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8.【SIDE:ティアナ】収まらぬ竜の怒り
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お姉さまが守護竜の元に向かって、1週間が経ちました。
しかし守護竜の怒りを表す『竜の息吹』は、まったく収まる様子を見せませんでした。
「何をしているのよ、お姉さま」
洞窟までは確実に送り届けたと使用人は言いました。
生贄で怒りは鎮まらないということでしょうか――厄介なことです。
最初は多くとも1週間に1度ほどだった竜の息吹。
最近では毎日のように立ち昇っています。
竜の怒りが増しているのだと、それを不安視する国民が増えていきました。
王宮では、私の「聖女」としての才能を疑問視する声が増えていると言います。
思わず表情を曇らせた私に、
「大丈夫かい? ティアナ嬢」
そう声をかけてくるのは、お姉さまの元・婚約者であるオルターでした。
ひと目みて、顔の良さが気に入りました。
身分的にも申し分なしです。
なによりお姉さまから奪い取ったというのが最高に気分が良いです。
「ええ、大丈夫ですわ」
私は、あわてて表情を取り繕いました。
それを見てオスターは安心したように微笑みました。
――何してるのよ、役立たずのお姉さま?
――最期ぐらい役にたってちょうだいよ。
私は内心では、そんなことをことを考えていました。
◆◇◆◇◆
そんなある日のこと。
国王陛下によって、私は家族とともに王宮に呼び出されました。
心配そうなオスターも一緒です。
「聖女ティアナ、ここに呼ばれた理由は分かっているな?」
「竜の息吹についてですね、ご安心ください。もうじき竜の息吹は止むはずです――お姉さまの尊い犠牲おかげです」
私は痛ましそうな顔を作り出しました。
この場では一番、私が竜について詳しいのです。
毎日の祈りで、竜と対話していることになっていますからね。
「竜の声が聴ける者が残った方が良い。だから聖女の姉が生贄になったのだったな? しかし現実には竜の息吹は収まらない。聖女を送らなかったから、守護竜様がお怒りなのではないか?」
「私は守護竜様の怒りを声を聞いています。日々、解決に向けて動いております!」
これで私まで生贄になれなんて言われたら、目も当てられません。
竜の息吹なんてものに右往左往して馬鹿らしいことです。
「ずっとそればっかりではないか。竜はどうして怒っているのだ?」
「詳しい原因は分からないのですが……ご安心ください! お姉さまの犠牲もあって、もうじき竜の息吹は止むはずです」
竜の声が聴けるのは私だけ、そういうことになっています。
口では何と言おうと、この国は聖女である私に頼るしかできないのです。
「そのような言葉! とっくに聞き飽きたわ!!」
「そんな――! 私、ずっと聖女として国を守っていただくように、祈りを尽くしておりますのに……」
じわりと瞳から涙がこぼれます。
涙を流すのは三度の食事より簡単です。
「聖女であるティアナ様は、すでにお疲れの様子。またの機会にしていただけますか?」
くわっと目を見開き叫ぶ国王ですが、オスター様が私を庇うように立ちました。
ほんとうに思った通りに動いてくださる方ですね。
実のところ私は、ここ数年は竜に祈りを捧げたことなどありません。
それでいて聖女としての特権を得ているわけですが――何も起きていません。
しょせんは聖女の役割など、その程度だったということでしょう。
「感情的になって済まなかった。国民の中にも不満に思っているものも多くてな――」
「心中お察しします」
私はほがらかな笑みを浮かべました。
見る者に好印象を与える計算されつくした笑み。
私は守護竜を、聖女という役職をあまりに甘く見過ぎていたのでしょう。
――だからあんなことに、なってしまったのです。
しかし守護竜の怒りを表す『竜の息吹』は、まったく収まる様子を見せませんでした。
「何をしているのよ、お姉さま」
洞窟までは確実に送り届けたと使用人は言いました。
生贄で怒りは鎮まらないということでしょうか――厄介なことです。
最初は多くとも1週間に1度ほどだった竜の息吹。
最近では毎日のように立ち昇っています。
竜の怒りが増しているのだと、それを不安視する国民が増えていきました。
王宮では、私の「聖女」としての才能を疑問視する声が増えていると言います。
思わず表情を曇らせた私に、
「大丈夫かい? ティアナ嬢」
そう声をかけてくるのは、お姉さまの元・婚約者であるオルターでした。
ひと目みて、顔の良さが気に入りました。
身分的にも申し分なしです。
なによりお姉さまから奪い取ったというのが最高に気分が良いです。
「ええ、大丈夫ですわ」
私は、あわてて表情を取り繕いました。
それを見てオスターは安心したように微笑みました。
――何してるのよ、役立たずのお姉さま?
――最期ぐらい役にたってちょうだいよ。
私は内心では、そんなことをことを考えていました。
◆◇◆◇◆
そんなある日のこと。
国王陛下によって、私は家族とともに王宮に呼び出されました。
心配そうなオスターも一緒です。
「聖女ティアナ、ここに呼ばれた理由は分かっているな?」
「竜の息吹についてですね、ご安心ください。もうじき竜の息吹は止むはずです――お姉さまの尊い犠牲おかげです」
私は痛ましそうな顔を作り出しました。
この場では一番、私が竜について詳しいのです。
毎日の祈りで、竜と対話していることになっていますからね。
「竜の声が聴ける者が残った方が良い。だから聖女の姉が生贄になったのだったな? しかし現実には竜の息吹は収まらない。聖女を送らなかったから、守護竜様がお怒りなのではないか?」
「私は守護竜様の怒りを声を聞いています。日々、解決に向けて動いております!」
これで私まで生贄になれなんて言われたら、目も当てられません。
竜の息吹なんてものに右往左往して馬鹿らしいことです。
「ずっとそればっかりではないか。竜はどうして怒っているのだ?」
「詳しい原因は分からないのですが……ご安心ください! お姉さまの犠牲もあって、もうじき竜の息吹は止むはずです」
竜の声が聴けるのは私だけ、そういうことになっています。
口では何と言おうと、この国は聖女である私に頼るしかできないのです。
「そのような言葉! とっくに聞き飽きたわ!!」
「そんな――! 私、ずっと聖女として国を守っていただくように、祈りを尽くしておりますのに……」
じわりと瞳から涙がこぼれます。
涙を流すのは三度の食事より簡単です。
「聖女であるティアナ様は、すでにお疲れの様子。またの機会にしていただけますか?」
くわっと目を見開き叫ぶ国王ですが、オスター様が私を庇うように立ちました。
ほんとうに思った通りに動いてくださる方ですね。
実のところ私は、ここ数年は竜に祈りを捧げたことなどありません。
それでいて聖女としての特権を得ているわけですが――何も起きていません。
しょせんは聖女の役割など、その程度だったということでしょう。
「感情的になって済まなかった。国民の中にも不満に思っているものも多くてな――」
「心中お察しします」
私はほがらかな笑みを浮かべました。
見る者に好印象を与える計算されつくした笑み。
私は守護竜を、聖女という役職をあまりに甘く見過ぎていたのでしょう。
――だからあんなことに、なってしまったのです。
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