親子そろって悪役令嬢!?

マヌァ

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記憶と状況理解とゲーム知識。

21話『エレノアの悪夢 番外編2』

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気がつくと、見慣れた部屋で私は目を覚ました。



私の名前はエレノア・ナスカ・パナストレイ。

パナストレイ星皇国の第一王女。



だけど、違和感がある。 



私は、死んだはず。

でも、なぜ生きているの?



天幕尽きの豪華なベットから上半身を起こして姿見の鏡をのぞく。



「えっ……? うそ……なんで……?」



姿見の鏡に写った自分の姿は、7年前の子供の姿だった。※7歳



それから、侍女や両親、お兄様に確認をとり、自分の状況を理解した。



そして、私に起こった現象。それはいわゆる「やり直し」というものだった。





最初は、お兄様も国王であるお父様も信じてくれなかった。

だけれど、私がこれから起こる事を次々に言い当てたことで

信憑性が増して、事の重要性を理解したお父様は酷く落ち込んだ。



このままではいけない。



そう思ったのでしょうね。

お父様とお兄様は、私の婚約者を変更してくださった。



そして、私は隣国ドルステン王国に嫁ぐことになったのだ。



それからは、ドルステン王国についての勉強をする毎日だった。

国の情勢、特産品に、農家産業など。

身を守るための護身術や剣技もお兄様に教えてもらった。



あっという間に前回の私が辿った5年間が経過し、12歳になった。

私がドルステン王国に嫁ぐ前日に、

お父様はお別れパーティーを開いてくださることになったわ。



お呼びするのは、私のお友達のみ。

新しくドレスを仕立てるために、街へお忍びで出かけることにしたの。



王女だから部屋へ呼んで仕立てればいいのかもしれないけれど、

これから離れる自分の産まれた国を最後に見ておきたくて。

ドレスは口実のつもりだった。

その日は、街の雑貨屋を数件回って、貴族用のカフェで昼食をとってから

仕立て屋に向う。



ドレスの発注には時間がかかるの。

完成するのは1週間後。靴選びに2時間もかけてしまったわ。



お店を出ようとしたところで、外から、幾人もの叫び声が聞こえた。



―――ダメ。 コレイジョウ――ススンデハダメ――。



誰かの声が私の中に響いた。



店内から、そっと外を見る―――。





数人の人だかりが出来ていた。


そこに居たのは、ピンクの髪をした血まみれの少女が倒れていた。

少女は、馬車か荷車にかれたのだろう。

腹部の服は裂け、大量の血が流れ出ていた。

両足はありえない方向に曲がっていて、

少し離れた場所に彼女の手らしきものが落ちていた。


(あ…………。)



目が……合ってしまった。





血まみれの少女は、あんな状態なのに目をぎょろぎょろと動かしていた。

そして、私と目が合った瞬間、一瞬あの時の微笑が脳裏をよぎった――。



『私の勝ちね』



少女は、私を凝視している。

その顔は、期待に満ちた表情だった。



(私が助けるのを期待している――? それとも、信じている――?)



もしかしたら、彼女も私と同じで『やり直し』ている?



私は、試しに目を逸らして何事も無い表情をした。





チラリと少女に視線を戻すと、その顔は驚愕と怒りの表情を浮かべていた。



もう一度、彼女に視線を戻す。

鋭い目線で首を横に振った。



(貴方を助けない。)そう意思を込めて。



彼女の表情は憎悪に歪んだ。

口から血を吐きながら何かを訴えている。





私にはその声は届かない。





彼女に群がっていた人たちが困惑し、恐怖の目線を少女に注いでいる。

彼女の周りからは人が次々に居なくなり始めていた。

彼女は一人、血まみれで口を動かし続けている。



私は聞かない。



あの時、貴方は私の声を奪ったから。



私は助けない。



あの時、貴方は私から全てを奪ったから。





私は、彼女から完全に目を逸らした。

そして、迎えの馬車を呼んでもらう。

しばらくして、馬車が到着する。

私が乗り込む頃には、彼女は、二度と動かぬ少女と成り果てていた。





私は、彼女を見捨てた―――。


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