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「お待たせしました!スキルの準備が終わりました。カーナビつけておきましたので、まぁまずは色々とお試しください」

サァどうぞどうぞ~と追い立てるように、俺は再び運転席へ押し込まれた。
言われた通り、ハンドルの隣に立派なモニターのナビが組み込まれている。普通車にあるような、ちゃんとしたやつだ。いつの間にこんな工事したんだよ、ブツブツ言ってただけなのに。

「そのカーナビが、スキルの根本になります。大体貴方の知っているカーナビと使い方は一緒ですのでね。
また、こちらは特殊スキルとなりまして、それに伴いボーナス特典もお付けしました」

おっさんが指をさすので見ると、助手席にダンボールの包みが置いてある。
もう次から次へとツッコミ所がいっぱいだが、二人はすっかり俺を送り出す雰囲気だ。

「いやいや!もう少しきちんと教えて貰えない?ガソリンは?異世界なんだろ?レギュラーなんて無いでしょ」
「それでしたら、おいおい分かりますのでご心配なく~。あっ、カーナビ確認してくださいね~」
「ちょっと!道路交通法は?」
「そういうのはありません。常識の範囲で、安全運転で大丈夫ですよ~」

ええ、フワフワ。
呆気に取られている間に、おっさんと新人ちゃんは上品に手を振った。その姿が、白い風景にモヤモヤと紛れていく。

「おい!ちょっと待て!」

慌てて叫ぶも、二人は聞きやしない。煙のように消えてしまった。これが本当の、煙に撒くってか。
なんて奴らだ。もっとちゃんと説明してくれてもいいのに!
愕然としていると、真っ白な景色が徐々に様変わりしていってるのに気がついた。とうとう異世界とやらへ行くらしい。車も一緒に。
固唾を飲んで眺めること暫し。

「うわ……何だ、ここ」

明るい雲の中のような景色は一変した。車内から見える周囲はどんよりと暗く、廃れた建物が並んでいる。
石造りの道に、西洋風の家や門。その全てが薄汚れ、崩れかけていた。

はあ?ここが異世界?
それはそれは雰囲気たっぷりの、ゴーストタウンである。俺は思わず頭を抱えそうになった。怖い。怖過ぎる。

「どうしてこんな目に……」

石畳の地面は所々割れて、隙間から雑草が茂っている。こんな所、下手したらパンクしちまうじゃないか。
だが、車の中からでも伝わってくる、この淀んだ空気。外に出歩く勇気はない。

とりあえず、あのおっさんの言う通りにしてみよう。
周囲に動くモノが居ないのを一通り確認して、俺はエンジンをかけた。エンジン音と共に、カーナビの画面がパッと点る。

「見た感じ普通のナビだけど…」

自分を示す三角形に、恐らく周辺のであろう地図。機械が不慣れな両親に代わりもっぱらナビ操作役に徹していたので、運転よりは慣れているのだ。カーナビは。

画面をポチポチして、地図を拡大してみる。
すると現れる、円の地形。これが街の全体図のようで、名前らしきものも表示された。日本語じゃない、見たことのない文字なのに、読める。

魔境・天空都市ベラトリア

天空都市……マチュピチュ?山の上って事だろうか。
いや、まさか。ファンタジー的世界だとしたら、空島?んなもん車でどうやって降りんねん。

ピピピと更に拡大。ゴーストタウンの円形とその周りが色分けされているのが分かった。
周囲が緑色なのに対し、円形は赤く表示されている。真っ赤だ。そしてベラトリアという名前に寄り添う、『魔境』の文字。

…………。

「で、出口……」

息苦しさを覚えながら、俺は「案内」のボタンを押す。
いつものなら名称、ジャンル、電話番号…等々出てくるが、表示されたのは入力画面だ。
思いつくまま入れてみる。

ベラトリア 出口

候補が複数あります。ピンを選択してください。

現れたカーナビ画面の文字に思わず「いや、あるんかい」とツッコミを入れてしまう。
しかし、超助かる。異世界の地名も住所も知らない俺が、目的地を設定できるわけがない。キーワードでパパッと出できてくれるなんて便利だ。

再び画面を鬼タッチして地図を縮小。出口候補は3箇所あった。一つは中心。残り二つは円周上。つまり、街の中央と端だ。

「真ん中が一番近いけど…本当に出れるのか?」

少し迷うが、現在位置から一番近いのでそこを目指すことにした。ひょっとしたら、抜け道階段でもあるのかもしれない。

「目的地を設定しました。ルート案内に従って、走行してください」

レバーをDに入れる前に、少々確認。ワイパーはこれ。ライトは暗いからハイビーム。切り替えはどうだっけ、あ、これか。
ガソリンは流石にフルのままだけど、いつまで保つのだろう。不安だ。

「遭難・死亡事故多発区域です。ステルス運転モードへ移行します。車外へ出るときは安全を確認しましょう」

ひええ。今すげーおっかないこと言ったな。


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