親子そろって悪役令嬢!?

マヌァ

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白魔法の文献編

210話『やらかしちゃった☆ 2』

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疲れた表情のナナリーがまんべんの笑みで

黄金に輝く薬瓶を差して言った。





「で、できたわ……」





慌てた様子で、マリク君が出来上がったポーションを鑑定する。





「す、すごい……これは……エ、エリクサー!?

 ぼ、僕の鑑定では、完全回復薬……と出て……います……」





マリク君の説明で皆さん、お察しの通りだ。



ナナリーは、決してやらかそうと思ってやらかしたわけではないのだ。

今回は私達、4人全員でやらかしちゃった事なのだ。



異様を放つ黄金色のポーションを、私達全員それぞれ違う顔で見つめる。



ナナリーは満足げな疲れたドヤ顔で。



マリク君は驚愕の表情で。



私は……うん、まぁ、あれだ。

私、今どんな顔してるんだろ……(白目



そして、ベリアル様は珍しいことに困惑顔だ。

普通の人には無表情に眉間のシワが少し入ったくらいだろうけれど、

私には分かる。あれは、困惑しておられる顔だった。





「こ、こんな凄い物、どうやって作ったんですか!?」





ちょっと興奮気味にマリク君がナナリーに問いかける。





「えー? わからないわ。

 教えて貰った方法で魔力を注いでいたのだけれど、調整が難しくて……

 面倒臭いから、全部の魔力をつぎ込んじゃえって思ったの。

 そしたら、なんか出来た?」





なんで、最後疑問系なの?



だけどなるほど……

疲れている理由は魔力を全力で注ぎ込んだからなのね。


「なるほどな。

 ナナリー嬢の場合は魔力の出力調整が苦手で

 100の力でしかポーションを作れないのだな……」





ベリアル様のざっとした説明で理解できた。



どういう事かというと、

ナナリーの魔力の放出で作れるポーションは

0%か100%でしか作れないということだ。



私の場合は大体20%で10本作成している。



ナナリーの場合はムラがあるけれど、0%~50%、50%~99%で泥水になり

100%、つまり全力でエリクサーになるということだ。

というか極端すぎない?

全力でエリクサー作るって……なんでやねん!





「とりあえず、ナナリー嬢には、

 これ以上ポーション作りはさせないほうがいいだろうな」





「そうですね」 「ええ」





ベリアル様の提案に私とマリク君は頷いた。





「えっ!? な、なんで!?」





ナナリーは驚愕の表情で私達を見つめた。







「これは、ナナリーさんの為でもあるんですよ」





「私のため?」





「そうです。

 ナナリーさんがこんな凄い物を作れると分かったら……

 貴女自身が狙われる可能性もあります。

 それに……――」





マリク君が優しくナナリーを諭してくれた。




そう。

ナナリーがこんなものを作れるなんて知られたら非常にマズい。

理由は考えればキリが無い。

一番危ないのは、戦争の道具だろうか。



それも、手渡しちゃ行けない国がパナストレイ星皇国を跨いだ先にいる。



パナストレイ星皇国より南に広がる諸外国。

彼らは年に一回、パナストレイに侵略戦争を繰り返している。



星霊の加護のおかげで小競り合いで済んでいるらしいけれども……

何度か危ない時もあったとお母様から聞いた事があった。



それは、痛みを感じなくなる薬を投与された兵士達による

ゾンビアタックだったという。



そんな事まで試して攻めてくるほどに、

パナストレイ星皇国は魅力的な大地なのだった。





話がそがれたけれど、そんな諸外国にポーションの作成方法や

エリクサーの存在、それを作り出せるナナリーの事を知られると

本当に危険なのだ。





そんな危険な代物を、

5本だけとはいえ私達は作成してしまったわけだけれども。





ど、どうしよう?





とりあえず、エリクサーの存在は隠さねばならない。

私は、エリクサーの薬瓶にコルクで蓋をする。





「とりあえず、誰かに見つかる前に大切に保管しましょう」





エリクサーをみんなで囲む。







「どなたが保管をしますか?

 正直に言うと、僕は自信が無いのですが……」



とマリク君。





「私もそんな危険なもの、持ち歩きたくないわ」





ナナリー、君がこれを作りだしたのだよ……?





マリク君とナナリーが拒否となると、

私とベリアル様で保管するしかないという事になる。




そんな事を考えていると、部屋の扉が開く。





ガチャ。





「皆、作業は続いてる? そろそろご飯を……」





マリエラが私達の作業確認とご飯を呼びに来てしまった。



そして、机に置かれた黄金色の瓶と私達一人ひとりの表情を見て

何かを悟ったのか、扉を閉めて鍵をかけた。







「どーせ、ナナリーの仕業でしょ?

 貴女、今度は何をやらかしたわけ?」





と鋭いツッコミを入れていた。

ナナリーは唇を尖らせている。



というか、さっそく見つかってしまったよ。

今更だけど、鍵とかかけて置けばよかった……。

動揺でそんな考えさえ浮かばなくなっていたのだから

しょうがないのだけれど。





「今度は何をやらかしたのか、教えてくれるわよね?」





ちょっと怖い笑顔のマリエラに私達は頷くしかなかった。







この後、エリクサーの説明をマリエラにしたらかなり怒られてしまった。

エリクサーの処遇については、マリエラ的には全員で

持っていたほうがいいという事だったけれど……





「先ほども言いましたが、僕はこんなもの持っていたくないです。

 狙われた場合、守り抜く自信はありません」



「私も同じよ」





と、マリク君とナナリーの意見はごもっともだった。

ということは、これを管理するのは私とベリアル様しかいないじゃないか。

デジャブなやりとりですね。ハイ。





「分かりました。

 では、これは私達が管理しますね」





私の言葉にホッとした表情の2人。

だけど、こんなもの5本も普段から持ち歩きたくは無いのは私達も同じだ。

どうしようかベリアル様と話し合っていたのだけど……





「ベリアル王子の護衛達に託せばいいのではない?」





とマリエラからの提案にベリアル様ともども、私も驚いた。





「マリエラ嬢、気づいていたのか?」





「いいえ。

 ベリアル王子の護衛を見たことは無いわよ。

 私は、いるって言うのを知っているだけよ。



 実は私、両陛下から聞いていたの。

 エミリアの護衛について、『ラビット』は護衛対象から監視対象になるって。

 その代わり、ベリアル王子の護衛が王子ともども守ってくれているって」





なるほど。

この話はラナー様のお茶会あとにベリアル様と陛下で話し合って決めたって

聞いた気がする。

あの時の私は落ち込んでいたからすっかり忘れていたよ。ハハハ。





なんだかんだあったけれども、

エリクサーの所有は、ベリアル様の護衛というか隠密のポアソン君の部下に

託されることになった。



呼びかけ一つでシュパっと現れるポアソン君の部下は

さすがとしかいえない。



というか、鍵のかかっている部屋に急に現れるってどうやっているのか

と疑問がわいたほどだった。





――この時、部下に渡されたエリクサーは

無事にポアソン君に届けられることになる。



それが、この後の私達の運命を

大きく変えるなんて誰が想像できようか。



まぁ、これはまた、別の話に繋がるんだけれどね。




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