
 

「どうかこれまでの分も、幸せになって欲しい。我の願いはそれだけだ」

 その言葉からは、確かな真心を感じました。
 アルペジオが私を大切に思っていることは、疑いようもありません。


「私の祈りで喜んでくださるなら、それが私の幸せです」

 ――最初にきたのは、驚き? 喜び?
 なんだか心がふわふわと浮つきました。
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