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「えーと……怪我もしてるし、早いとこ戻りましょう」

そう言って車を出すと、2人はいつものように乗り込んだ。
よし。ナビと景色がちぐはぐじゃないぞ。さっきは少々酔いかけたので、ホッとする。

近場だと分かってるが、焦りのあまり帰り道はほとんど覚えていない。ためしに「コンビニ」といれてみたが、「候補が見つかりませんでした」と出てダメだった。そういやあれ、幻覚だもんね…。
試すこと数回、「ラスタ 拠点」と入れるとやっと元の場所に指定できた。よし、行こう。

「目的地を設定しました。ルート案内に従って、走行してください」
「フン、このクルマもまだまだだの。わしのを認識できんとは」
「残念だったな。こんびにとは呼べないって事だ」
「そうだ、お主。どうせスクロールの他にも色々隠し持っておるのだろう?今度こそわしのこんびにに並べさせろ」
「嫌だよ」

すっかりいつもの調子だ。一時はどうなるかと思ったし、謎が増えた気もするが…ひとまずはもとの2人に戻ってくれて良かった。
2人というか、少女ボスがだな。

「言っておくが、この剣ももう駄目だぞ。これはシマヤに渡すんだから」
「分かった分かった。同じことを何度もぬかさんでもよい。その代わりだな…」

えっ、いいの?
俺は驚いて助手席の少女ボスをチラ見した。
あんなに怒ってたのに…しかも元勇者のラスタさんじゃなく、ペテン師な俺が持っていくというのに、許してくれるのか。助かるけども、なぜ怒りをおさめたんだろう。

ひょっとして、彼女が怒り狂った理由は勇者の剣を取り返されるからではないのか?
初めから彼女は、あの剣自体に興味を持ってないようだった。今もそんなに気にしてなさそうだし。


『何しろここまで来れた者は、あやつとおぬししかおらん。わしの退屈さがいかばかりか、それで知れよう?』

『つまりはここを出ていくと……わしとやる気か?』


彼女の言動を思い浮かべてみると、ピーンときた。
あれ。まさか、このひと…

「もしかしてボスさんは、ラスタさんが出て行くかもしれないから怒ってたんですか?」

剣がどうこうではなく、話し相手であるラスタさんが居なくなろうとしているのに腹を立てていたという事では。なんだよ、寂しんぼかよ。

「ああ?何なのだ、いきなり。怒ってなどおらんわ」

いやいや、そりゃないでしょう。ブチギレてたでしょあなた。怖くて言えないけど。

「俺はここに居るよ」
「ふん!だからなんだ、このハゲ」
「どこがだ。禿げてない」

なーんだ。そういうことだったのか。
二人の仲に亀裂を入れてしまったのではという心配は、杞憂になったようだ。

ブロロロ、と車を進めて直ちに帰る。近場なのですぐ着いた。
少女ボスはラスタさんが隠し持っていたという(いつの間にか車の後部座席の下に隠してたらしい。知らなかった)マジックバックをひったくると、ムスッとしたまま店内に入っていった。テロローテロローン、と入店音が響く。

「俺、禿げてないよな?」

その姿を見送ってると、ラスタさんに思いもよらないことを聞かれた。真に受けてるよこの人…心配しなくても、アレただの悪口でしょ。

「フサフサですよ。それより怪我の手当てしましょう」
「もう済んだ。さっきクルマの中でポーションかけたから」

平気な顔で、まだ血まみれの肩をぐるぐる回している。そうか、良かったよ。手当しましょうとは言ったが、応急処置の仕方なんて俺は知らないのだ。

「これ」

すっ、と目の前に差し出されたのは、先ほどのスマートな剣。勇者の剣だ。
彼の持っていた槍や雷の剣もとても見事な造りをしていたが、この一振りも凄かった。見たこともないキラキラした白い金属でできている。宝石もくっついてる。

「すんごいですね…」
「改めて、よろしく頼む」
「は、はい」

ずしりとしたそれを受け取る。畏れ多いぞ。でも、預かるだけだ。目立たないよう、布で包んだ方が良いよな。
かっこいいから、たまに眺めさせてもらおう。

「お許しが出て良かったです」
「ああ。俺はあいつを倒す気も、出ていく気も全く無かったんだが。剣よりそっちを気にしてたとはな」
「いつも『退屈だ』って溢してたし…ラスタさんはきっとお気に入りの話し相手なんでしょうね」
「え?」

彼は無表情のまま、かすかに首を傾げる。

いやだって、そうじゃないとあんなに怒らないんじゃなかろうか。
現に俺が勇者の剣と一緒にここを脱出する気でいるのには、全然興味なさげだ。あんな反応をしたのは、ラスタさんにだけだぞ。

「本気で怒るほど、出ていかれたくないって事じゃないですか?」
「……どうだろう」

ラスタさんは無表情のままコンビニの方を向いた。中では少女ボスが肉まんを入れるケースに何かを詰め込んでいる。にっこにこだ。

「もしそうなら、複雑だ」

ポツリと呟いて、不意に彼の鉄面皮が崩れ去った。笑顔を見るのは初めてな気がする。

言葉通りの困ったような、寂しそうな笑顔だった。

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