21 / 93
4
しおりを挟む
「えーと……怪我もしてるし、早いとこ戻りましょう」
そう言って車を出すと、2人はいつものように乗り込んだ。
よし。ナビと景色がちぐはぐじゃないぞ。さっきは少々酔いかけたので、ホッとする。
近場だと分かってるが、焦りのあまり帰り道はほとんど覚えていない。ためしに「コンビニ」といれてみたが、「候補が見つかりませんでした」と出てダメだった。そういやあれ、幻覚だもんね…。
試すこと数回、「ラスタ 拠点」と入れるとやっと元の場所に指定できた。よし、行こう。
「目的地を設定しました。ルート案内に従って、走行してください」
「フン、このクルマもまだまだだの。わしのこんびにを認識できんとは」
「残念だったな。こんびにとは呼べないって事だ」
「そうだ、お主。どうせスクロールの他にも色々隠し持っておるのだろう?今度こそわしのこんびにに並べさせろ」
「嫌だよ」
すっかりいつもの調子だ。一時はどうなるかと思ったし、謎が増えた気もするが…ひとまずはもとの2人に戻ってくれて良かった。
2人というか、少女ボスがだな。
「言っておくが、この剣ももう駄目だぞ。これはシマヤに渡すんだから」
「分かった分かった。同じことを何度もぬかさんでもよい。その代わりだな…」
えっ、いいの?
俺は驚いて助手席の少女ボスをチラ見した。
あんなに怒ってたのに…しかも元勇者のラスタさんじゃなく、ペテン師な俺が持っていくというのに、許してくれるのか。助かるけども、なぜ怒りをおさめたんだろう。
ひょっとして、彼女が怒り狂った理由は勇者の剣を取り返されるからではないのか?
初めから彼女は、あの剣自体に興味を持ってないようだった。今もそんなに気にしてなさそうだし。
『何しろここまで来れた者は、あやつとおぬししかおらん。わしの退屈さがいかばかりか、それで知れよう?』
『つまりはここを出ていくと……わしとやる気か?』
彼女の言動を思い浮かべてみると、ピーンときた。
あれ。まさか、このひと…
「もしかしてボスさんは、ラスタさんが出て行くかもしれないから怒ってたんですか?」
剣がどうこうではなく、話し相手であるラスタさんが居なくなろうとしているのに腹を立てていたという事では。なんだよ、寂しんぼかよ。
「ああ?何なのだ、いきなり。怒ってなどおらんわ」
いやいや、そりゃないでしょう。ブチギレてたでしょあなた。怖くて言えないけど。
「俺はここに居るよ」
「ふん!だからなんだ、このハゲ」
「どこがだ。禿げてない」
なーんだ。そういうことだったのか。
二人の仲に亀裂を入れてしまったのではという心配は、杞憂になったようだ。
ブロロロ、と車を進めて直ちに帰る。近場なのですぐ着いた。
少女ボスはラスタさんが隠し持っていたという(いつの間にか車の後部座席の下に隠してたらしい。知らなかった)マジックバックをひったくると、ムスッとしたまま店内に入っていった。テロローテロローン、と入店音が響く。
「俺、禿げてないよな?」
その姿を見送ってると、ラスタさんに思いもよらないことを聞かれた。真に受けてるよこの人…心配しなくても、アレただの悪口でしょ。
「フサフサですよ。それより怪我の手当てしましょう」
「もう済んだ。さっきクルマの中でポーションかけたから」
平気な顔で、まだ血まみれの肩をぐるぐる回している。そうか、良かったよ。手当しましょうとは言ったが、応急処置の仕方なんて俺は知らないのだ。
「これ」
すっ、と目の前に差し出されたのは、先ほどのスマートな剣。勇者の剣だ。
彼の持っていた槍や雷の剣もとても見事な造りをしていたが、この一振りも凄かった。見たこともないキラキラした白い金属でできている。宝石もくっついてる。
「すんごいですね…」
「改めて、よろしく頼む」
「は、はい」
ずしりとしたそれを受け取る。畏れ多いぞ。でも、預かるだけだ。目立たないよう、布で包んだ方が良いよな。
かっこいいから、たまに眺めさせてもらおう。
「お許しが出て良かったです」
「ああ。俺はあいつを倒す気も、出ていく気も全く無かったんだが。剣よりそっちを気にしてたとはな」
「いつも『退屈だ』って溢してたし…ラスタさんはきっとお気に入りの話し相手なんでしょうね」
「え?」
彼は無表情のまま、かすかに首を傾げる。
いやだって、そうじゃないとあんなに怒らないんじゃなかろうか。
現に俺が勇者の剣と一緒にここを脱出する気でいるのには、全然興味なさげだ。あんな反応をしたのは、ラスタさんにだけだぞ。
「本気で怒るほど、出ていかれたくないって事じゃないですか?」
「……どうだろう」
ラスタさんは無表情のままコンビニの方を向いた。中では少女ボスが肉まんを入れるケースに何かを詰め込んでいる。にっこにこだ。
「もしそうなら、複雑だ」
ポツリと呟いて、不意に彼の鉄面皮が崩れ去った。笑顔を見るのは初めてな気がする。
言葉通りの困ったような、寂しそうな笑顔だった。
そう言って車を出すと、2人はいつものように乗り込んだ。
よし。ナビと景色がちぐはぐじゃないぞ。さっきは少々酔いかけたので、ホッとする。
近場だと分かってるが、焦りのあまり帰り道はほとんど覚えていない。ためしに「コンビニ」といれてみたが、「候補が見つかりませんでした」と出てダメだった。そういやあれ、幻覚だもんね…。
試すこと数回、「ラスタ 拠点」と入れるとやっと元の場所に指定できた。よし、行こう。
「目的地を設定しました。ルート案内に従って、走行してください」
「フン、このクルマもまだまだだの。わしのこんびにを認識できんとは」
「残念だったな。こんびにとは呼べないって事だ」
「そうだ、お主。どうせスクロールの他にも色々隠し持っておるのだろう?今度こそわしのこんびにに並べさせろ」
「嫌だよ」
すっかりいつもの調子だ。一時はどうなるかと思ったし、謎が増えた気もするが…ひとまずはもとの2人に戻ってくれて良かった。
2人というか、少女ボスがだな。
「言っておくが、この剣ももう駄目だぞ。これはシマヤに渡すんだから」
「分かった分かった。同じことを何度もぬかさんでもよい。その代わりだな…」
えっ、いいの?
俺は驚いて助手席の少女ボスをチラ見した。
あんなに怒ってたのに…しかも元勇者のラスタさんじゃなく、ペテン師な俺が持っていくというのに、許してくれるのか。助かるけども、なぜ怒りをおさめたんだろう。
ひょっとして、彼女が怒り狂った理由は勇者の剣を取り返されるからではないのか?
初めから彼女は、あの剣自体に興味を持ってないようだった。今もそんなに気にしてなさそうだし。
『何しろここまで来れた者は、あやつとおぬししかおらん。わしの退屈さがいかばかりか、それで知れよう?』
『つまりはここを出ていくと……わしとやる気か?』
彼女の言動を思い浮かべてみると、ピーンときた。
あれ。まさか、このひと…
「もしかしてボスさんは、ラスタさんが出て行くかもしれないから怒ってたんですか?」
剣がどうこうではなく、話し相手であるラスタさんが居なくなろうとしているのに腹を立てていたという事では。なんだよ、寂しんぼかよ。
「ああ?何なのだ、いきなり。怒ってなどおらんわ」
いやいや、そりゃないでしょう。ブチギレてたでしょあなた。怖くて言えないけど。
「俺はここに居るよ」
「ふん!だからなんだ、このハゲ」
「どこがだ。禿げてない」
なーんだ。そういうことだったのか。
二人の仲に亀裂を入れてしまったのではという心配は、杞憂になったようだ。
ブロロロ、と車を進めて直ちに帰る。近場なのですぐ着いた。
少女ボスはラスタさんが隠し持っていたという(いつの間にか車の後部座席の下に隠してたらしい。知らなかった)マジックバックをひったくると、ムスッとしたまま店内に入っていった。テロローテロローン、と入店音が響く。
「俺、禿げてないよな?」
その姿を見送ってると、ラスタさんに思いもよらないことを聞かれた。真に受けてるよこの人…心配しなくても、アレただの悪口でしょ。
「フサフサですよ。それより怪我の手当てしましょう」
「もう済んだ。さっきクルマの中でポーションかけたから」
平気な顔で、まだ血まみれの肩をぐるぐる回している。そうか、良かったよ。手当しましょうとは言ったが、応急処置の仕方なんて俺は知らないのだ。
「これ」
すっ、と目の前に差し出されたのは、先ほどのスマートな剣。勇者の剣だ。
彼の持っていた槍や雷の剣もとても見事な造りをしていたが、この一振りも凄かった。見たこともないキラキラした白い金属でできている。宝石もくっついてる。
「すんごいですね…」
「改めて、よろしく頼む」
「は、はい」
ずしりとしたそれを受け取る。畏れ多いぞ。でも、預かるだけだ。目立たないよう、布で包んだ方が良いよな。
かっこいいから、たまに眺めさせてもらおう。
「お許しが出て良かったです」
「ああ。俺はあいつを倒す気も、出ていく気も全く無かったんだが。剣よりそっちを気にしてたとはな」
「いつも『退屈だ』って溢してたし…ラスタさんはきっとお気に入りの話し相手なんでしょうね」
「え?」
彼は無表情のまま、かすかに首を傾げる。
いやだって、そうじゃないとあんなに怒らないんじゃなかろうか。
現に俺が勇者の剣と一緒にここを脱出する気でいるのには、全然興味なさげだ。あんな反応をしたのは、ラスタさんにだけだぞ。
「本気で怒るほど、出ていかれたくないって事じゃないですか?」
「……どうだろう」
ラスタさんは無表情のままコンビニの方を向いた。中では少女ボスが肉まんを入れるケースに何かを詰め込んでいる。にっこにこだ。
「もしそうなら、複雑だ」
ポツリと呟いて、不意に彼の鉄面皮が崩れ去った。笑顔を見るのは初めてな気がする。
言葉通りの困ったような、寂しそうな笑顔だった。
1
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
ゆったりおじさんの魔導具作り~召喚に巻き込んどいて王国を救え? 勇者に言えよ!~
ぬこまる
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれ異世界の食堂と道具屋で働くおじさん・ヤマザキは、武装したお姫様ハニィとともに、腐敗する王国の統治をすることとなる。
ゆったり魔導具作り! 悪者をざまぁ!! 可愛い女の子たちとのラブコメ♡ でおくる痛快感動ファンタジー爆誕!!
※表紙・挿絵の画像はAI生成ツールを使用して作成したものです。
便利すぎるチュートリアルスキルで異世界ぽよんぽよん生活
御峰。
ファンタジー
旧題:チュートリアルスキルが便利過ぎて、チートスキルがなくても異世界ライフは楽です。
前世で勇者となる者に巻き込まれる形で転生を果たすワタル。
天使様の厚意で転生前にチュートリアルを体験する事になった。
しかし、チュートリアル体験中に、勇者がチュートリアルをクリアしてしまい、チュートリアルの途中で転生する事に。
勇者ではないワタルには最上級のチートスキルが与えられなかったが、チュートリアルをクリアしてないのに転生した事により、エラーが発生し、チュートリアルスキルをそのままに転生を果たした。
転生後、8歳児として目を覚ますワタル。
チートスキルはないが、チュートリアルスキルが便利且つ最強過ぎて、異世界ライフに困る事なく、好きな事をしながら楽しい異世界ライフを送る。
チュートリアルスキルで召喚した前世で飼っていた最愛のペットのコテツと冒険しながら、スライムを大量にテイムし人々を癒す【ぽよんぽよんリラックス】を結成し多くの人を心から癒し、困っていた獣人達を救って毎日猫耳と猫尻尾を愛でながら町なんかを作ったり、ダンジョンに潜ったり、時には何もせずに昼寝をしたり、出会った神獣と心を通わせてモフモフさせて貰ったり、時には魔王軍とご飯を食べながら勇者の愚痴を言い合ったりと楽しい異世界ライフを送る。
※アルファポリスオンリー作品です。
※ハーレムっぽく見えて、ハーレムではありません。
※ファンタジー小説大賞挑戦作品となりますので、応援してくださると嬉しいです。
※コメントは基本全承諾及び返信しております。コメントを残してくださると作者が喜びます!
動物に好かれまくる体質の少年、ダンジョンを探索する 配信中にレッドドラゴンを手懐けたら大バズりしました!
海夏世もみじ
ファンタジー
旧題:動物に好かれまくる体質の少年、ダンジョン配信中にレッドドラゴン手懐けたら大バズりしました
動物に好かれまくる体質を持つ主人公、藍堂咲太《あいどう・さくた》は、友人にダンジョンカメラというものをもらった。
そのカメラで暇つぶしにダンジョン配信をしようということでダンジョンに向かったのだが、イレギュラーのレッドドラゴンが現れてしまう。
しかし主人公に攻撃は一切せず、喉を鳴らして好意的な様子。その様子が全て配信されており、拡散され、大バズりしてしまった!
戦闘力ミジンコ主人公が魔物や幻獣を手懐けながらダンジョンを進む配信のスタート!
突然だけど、空間魔法を頼りに生き延びます
ももがぶ
ファンタジー
俺、空田広志(そらたひろし)23歳。
何故だか気が付けば、見も知らぬ世界に立っていた。
何故、そんなことが分かるかと言えば、自分の目の前には木の棒……棍棒だろうか、それを握りしめた緑色の醜悪な小人っぽい何か三体に囲まれていたからだ。
それに俺は少し前までコンビニに立ち寄っていたのだから、こんな何もない平原であるハズがない。
そして振り返ってもさっきまでいたはずのコンビニも見えないし、建物どころかアスファルトの道路も街灯も何も見えない。
見えるのは俺を取り囲む醜悪な小人三体と、遠くに森の様な木々が見えるだけだ。
「えっと、とりあえずどうにかしないと多分……死んじゃうよね。でも、どうすれば?」
にじり寄ってくる三体の何かを警戒しながら、どうにかこの場を切り抜けたいと考えるが、手元には武器になりそうな物はなく、持っているコンビニの袋の中は発泡酒三本とツナマヨと梅干しのおにぎり、後はポテサラだけだ。
「こりゃ、詰みだな」と思っていると「待てよ、ここが異世界なら……」とある期待が沸き上がる。
「何もしないよりは……」と考え「ステータス!」と呟けば、目の前に半透明のボードが現れ、そこには自分の名前と性別、年齢、HPなどが表記され、最後には『空間魔法Lv1』『次元の隙間からこぼれ落ちた者』と記載されていた。
異端の紅赤マギ
みどりのたぬき
ファンタジー
【なろう83000PV超え】
---------------------------------------------
その日、瀧田暖はいつもの様にコンビニへ夕食の調達に出掛けた。
いつもの街並みは、何故か真上から視線を感じて見上げた天上で暖を見る巨大な『眼』と視線を交わした瞬間激変した。
それまで見ていたいた街並みは巨大な『眼』を見た瞬間、全くの別物へと変貌を遂げていた。
「ここは異世界だ!!」
退屈な日常から解き放たれ、悠々自適の冒険者生活を期待した暖に襲いかかる絶望。
「冒険者なんて職業は存在しない!?」
「俺には魔力が無い!?」
これは自身の『能力』を使えばイージーモードなのに何故か超絶ヘルモードへと突き進む一人の人ならざる者の物語・・・
---------------------------------------------------------------------------
「初投稿作品」で色々と至らない点、文章も稚拙だったりするかもしれませんが、一生懸命書いていきます。
また、時間があれば表現等見直しを行っていきたいと思っています。※特に1章辺りは大幅に表現等変更予定です、時間があれば・・・
★次章執筆大幅に遅れています。
★なんやかんやありまして...
【R-18】異世界で開拓?
甘い肉
ファンタジー
突然現れた目の前に有ったのは巨大な塔だった、異世界に転生されたと思っていたが、そこに現れる異世界人も、召喚された俺と同様に驚いていた、
これは異世界人と異世界人が時に助け合い、時に殺し合う世界。
主人公だけは女性とセックスしないと【レベルアップ】しない世界
これから開拓を始める為に、産めよ孕めよの世界で、
世界を開拓しろと言われた男の人生を描いてみた作品です。
初投稿です、よろしくお願いします
サブタイトルに(♯)が付いて居るのはエロシーン有りです。
【注意】
タカシがメインの話しでは特に表現がきつかったり、寝取り要素が含まれる場合があるので苦手な方はタカシ編は流した方がいいかもしれません
タカシは2章以降殆ど出なくなります
2021/08/27:追記
誤字脱字、文脈の一部変更、塔5階のストーリーのみ、一部変更しています。
前回、リヴァイアサン討伐で止まっていた部分の続きから、ラストまでまた頑張るつもりです。
よろしくお願いします。m(_ _)m
キャンピングカーで往く異世界徒然紀行
タジリユウ
ファンタジー
《第4回次世代ファンタジーカップ 面白スキル賞》
【書籍化!】
コツコツとお金を貯めて念願のキャンピングカーを手に入れた主人公。
早速キャンピングカーで初めてのキャンプをしたのだが、次の日目が覚めるとそこは異世界であった。
そしていつの間にかキャンピングカーにはナビゲーション機能、自動修復機能、燃料補給機能など様々な機能を拡張できるようになっていた。
道中で出会ったもふもふの魔物やちょっと残念なエルフを仲間に加えて、キャンピングカーで異世界をのんびりと旅したいのだが…
※旧題)チートなキャンピングカーで旅する異世界徒然紀行〜もふもふと愉快な仲間を添えて〜
※カクヨム様でも投稿をしております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる