親子そろって悪役令嬢!?

マヌァ

文字の大きさ
上 下
77 / 231
お茶会編。

77話『貴族だもの』

しおりを挟む


雪がしんしんと降り積もる学園の一室でひときわ大きな声が

響き渡っていた。



彼女の名前はナナリー・ランゲス男爵令嬢。

彼女は、教養の教室の中でテティーア先生に呼び出されていた。



というあらすじを言ってしまうほど、この光景は当たり前になりつつあった。





「どうって、貴女はいまだにサロンのレポートを提出していないでしょう?

 他の生徒はとっくに10枚提出済みですよ。

 そんな状態で貴女が茶会を開くことは許可できません」



テティーア先生とナナリーが言い争いをしている。

内容はナナリーのサロンの課題についてだった。



教室の中はシーンとしていて、

まるで2人の言い争いを静観しているようだった。



「レポートの期限は卒業までって言ったじゃないですか!」



ナナリーはサロンの課題をまだ1枚も提出していないようだ。



「それは、3年間のを含めているのですよ。

 2年後、30枚提出するつもりですか?」



「そ、それはっ……でも、だからってお茶会を開いちゃダメって

 そんなのおかしいです!」



「おかしいことなど何も無いですよミス・ナナリー。

 この学園は貴族のマナーと貴族間の交流を鍛える場所です。

 一年生の大事な時期に横のつながりが少ない貴女を、

 私は心配しているのですよ?」


テティーア先生の言葉は今のナナリーの状態を如実に物語っていた。

ナナリーは涙目でテティーア先生になおも言い募る。



「だからって、ひどい!!

 私が同性の生徒に虐められているのを先生は知っているはずよ!!

 それなのに、サロンに誘ってもらえるわけ無いじゃない!!」



へー。 ナナリーってイジメられてたんだー。

誰にだろうー? まったく酷いやつだー。



そんなことを考えていたら、ナナリーと目が合った。



「あいつ……!! 先生!!

 エミリアよ!! 彼女が私を虐めているんです!」



はぃ!?



まーた私のせいか。 いい加減にしてほしい。

私はゲッソリしながらも、テティーア先生とナナリーのほうへ向かおうとする。



「ミス・ナナリー。 落ち着きなさい。

 ミス・エミリアはそんなことしていませんよ。

 貴女の勝手な思い込みです」



テティーア先生が私を庇ってくれたようだ。

私は足を止めた。



「違う! あいつが全部悪いのよ!! 

 先生もエミリアに何か言われたのね!!

 先生まで味方につけて、教養の教室でも私を孤立させようなんて!!」



「ミス・ナナリー。

 ミス・エミリアはそんなことはしていませんよ。

 それよりも、そんな妄言を言いふらしたりしていないでしょうね?

 貴女のほうがよっぽど彼女をおとしめているようにしか見えませんよ。

 それを自覚しているのですか?」



ナナリーは半狂乱になりながら、尚も先生に言い募っていた。



「どうしてエミリアの味方ばかりするんですか!?

 私が元庶民だからですか!? 私だって頑張っています!

 先生の授業は難しいけれど、私、頑張っているじゃないですか!!」



だんだん、論点がズレて来ている。

このままではいけない。



私は、足を動かし、テティーア先生とナナリーの側に行った。



「テティーア先生」



私が声をかけると、テティーア先生は目を丸くし、

ナナリーは今にも飛び掛ってきそうな様子で睨んできた。



「私の名前が聞こえたようでしたので。 何かありましたか?」



全部聞こえていたけどね。あえて私は知らぬ体で話しかけた。



「あんたが、先生に私のことをいろいろ言ったって知っているんだから!

 それに、私を虐めている事も知っているのよ!!」



ナナリーは私を指してそう言った。



「私が、なぜ貴女のことを先生に言わなきゃいけないの?

 虐めているって、どうしてそんな事しなきゃいけないの?」



この際だからはっきりナナリーに言おう。

私はそう決めた。



「あんたが私に嫉妬しているからでしょ!!」



ナナリーはドヤ顔をしつつも怒っている。 器用ね。



「なぜ?」



「なぜですって!? エド様と仲良くする私に嫉妬してるから!

 そんな私が目障りなんでしょう!?

 だから、私を嵌めて! 虐めているんでしょ!?」



まぁ、確かに記憶が戻る前だったらそういう理由で虐めていた可能性も

理解できる。だけど、今の私は嫉妬する理由すらないのだ。

ここを勘違いしているナナリーには理解してもらわなければ。



「私、別に貴女に嫉妬なんてしていませんよ」



「ほ、ほら……はぁ!?」



ほらねって言葉を用意していたのかな?

でも残念、ナナリー。

私はエドワード殿下のことをこれっぽっちも好きじゃない。

むしろ、嫌いのほうが勝っている。



正直に言おう。



「な、なんでっ……?」



「私、別にエドワード殿下のこと何とも思ってませんもの。

 私と殿下は政略的な意味合いでの婚約者ですのよ?

 それを貴女は理解しておいでですか?」



ナナリーはショックを受けているようだった。



「そ、そんなのって……」



「ありえるんですのよ? 貴族だもの。

 恋愛感情のない婚約は貴族では当たり前。

 王族が欲しがっているのは私の中に流れるパナストレイの血。

 政略的な婚約でしかないのですもの。 当然でしょ?」



私は淡々とした口調で説明する。

視界の端には、金色の髪の青年が立っているのが見えた。

周囲にはカイン様とコンラート様もいる。



ナナリーは俯いて、震えだしていた。



「そういうわけですので、私は嫉妬なんてしません。

 むしろ、婚約破棄したいくらいですわ」



最後の言葉だけ、ナナリーにだけ聞こえる声で言った。

その言葉に、ナナリーは驚愕した表情になった。



「ひ、酷いわ!! そんなのって……エド様がかわいそうよ!!」



そう言ってナナリーは泣きながら走り去ってしまった。



「ミス・ナナリー! どこに行くのですか!?

 まだ授業は終わっていませんよ!」



テティーア先生が呼び止めるが、ナナリーは無視して教室を出て行った。

すぐに後を追うのはイケメンsの2人、カイン様とコンラート様だ。



立ち尽くしていたエドワード殿下と視線があった。

彼の顔は悲しい表情だった。

その後すぐに、エドワード殿下はナナリー達を追って教室を出て行った。


(今更、そんな顔したって……)



私の胸に少しだけ罪悪感が襲った――。





「ミス・エミリア。 言いすぎですよ。 場所を弁えなさい。

 貴女の発言で貴女の周りにどれだけ迷惑がかかるか考えなさい」



テティーア先生に叱られてしまった。



「私は、先ほどの貴女の言葉は聞かなかったことにします。

 皆さんもいいですね?」



先生はこの話を聞いていたであろう教室の皆に大声で注意した。

生徒達は、テティーア先生の言葉に頷いていた。



政略結婚なんて貴族では当たり前。

もし、私の発言が他の貴族家の大人達に聞かれてしまった場合、

自分の娘をエドワード殿下の婚約者に、と言ってくる人も出てくる。

逆もしかり、私に言い寄るように親に言われる貴族男性も出てくるだろう。

それに、私はエドワード殿下に対しての不敬罪にもなりかねない。


冷静になれていなかったのはナナリーだけでは無かった。

私も、結構イライラしていたのかな……。



私は、先生と他生徒達に頭を下げたのだった。






しおりを挟む

処理中です...