猛焔滅斬の碧刃龍

ガスト

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1章【巨人の湖編】

第14話・魔法

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「クエッ!!」

「おーぅよしよし。」


恐らく初めて見るであろう人間にも虎徹はすぐ懐いた。
予想通りとはいえここまで仲良さげにしてると、俺としては少し妬く。俺の方が長く一緒にいるのに。⋯ケッ。

バルドールは俺の家を見るなり速攻で飛び付いた。
家を住んでいるとは伝えたものの、洞穴を適当に改造しただけだとでも思っていたのか、少年のように目を輝かせていた。
確かに、見た目へのこだわりはあったし?褒めてくれても?いいんだけど?

家に入ってからは更に目の輝きが増していた。
不細工⋯いや、味のある机、高さにこだわった椅子などのインテリア。部屋に開通している湧き水の通路。家に燃え移らないよう、工夫を2桁程重ねたキッチン⋯。

彼には色々紹介したが、なんかもう笑っていた。
うん、俺が逆の立場でも笑う。魔物に知性があると言っても会話が可能な程度とか、予測の範囲はそれぐらいだと思う。ここまで生活感ある住処を見せられると笑うしかない。

なんなら、俺が魔物の肉体ではなく人間だとしても、笑うかもしれない。自然界においてここまで充実した『巣』を持てるかと聞かれると⋯⋯やはり、俺はイイ線いっているのでは⋯?

一頻り堪能して落ち着いたのか、飲み物を要求された。
余裕の勝利に見えたが、流石に喉は乾いていたらしい。竹製のコップに水を汲んで渡したが、3回おかわりを要求された。⋯1回目以降は自分でやらせたが。

その後、ガサガサと音を立てる箱に疑問を持たれる。
正体はムングレー。しかも今朝に取れたばかりの元気なやつ。
生憎、虎徹もバルドールも⋯俺も。腹が減っていたので、全て昼飯と化した。⋯⋯8匹程いたんだがな。


「ごちそうさんっと。アカシお前やるなぁ。」

「ピャッ!」

(⋯まぁ、いいか。)


因みに刺身で食べるつもりだった。
最近の探索で見つけた塩っ辛い岩の様な⋯というか岩を砕いて醤油代わりにかけてペロッと⋯。あー、思い出したら駄目だ。やっぱ醤油がいい。

この世界に転生して後悔した事の1つ。
醤油を含め、調味料が入手できない。そもそも俺、魔物だし仮にあったとしても買えるかわからんが⋯。あとは米、だな。食べれなくなると、こうも恋しく感じるのか。

料理自体は、適当な味付けのつもりだったがかなりウケた。
まぁ野郎同士、やや塩気が多い方が好みって訳だな。虎徹には濃すぎるので茹でたムングレーの切り身を2匹分で満足させた。実際、満足しているかは⋯まぁ、な。

今は部屋の端の方でぐっすり眠っている。
まん丸モコモコ。トテモ カワイイ。


⋯さて。
それじゃあ本題に移ろうか。


「まぁそう急かすな。」


視線に気が付き、バルドールは先手を打った。
木机の角を手の甲で撫でながら、部屋を見渡す。無言で頷き、真っ直ぐ銀灰竜を見た。

⋯よく見れば、澄んだ瞳をしている。
碧色の綺麗な瞳。例えるなら炎。⋯いや焔か。熱は無く、ただ静かに揺らめく碧焔を宿した瞳。

鉄のように淀んでおらず、銀そのものと言うほど輝きも無い。
銀灰、と名付けられるのも納得できる。全身の筋肉の付き方が素晴らしい。

頭の角⋯これは通常種には見られない特徴か。
しなやか尻尾はまるで生きているかの様にうねり、伸びる。
鋭利さこそ無いが、人間の指と遜色なく動かせる鉤爪⋯

やはり、素晴らしい。
今は微弱だが、この小さな肉体から確かに感じる、気配。⋯いずれ、必ず殻を破る。


「⋯⋯なんだ。」

「いや⋯少し、な。」


じっと瞳を覗かれ、気のやり場を失った俺は口を開いた。
いや、ずっと無言で目合わせてくるんだもん。怖いよ、この人。これでも年上苦手なんだよ。

バルドールは『悪い悪い』と手をこちらに扇ぐ様に動かす。

それから、おもむろに立ち上がり首で相槌を打った。
虎徹を起こさない為の配慮か。足音を立てないよう、静かに家を出る。

俺が出る頃には既に10メートルほど先を歩いていた。
早足で追いかけ、横に並ぶとバルドールは例のニヤケ顔を浮かべていた。⋯どの位置から見て気味が悪いな。

先程までと打って変わって賑やかさが消えたのに気まずさを覚えた俺は適当な話題を頭の中で考えていた。が、俺が思い付くよりも早く、バルドールが話し掛けてきた。


「あの家、魔法は全く使用していないんだな。」

「ん?あぁ⋯は教わっていなかったんでな。」

「⋯教わる?誰にだ?」


⋯これは、伝えるべき内容なのか。
神様みたいな老人に、魔物として転生させられた元人間だが、右も左も分からない俺を見知らぬ幼女が手助けしてくれた。

色々端折って説明しても⋯信用するか?
NOだな。適当に流そう。説明面倒だし。


「いや、間違えた。『知らなかった』だ。今までのは他の魔物が使っていたのを真似しただけ。」

「⋯そうか。」


よし、これでいいか。
見た感じ納得しているっぽいし。

⋯思い返せば、中々カオスな内容だよな⋯。忘れていたが、あの老人に『世界救って欲しい』的な事言われてるんだよなぁ。

あの老人と、そして幼女⋯正体は謎だが⋯⋯

まぁいいか、俺の考えが及ぶ相手じゃなさそうだし。
今は強くなる。なりたい。⋯どちらにせよ、ならなければいけないんだがな。


「あの家で過ごしていて、他の魔物に襲われた経験は?」

「?いや、今までには1度も⋯」

「フッ。不用心なこったな。心配だったから魔物除けの魔法を辺りにかけておいてやったぞ。」


⋯え、まじか。
いや俺の命を狙っている男だし、自分以外に獲物が取られるのは嫌だって気持ちはわかるんだが⋯

⋯⋯。


なんか助けられてばかりだな、俺って。
もちろんありがたい。が、好きじゃないんだ。誰かに手を貸されるのは。惨めになると言うか。

だが、まぁ⋯そんな事言ってられないよな。

⋯ぃよっし!クヨクヨしてても仕方ない!
いっちょ自己強化と行きますかね。どんな内容だろうが乗り切ってやる。


俺が気合いを込めた数歩後、バルドールが立ち止まる。
見えたのはいつものトレーニング場所。どうやら先の空中戦の時にたまたま見えていたらしい。

ある程度離れてたとはいえ、あの時の衝撃波がここまで届かなくてよかった。生憎、ここ以上に都合のいい場所を知らないからな。

この場所に俺が通っている事を伝えるとバルドールは興味ありげに質問をしてきた。


「ほぉ、あの岩のヒビはお前が?」


あの岩のヒビ、と言うのは俺が打撃の訓練をしている時にできたものだった。もう何個も粉砕してしまったので、何個も並んで聳えていた大岩も、残り3個しかない。


「まぁな。打撃はそこそこ自信があるが⋯。」


これは割と本気で言っている。
まぁ自身の何倍もある大きさの龍に拳で対抗出来るこの人と比べられたら、って話だが⋯

バルドールは顎髭を指で擦りながら、トレーニング上を見渡している。時々『ほぉー』とか『うーん⋯』とか一人でいいながらチラチラと俺を見ているようだ。

褒めるにしろダメ出しにしろ⋯あまり興味無い。
今は魔法の扱いについて詳しく、とても詳しく教えて欲しい。今だって手帳とペンを持って何時 何を言われてもいいように身構えてるんだが⋯



⋯まだ掛かりそうだな。

見兼ねて、取り敢えずストレッチで身体をならす。
何をするか決まった訳では無いが、この間は暇だし。ほんと、このタイプは何考えてるか分からないな。

意外となんにも考えいなかったりして。


「⋯魔法の件は後でいいか?何、少しだけ普段通りにしてくれればいいんだ。そのあとはちゃんとやる。」

「普段通りって言われても、ただ走って、殴ってとかの繰り返しだが⋯」

「あぁ。まぁ見栄えが無かろうがいいから。な?」


⋯なんか、やな言い方だな。
見栄えが無いって?言うじゃないの。あくまで格下と思っているならな、俺の肉体のスペックを見せてやろうじゃない。

まずはダッシュ!
直径1kmはある広い土地をものの数十秒で駆け抜け、最初の位置に戻ってみせた。⋯⋯動じてないな。

続いて自作シャトルラン!
一定距離を、限りある時間の中で往復する運動。普通のと違う点は、シャトルラン専用のあの音声がないので、小石を上へ投げ反対地点へ、ついたらそこも小石を投げて元地点へ。そして最初に投げたのをキャッチ。そして再度反対地点へダッシュ、からのキャッチ。これを何度も繰り返す。

⋯⋯なんだあの顔は。興味ゼロかよ。


⋯⋯最後は打撃!
大岩の前に立ち、それを大きな敵と思い殴る。架空の敵に動きを付け加えて躱し、殴る。ラッシュ性能は低いと自覚しているが、一撃ずつに力を込めているつもりだ。おかげで、硬いはずの岩がクッキーの様に壊れていく。そして極めつけはコレ。

右正拳からのバックステップで距離を取り⋯尻尾での薙ぎ払い!直接触れていないのに、発生した風の刃によって岩が分断される⋯

⋯って、え?分断された?
以前までは、精々ひび割れるのがだったのに。毎日のトレーニングは欠かさず行っているが、ここまで伸びていたとは⋯。確かに打撃のトレーニングは久し振りと言うのはあったが⋯

俺が困惑していると背後から足音が聞こえてきた。


「これは⋯すげぇな。」

「⋯あ、あぁ。いつも欠かさず鍛えてるからな⋯」

「いやそうじゃねえよ。無駄が多すぎるっつってんだ。」


あっそう。(´・ω・`)
普段通りにしてくれって最初に言われた時に、何となくこんな感じになるとは薄々気付いてたもん。⋯⋯うそです。

こんな、ストレートに言う?
もう少し回りくどくてもいいと思う。結構、傷つきやすいタイプなんだよ俺。そもそも格闘技とかやった事ないし、それっぽく動きをやっているだけで⋯

今までは、形とか技術がなくてもパワーでゴリ押してたし、実際押し切れていたんだし、今後も問題ない⋯⋯わけないよなぁ。うん。

顔を片手で覆いながら、俺は課題点を聞いた。

彼曰く、筋肉の動きに無駄が多く、肉体のスペックを活かせていない⋯ということらしい。加えて、現状は4割程しかパワーを出せていないという。

鞭を使うにも『振る』のと『突く』のとでは威力が違う、という事を言われた。⋯分かりずらいが、俺の筋肉の扱い方が、本来のソレとは全く違う⋯と、言いたいんだろう。

詳しい説明を求めると、頭を抱えて、しばらく黙り込んだ後にゆっくりと答えた。


「まず、お前のその身体は『殴る』という行為に最適では無い。⋯だがまぁ、ここは打撃の訓練を続けていればその内、矯正できる。問題は別にある。」


案の定、動きが素人だと指摘された。
拳の到着地点が岩の表面で終わっている、攻撃の際に全身が連動していない、攻撃後の体勢の立て直しが遅い、挙句の果てには呼吸が合っていない⋯

仙人か、この人は。
だが頼らなければならないのも事実。これからは物理戦闘も強くなりたい。それに⋯刀壊れちゃったし(小声)

打撃以外は体力アップ出来るので継続らしいが、どうしても俺の動きが気に入らないらしい。

いや普通、未来に殺し合いの約束してる相手にの事強化しちゃう?M体質⋯なのか?

この人みたいに強く技術がある人に指導されたら、この肉体の成長力と俺の今のモチベーションも相まって本当に短期間で追い付くぞコレ。


「手帳、貸せ。改善点は書いといてやる。今は魔法技術の習得からだ。」

「⋯⋯ウス。」


こういう所は本当にいい人だな。
日も落ち始めた頃だし、急ぎたい気持ちもあるかもしれないが。バルドールにだって家庭とかあるかもだしな。

うーむ、見たところ指輪はして無いが。
いや、元の世界とこの世界で同じ婚姻スタイルかは分からないし一概には言えないが。まぁ家庭持ちの雰囲気ではないよな。失礼だけど。

なんというか、人間だった頃の俺みたいな。
女運なのが無さそうな⋯⋯雰囲気?顔?何となくわかるんだよな。

⋯そう言えば、結局この人何歳なんだろか。
髭無しで予想するなら俺より5つも変わらない程だが⋯やっぱり髭って印象変わるんだなぁ。俺、人間自体に髭とか生えてなかったし⋯悪くないかも。渋くていい。


「⋯ジロジロ見るな。おら、できたぞ。」

「ぁいや、⋯悪いな。」


って字が汚い。
読めるには読めるが、これは小学生レベルの字だぞ⋯。それも授業真面目に聞かない系の活発男子君の⋯っと、これは偏見か。⋯あながち間違っていない自信はあるが。

まぁ、ありがたく活用させてもいますよい。


「⋯さて。」


お、目付きが変わった。
鋭いとも少し違う。これは⋯⋯睨まれている⋯?

眉間に皺を寄せて俺を凝視し始めるバルドール。
俺の下手な打撃を見て不機嫌⋯という訳でもなさそうだが。

俺が警戒していると、不意に手を伸ばし額に当ててきた。
抵抗はしないが、警戒心で少しだけ後退りする。それに反応するように手が急接近、思いっきり顔面を掴まれる。⋯口には出さないが、指がくい込んで痛い。

多少の間を置いて、真っ暗な視界に光が差し込んできた。
色で言うなら薄桃色ってところで、熱いわけでも冷たいわけでもない。強いて言うなら、頭に何かが入ってから抜けている⋯そんな感覚が数秒続いているくらい。あと眩しい。


「⋯やっぱな。お前やっぱ特別だ。」


手を離したバルドールが険しい表情を解いて言った。
視界が開けた俺は顔にハテナを浮かべながら彼を見上げた。やはりニヤけているが、先程までとは違い、微笑みに近いものだった。

何をしたのか聞くと『魔力の計測』らしい。
俺の中の魔力を今の動作で測ったという。⋯もしや、今ので記憶とかも一緒に覗かれたりしてないよな?前世の記憶とか見られたら嫌なんだけど⋯⋯

反応を見る限り、危惧する必要は無さそうだが。
⋯というか、仮に記憶を見れる魔法とかあったら超便利だな。裁判とか手っ取り早く進みそう。あと映画見た人に使えば映画館行かなくても見れそうだな。それ以外だったら⋯アレだな。ん?何かって?アレだよ、アレ。⋯⋯クヒヒっ。

いやー、こんな魔法あったらいいなあ。
ファンタジーって⋯いいなあ。いい歳こいて妄想が膨らむ今日この頃。

しょうもない考えに浸っていると、バルドールが枝を拾ろい、地面に絵を描き始めた。


「アカシお前、魔物と人間にはどんな違いがあると思う?」


急な質問だな。
違い?この手の類は見た目とか知能面とかの話では無いのがお決まりだが⋯さて、なんて答えるか。


「⋯⋯あー、せいかk」

「魔力だ。」


あっはい。魔力ですね。


「人間が扱う魔力、魔物が扱う魔力は少し違う。正確には『使い方』か。」


人の絵と、恐らく魔物であろう歪な形をした絵。
それぞれ絵の内側に円を書き足す。これが『魔力』だと言う。


「人間と魔物、両方とも生まれ持って魔力を有している。が、人間はその魔力を直接使う術を持ってはいない。」


聞けば、人間が魔力を扱えるように工夫されたものを『魔法』と呼ぶらしい。

逆に魔物はその魔力を直接使えるらしい。
例えば、口から火を噴く。これは体内の魔力を炎に変換する器官が元々備わっていて、可能になっている。つまるところ『魔力変換器官』って所か。

人間にはその器官が無い。
故に魔法は、体外でのみ発動できる。つまり、回復や身体能力を上昇させる魔法は、体の外側から効果を得ている。

魔法の発動時に身体の周囲が光っていたのはそれか。

魔法陣とは魔物の『魔力変換器官』を模倣したものだという。
詳しくは彼も知らない様だが、魔法という概念を生み出したのは、遠い昔の人間たちが魔物という脅威に対抗する為に生み出した技術、ということらしい。


「⋯待てよ?それなら、魔法を唱えて使う魔物はどういう事だ?」

「なに、簡単な話しさ。人間の真似をしているってだけだ。それが魔物たちの間で伝達し、技術と化している。」


⋯面白いな、ソレ。
魔物を真似て魔法を使い始めた人間、その真似を魔物がしていると⋯。

詳しく聞けば、汎用性で言えば人間の方が魔法の扱いに長けていると言う。バルドールは色々書き足した地面の絵を、片足でグシャグシャにしてから、付け加えた。


「ま、知性があるヤツら限定だがな。」


それから所持魔力をオーバーする力は使えないとも言った。
これは人間も魔物も同じだと。

魔力の回復に特別な方法はなく、普通に過ごして自然に戻るのを待つしかない。⋯っと。成程成程、ここはメモだな。

ただ、深手を負っている場合などは無意識に魔力が回復に回される為、自然回復は遅延する。つまり、安静にしてろってことだな。メ~モ。

⋯なになに?
魔力の所持量は鍛錬によって増やせる⋯ふむ。で、強いて言うなら食事を多く摂る⋯か。付け足しておこう。


「因みにだが、今では魔力を扱うこと自体を『魔法』と呼んでいるんだ。人魔問わずな。」


⋯これも一応メモだな、知識として。
さて、そろそろ実技の方もやっていきたいが⋯。こう見えても、聞くより実際にやる。って性格なんだよ。俺。

チラッと。
視線で気付いてくれないかな~。理科の授業はもう満腹だ~。


「おうし、講義はここまでだ。ぼちぼち本番の方、始めてくか⋯」


おぉう、目すら合ってないのに話が進んだ。
ありがたい。いざ、魔法の修行といこうか──⋯
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