上 下
15 / 22

14

しおりを挟む
「セレナ様?」

 私に呼びかける青年商人の声は、視線は……、私の反応や状況を面白がっているように見える。

「ここに書かれている事の真偽は如何なのでしょう? 貴方が学園を卒業すればオルエン商会は貴方が治めていく者と思い多くの商人達は考え、貴方に賭けていたのですよ」

 青年商人は私を追い詰めるように彼はニヤニヤと笑っていた。

「ここに書かれている事で真実は、ユーリが婚約者を私からエリスに変えたと言う事だけ……。 私が!! こんな人間だとお思いですの?! 私は何時だって誠実にいたわ」

 声が乾き……気持ちが沈んでいく。

 気持ち悪い。
 頭が痛い。

 今日のエスコート役である3人が不安そうに私を見ている。

 落ち着かないと……。

「大丈夫よ」

「お部屋に戻りましょう。 セレナ様。 私達はセレナ様を信じています」

 真摯な視線を向けて来るかつての部下に誠実であろうと、彼女達の思いやりに感謝しようと思っているのに、3人の向こうからニヤニヤと事を楽しむかのような青年商人の視線を逸らす事ができなかった。

 何もかも放り出して逃げ出したい……。
 なのに……動けなかった。

 青年商人は視線を私に向け、テーブルの上に広げた新聞を指先で叩く。

 トントン。

「……」

「まだ……続きがありますよ?」

 私は新聞をひったくるように手にとって隅から隅まで文章を視線で追った。

「な、によ。 コレ……」

 影で私が暴力、脅し、ゆすり、たかりをしていたとあった。

「な、によ!! コレ!! 私が、こんな事しない!!」

「私に言われても困りますよ。 ただ……これは商業ギルドに衝撃をあたえたのは事実ですよ」

「私が、こんな事をする必要なんてないわ!!」

「妹のエリス嬢が涙ながらに語っていたようですよ」

 ページをめくるように指示してきた。

 姉であるセレナの行動の全ては、私が至らないせいだと涙ながらに語るエリス とある。 

『私が上手く領地を治める事ができなくて、そのお金を都合してもらっていたの……全部、私が悪いの。 頼り切っていたから……セレナは悪くないの……』

「何を言っているの……」

 確かに私に与えられた価値のあるものの多くは彼女が持ち帰っていた。 領地の改善・改良に必要な資金は、商的計画書に資金提供に対する返済計画をたて会長に相談していた。 個人的な財産を利用した事無いし、貴族を脅して揺すりたかりなどする必要等ない。

「身に覚えがないと?」

「当たり前でしょう。 私をどういう人間だと思っているの」

「ですよね。 えぇ、貴方と実際に仕事をしたことがある人は、全員訝しんでいますとも。 では、ココにある事実とは?」

 好奇心の旺盛さは商人としての有能さの1つとされてはいるけれど、周囲からの視線を考えれば迷惑でしかない。

 それに……被害者である貴族令嬢達が、私を陥れるために嘘をついているのでなければ……私は頭を抱え、乱暴に青年商人の正面の椅子に腰を下ろした。

「あの子は……何を考えているの?」

 きっと理由があるんだわ。

 私は心の中で、必死にそう言い聞かせようとしていたけれど……もう双子の妹エリスが美しくも愛らしく彩られる事は無かった。





「お帰りなさい……」

 真っ暗な部屋にノックもせずに現れる青年クレイ。
 眠るに眠れず、起きるに起きられず、月明りがさし込む窓辺の揺り椅子で私はクレイを出迎えた。

「起きていたのですね」

「こんな時間に、女性の部屋に無言で訪れるなんて……」

 わざとらしく呆れた声で私は言えば、物凄く狼狽えた様子でクレイは謝るのだ。

「申し訳ございません」

「随分と遅かったのね。 今まで商会に? それとも秘密のお仕事かしら?」

「両方ですね。 軽食ついでに飲み物を頂こうと思うのですがいかがですか?」

「眠れなくなるから遠慮するわ」

 とは言うけれど……もうすでに眠れなくなっている。
 疲れたままの身体が重く、だるい……。

「眠りを促すハーブティもありますよ」

「でも、眠る気分でもないの」

 静かな時間。

「今日の事を聞かせて」

「えぇ、貴方が望むのなら……」

 静かな静かな夜だった。
 私の心とは、かけ離れていた。






 クレイが商会に呼ばれた理由は、昨日の言葉の撤回だったらしい。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

家出した伯爵令嬢【完結済】

弓立歩
恋愛
薬学に長けた家に生まれた伯爵令嬢のカノン。病弱だった第2王子との7年の婚約の結果は何と婚約破棄だった!これまでの尽力に対して、実家も含めあまりにもつらい仕打ちにとうとうカノンは家を出る決意をする。 番外編において暴力的なシーン等もありますので一応R15が付いています 6/21完結。今後の更新は予定しておりません。また、本編は60000字と少しで柔らかい表現で出来ております

【完結】どうやら私は婚約破棄されるそうです。その前に舞台から消えたいと思います

りまり
恋愛
 私の名前はアリスと言います。  伯爵家の娘ですが、今度妹ができるそうです。  母を亡くしてはや五年私も十歳になりましたし、いい加減お父様にもと思った時に後妻さんがいらっしゃったのです。  その方にも九歳になる娘がいるのですがとてもかわいいのです。  でもその方たちの名前を聞いた時ショックでした。  毎日見る夢に出てくる方だったのです。

義妹がすぐに被害者面をしてくるので、本当に被害者にしてあげましょう!

新野乃花(大舟)
恋愛
「フランツお兄様ぁ〜、またソフィアお姉様が私の事を…」「大丈夫だよエリーゼ、僕がちゃんと注意しておくからね」…これまでにこのような会話が、幾千回も繰り返されれきた。その度にソフィアは夫であるフランツから「エリーゼは繊細なんだから、言葉や態度には気をつけてくれと、何度も言っているだろう!!」と責められていた…。そしてついにソフィアが鬱気味になっていたある日の事、ソフィアの脳裏にあるアイディアが浮かんだのだった…! ※過去に投稿していた「孤独で虐げられる気弱令嬢は次期皇帝と出会い、溺愛を受け妃となる」のIFストーリーになります! ※カクヨムにも投稿しています!

今日も旦那は愛人に尽くしている~なら私もいいわよね?~

コトミ
恋愛
 結婚した夫には愛人がいた。辺境伯の令嬢であったビオラには男兄弟がおらず、子爵家のカールを婿として屋敷に向かい入れた。半年の間は良かったが、それから事態は急速に悪化していく。伯爵であり、領地も統治している夫に平民の愛人がいて、屋敷の隣にその愛人のための別棟まで作って愛人に尽くす。こんなことを我慢できる夫人は私以外に何人いるのかしら。そんな考えを巡らせながら、ビオラは毎日夫の代わりに領地の仕事をこなしていた。毎晩夫のカールは愛人の元へ通っている。その間ビオラは休む暇なく仕事をこなした。ビオラがカールに反論してもカールは「君も愛人を作ればいいじゃないか」の一点張り。我慢の限界になったビオラはずっと大切にしてきた屋敷を飛び出した。  そしてその飛び出した先で出会った人とは? (できる限り毎日投稿を頑張ります。誤字脱字、世界観、ストーリー構成、などなどはゆるゆるです) hotランキング1位入りしました。ありがとうございます

公爵令嬢を虐げた自称ヒロインの末路

八代奏多
恋愛
 公爵令嬢のレシアはヒロインを自称する伯爵令嬢のセラフィから毎日のように嫌がらせを受けていた。  王子殿下の婚約者はレシアではなく私が相応しいとセラフィは言うが……  ……そんなこと、絶対にさせませんわよ?

幼馴染みに婚約者を奪われ、妹や両親は私の財産を奪うつもりのようです。皆さん、報いを受ける覚悟をしておいてくださいね?

水上
恋愛
「僕は幼馴染みのベラと結婚して、幸せになるつもりだ」 結婚して幸せになる……、結構なことである。 祝福の言葉をかける場面なのだろうけれど、そんなことは不可能だった。 なぜなら、彼は幼馴染み以外の人物と婚約していて、その婚約者というのが、この私だからである。 伯爵令嬢である私、キャサリン・クローフォドは、婚約者であるジャック・ブリガムの言葉を、受け入れられなかった。 しかし、彼は勝手に話を進め、私は婚約破棄を言い渡された。 幼馴染みに婚約者を奪われ、私はショックを受けた。 そして、私の悲劇はそれだけではなかった。 なんと、私の妹であるジーナと両親が、私の財産を奪おうと動き始めたのである。 私の周りには、身勝手な人物が多すぎる。 しかし、私にも一人だけ味方がいた。 彼は、不適な笑みを浮かべる。 私から何もかも奪うなんて、あなたたちは少々やり過ぎました。 私は、やられたままで終わるつもりはないので、皆さん、報いを受ける覚悟をしておいてくださいね?

【完結】唯一の味方だと思っていた婚約者に裏切られました

紫崎 藍華
恋愛
両親に愛されないサンドラは婚約者ができたことで救われた。 ところが妹のリザが婚約者を譲るよう言ってきたのだ。 困ったサンドラは両親に相談するが、両親はリザの味方だった。 頼れる人は婚約者しかいない。 しかし婚約者は意外な提案をしてきた。

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

処理中です...