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お茶会編。
82話『私の想い。』
しおりを挟む馬車の中の居心地の悪さを我慢して、私たちは貴族食堂前に降り立った。
いやー……。 苦痛でしかなかった。
ベリアル様への気持ちを自覚した私でも、アレには嫉妬しなかったくらいだ。
馬車の中の様子はどうだったか…… 遡る事10分前。
馬車内のナナリーはベリアル様にベッタリだった。
嫌悪感を抱いていたベリアル様は、ナナリーを一瞬も見なかった。
目の前に座る私をずっと見ていた。見られていた。助けを乞われていた。
そんな中、馬車のホストであるエドワード殿下は必死に
皆を楽しませる話をしなきゃいけない。ほぼ作り笑いの白い目の殿下がいた。
ここまで酷いとは思わなかったが、ナナリーのあからさまな態度に
エドワード殿下もかなり呆れていた。
そして今に至る。
貴族食堂の中には王族専用の個室の隣に、別室がある。
ここは、王族の家族が入りきらないとき用の場所だ。
それぞれの個室に私と殿下、ベリアル様とナナリーが入って行く。
ちゃんと防音効果のある個室なので、内緒話にピッタリなのだ。
四角いテーブルに国のシンボル、
ノームの葉模様の刺繍がされたテーブルクロス。
イスは芸術的な彫り調で、机の脚にも同じ彫り込みが、されている。
部屋全体も小窓にステンドグラスを使われていて、窓から差し込む
日の光が美しく部屋を照らしていた。
きっと隣の部屋も同じようなものだろう。
私と殿下は先に食事をすませることにした。
順番に運ばれてくる食事を丁寧に平らげて、食後の紅茶タイムで
話し合いをする予定だ。
今日のメニューは全体的にサッパリめにしてあるようだ。
1品目
桃とかぼちゃをミキサーにかけて生クリームと混ぜ合わせた
ムース状の前菜。
2品目
じゃがいもとほうれん草のスープ。
3品目
サッパリとした焼いた白身の魚と海老をパリパリに焼いたチーズで
ミルフィーユ状にされた魚料理。
4品目
鹿肉をベーコンで巻いて焼き丸型にカットされた肉料理。
数種類のきのこも添えてある。
私は料理にまったく詳しくないので、料理長に説明されても
わからなかった。
というか、特殊用語が多すぎるのだ……。
食後のデザートはレアチーズケーキに苺ジャムが乗っていた。
ストレートの紅茶を給仕に入れてもらう。
レアチーズケーキをおいしく平らげて、会話開始だ。
私は立って、もう一度殿下に丁寧に謝ることにした。
「エドワード殿下、昨日は本当に申し訳ありませんでした」
殿下は少し驚かれたけど、やさしい微笑みで返してくれる。
「いいや。僕のほうこそ、昨日はエミリアに失礼なことを言ってしまった。
人形だなんて言って、本当に申し訳ないと思っているよ。
君は人間なんだ。表に出していない感情をちゃんと持っている。
そんなことに気づけない僕は本当に愚かだった。
昨日言ってくれた言葉は僕の過ちを打ち砕いてくれた。
僕は、君に感謝している。 そして尊敬もしている」
エドワード殿下は、そこで言葉を区切って、
姿勢を正してまっすぐに見つめてきた。
「エミリアの今の気持ちを聞かせてもらってもいいかい?」
私の気持ち。
私の気持ちとは、ベリアル様への気持ちだろうか。
「私は、もう殿下の事をお慕いしてはいません」
「今のエミリアは、ベリアルに夢中?」
おっと!?
直球に言われてしまった。
というか、マリエラの時といい、私、態度に出すぎじゃない?
どう答えようか考えていたら、先にエドワード殿下が口を開いた。
「どう答えようか考えているね。
大丈夫だよ。 怒ったりしないから」
私は、赤くなって俯いて小さい声で肯定した。
「そ、その通りです……」
エドワード殿下はやさしく微笑んでくれた。
「昨日のエミリアの言うとおりだった。
僕の君への思いは独占欲だ。
君が僕の婚約者として当たり前に育って来たように、
僕にとっても君は婚約者として当たり前になっていた。
それは、僕の恋愛という感情の意味を歪ませたんだ」
殿下は、私を見つめる。
その表情は晴れやかで、私を見る目はベリアル様を見るそれに近かった。
「僕も、エミリアに恋愛感情を抱いていない。
それがはっきり分かったよ」
私は、殿下の本心を聞けて、少しだけ嬉しかった。
彼の成長を間近で見てきたからこそ、そう思ったのかもしれない。
もっと早く殿下とこうして話し合っていれば、私たちの関係が
こじれることもなかったのかもしれないね。
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