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爆誕シマヤバット号

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この世界にやって来てから、無事3日が経った。

少女ボスの幻影によって作られたピカピカの青空は、彼女の気が変わらなければずっとそのままで、「夜を明かす」という体感がまるで得られない。
ラスタさんも、もうとっくに以前の生活リズムは狂ってしまったらしく、疲労が溜まらないようルーチンを決めて起床就寝するらしい。なので俺は彼に合わせて、車のシートを倒し車中泊した。

何でも、少女ボスの機嫌がいい時にリクエストすると、夕暮れや星空にしてもらえるそうだ。
もうツッコミを入れる気も起きない。

俺が日数を数えていられるのは、カーナビに表示されてる時計のおかげだった。

そうして今日。レベル上げの助っ人を依頼した俺は、ラスタさんの案内の元、車を出した。
馴染みとなりつつある綺麗な街並みを離れ、元の陰惨としたゴーストタウンへ向かう。

「遭難・死亡事故多発区域です。ステルス運転モードへ移行します。車外へ出るときは安全を確認しましょう」
「ぬ、誰じゃおぬしは」
「喋った」
「いや、カーナビです。誰もいません。ただの音声ですよ」

気にしないでください、と受け流して進む。

俺がやって来た道とは別の場所へ向かっているみたいだ。何処へ行こうと、最悪カーナビで街の中心を目的地に設定すれば帰って来られるので、気楽ではある。

やがて、「ここだ」とラスタさんの声が掛かる。
車のライトが煌々と照らすのは、汚く朽ちかけた石壁の一部。街並みを囲うように、左右にずっと続いている。壁つたいに視線を移すと、大きなアーチ型の出入り口を見つけた。
ナビの地図を見る限り、石壁はこのゴーストタウンをぐるりと囲っている。
どうやら、街の外壁門のようだ。

「この中、キラーバットがいたはずだ。まずはコイツから始めてみようと思う。これ」

ラスタさんは腰のポーチ(マジックバックという便利なアイテムで、見た目以上の容量があるらしい)からナイフを出して、こちらに差し出した。使い古された感じのシンプルなナイフだ。

恐々と受け取って、「あの、キラーバットってどんなやつなんですか…?」とたずねる。

「ちょっと強いコウモリだ。見えない暗がりから飛びかかってくると思うから、離れないよう気をつけて」
「わ、わかりました」
「あと、アイツの悪ふざけにも注意しろ。…本当はアイツ抜きで来れれば良かったんだが、こっそりバレずに出かけるのはどうしても無理みたいだ」

ラスタさんは残念そうな口調で、少女ボスを指差す。
ふざけた態度をとっていても、彼女はここの主。魔境の中なら何処へいようと居場所が知られてしまうという。いわゆる特定厨だ。

「たわけめ、当前だ。わしは常に暇を持て余しとるのだ!抜け駆け厳禁!」

美しい黒髪をかき上げ、得意そうに少女ボスは言う。つまり、意地悪で邪魔されるのは避けられないと。
緊張でそれどころじゃない俺は、無言で頷いた。
車から降りロックをする。ラスタさんの後をついて、アーチの入り口から中へと踏み込んだ。

門の中は予想以上に奥行きがあった。どうやら、相当分厚い外壁らしい。トンネル並に長い通路が伸びており、突き当たりの空間には更に3つの分岐した通路がある。まさにダンジョンといった雰囲気だ。

「この中はエリアとエリアを繋ぐ、いわば箸休めのような場所であまり凶悪な魔物がいないんだ。それにここにいるキラーバットは飛行できるし、ちょうどいいと思って」

ラスタさんはそう説明してくれたが、俺は半分も聞いちゃいなかった。門の奥からガシャンガシャンガシャン!と音を立てて、骸骨が2体突進してきていたからだ。
けたたましく向かってくる骸骨は革の鎧を身につけ、1体は剣を、もう1体は槍を振り回している。

恐怖で叫び出す間もなかった。
ラスタさんはウエストポーチから子供の背丈ほどもある大槌をスーッと取り出すと、先に突撃してきた剣持ち骸骨の頭へ叩きつけた。
粉々になった頭部が飛び散らかり、そいつは枯れ木のように倒れる。

後続の骸骨が槍を突き出すも、彼は小さく身体を傾け避けきった。間髪入れず、槌の先が吸い込まれるようにそいつの骸骨頭へ直撃。相手の動きを完全に先読みした、見事な動作だった。

恐怖も忘れて呆気に取られる俺の前で、骸骨たちは崩れて消えていく。
助かった。俺はラスタさんにぺこぺこと頭を下げる。

「あ、ありがとうございます……!」
いや、凄いな、プロのお手前。喋りながらしれーっとやっつけてるよ。

「おい、こやつのレベルアップをするという話ではなかったか?お主が倒してどうする」

少女ボスがいつもの調子で肩をすくめて言った。彼女もラスタさん同様、涼しい顔をしている。
さっきの説明通り、骸骨たちは彼らにとって低レベル扱いのようだ。俺だけが一人でビビり散らかしている。

「いきなり実戦なんてさせるわけ無いだろう。シマヤにはとどめだけ刺して貰うんだ」

とっさに倒しちまったけど…と答えるラスタさんの手には、立派な大槌。あんなのも入るなんて、嵩張らない所の話じゃないな。マジックバック、便利すぎる。
ていうか、あんな重そうな物どうやって振り回してるんだ…?

「うわっ、きったねー!そんな卑怯な手が許されると思うのか!プライドとかないのか?おぬしも汗水垂らして命を賭けんか」
「退屈しのぎがしたいだけのやつが何を言う」

ラスタさんは軽く手を振り、相手にしないの姿勢。俺もそれに倣った。

少女ボスの言い分もわかるけどさ。こっちはレベル最小値の実力なしで、賭ける命は一つしかない。ついでに言うと俺はラスタさんのファンだ。プライドなんて知るか。
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