親子そろって悪役令嬢!?

マヌァ

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学園生活開始~学園祭。

40話『ピーラ』

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湖はキラキラと太陽の光を反射してとても綺麗だった。

透き通った水面には小さな魚の魚影が見え、

白鳥に似た中型の鳥の番つがいがゆっくりと泳いでいる。



「わー。とても綺麗ですね」



私は、一人感嘆の声をあげる。

ベリアル様はキョロキョロと湖を見渡していた。



何か探しているのかな?



「ベリアル様? 何かお探し物でも?」



そう言って私は桟橋にいるベリアル様に近づく。



バシャ!!!



…………え?



「……痛っ」 「エミリア嬢!?」



湖面から勢いよく飛び出したのは人の拳程の大きさの魚だ。

顎の下にあった鋭いドゲのようなものが右腕をかする。

反射的に受身の姿勢をとったおかげで、顔などに傷はない。


ザワワ……と空気が重く冷たくなった。

よく見ると、湖面がピキピキと氷り始めていた。

急に温度が下がったせいで、湖の周辺に霧が出始める。

右腕を横に振るう、ベリアル様。

湖が水しぶきを上げて尖った氷のオブジェが出来上がる。

湖全体に渡るそれは、小さな氷河期のようだった。



ベリアル様を見ると、瞳孔が縦に割れて無表情だ。

幻影をかけられて見えなかった角も現れて、髪も逆立ってしまっている。



怒っておられます。



ベリアル様は、私の手を掴んで、すぐに桟橋から離れた。



「傷は?」



ベリアル様は、傷の確認をする。



「だ、大丈夫です。
 
 この程度なら治癒魔法で治せます」



そう言って、私は自分に治癒魔法を施す。

傷は綺麗に消えた。



少しだけ落ち着きを取り戻したベリアル様は、桟橋に一番近い尖った氷を

無造作に折って持ってきた。


「ピーラだ」



見せられた氷の中には、先ほどの魚がいた。

濁った緑と黒のまだら模様に鋭いキバが無造作に並んでいる。

顎の下にあったトゲは異常発達した、尖った歯だった。

顎全体がトゲトゲしい見た目だ。



「ピーラ……。なぜ、こんな魚がこの湖に?

 ここは、学園が作った人工の湖のはずです。

 こんな、人を襲うような危険な魚はいるはずがありませんわ」



私の疑問に、ベリアル様は答える。



「この魚は人工魔魚だ」



人工魔魚? と顔に出ていた私にベリアル様は詳しく説明してくれる。



「魔物は魔力溜まりから生まれる。動物が魔力溜まりに長く居座ると

 魔物になるのだ。だが、この魔魚は別だ。

 別の場所で魔物として魔力で育てられてからこの湖に放流されたのだろう」



「そんな……なんのために……?」



誰が? 私は、疑問と恐怖で体が震えた。


「やはり、エミリア嬢も知らないか。

 ここでのいべんと? だったか。

 それにも関係ないのか?」



イベント? 湖でのイベントってこと?



「私が知っているのは、エドワード殿下とナナリー様が

 ここで……そ、その……」



カァーと顔が赤くなる。

言えない! キスシーンだなんて!!



「そのイベントには、魔物は関係ないのだな?」



魔物? ピーラのことかな? でも なんで?



「いえ。関係ないと思います。他の方のイベントでもこの場所でのイベントは

 無かったはずですわ。ですが、私が唯一わからないベリアル様のイベント

 だけは、ここのイベントが関わっている可能性はありますが」



攻略本にも乗っていなかったのを覚えている。

そもそも、私の持っている攻略本はベリアル様がコンテンツに追加される前の

ものなので、新イベントの種類もまったく知らないことになる。



ベリアル様は、私にバツが悪そうな顔で言った。



「ナナリーの周りを飛び回っている妖精が、ここで何かを撒いていた、

 という報告をうけていた」



「受けていた?」



知っていたということ?



「私の密偵が、それを見ていた。

 ビンとその中身がまったくわからなかったらしく、撒かれたあとに

 湖を調べたが、何も変化がなかったそうだ」



なるほど。稚魚のピーラには気づかなかったってことね。

1日で稚魚から成魚に成長したって考えると、恐るべし魔物の活力。



そんなことを考えていると、グラァと視界が滲む。

荒い息が繰り返し出て、自分の体重すら支えることができなくなった。

……寒い? でも、体の中が熱い…………。



「エミリア嬢!?」



遠くにベリアル様の声が聞こえる。



私は、そのまま気を失った。


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