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8話 団長!
しおりを挟む団長の意図――
私はある疑問を抱いた。それは私を牢へぶち込んだ馬鹿息子がこの騎士団の中に居たからだ。
私の考え過ぎかも知れない。しかし、こうも都合よく罪人を入れたり出したり出来るとは思えない。
示し合わせたと考えるのが妥当だ。しかも毛嫌いしている冒険者の私を、誇る騎士団の練習風景を見せたいと思うだろうか。
団長の意図か、それともただの偶然か……。
何が本当で何が嘘かは今はどうでもいい。だが、彼らはこの温厚な私の地雷を踏んでしまったのだ。
隆々とした筋肉をひけらかす男が私の前に立った。しかし私は敢えて拒否をする。
「団長にひとつお願いがあります。その屈強そうな兵士さんは後回しにして、私はあの彼と手合わせしたいのですが、宜しいでしょうか?」
私が指差すほうへ団長は顔を向けると、顔から笑みが消え、団長と兵士は相槌を打つと、黙ってその兵士を差し出した。
「紅くん。お手柔らかに頼むよ」
「承知致しました。さあ、今日は小さな刃物ではなく、慣れた剣で向かって来て下さい。遠慮なくね」
そう言うと、男は諦めたように眼光鋭く睨む。そして一礼して構えを取った。
「手合わせ、お願いします」
「こちらこそ、宜しく」
凛と張り詰めた空気が漂い、一陣の風を合図に、男は剣を振り下ろす――
「おりゃー! 俺を甘く見るな!」
私はその剣を指先2本で受け止め、男を見据え告げた。
「そうでした。甘く見た結果がこれですからね。貴族とは相当暇らしい。貴方には2度と怪我をさせたくないので、さっさと終わりに致しましょう」
私は一歩も動くことなく、指先に力を込めて剣を真っ二つに折ってやった。
男は驚愕とばかりに剣を凝視し、愕然とその場に膝を突いた。
「いや~、これは申し訳ない。斧とは違い、剣とはこんなにも脆い物とは知りませんでした」
そこへ時を挟まず、筋肉男が私の前に立ち開かる。やれやれ、待ての出来ない犬コロだ。
「お前、クソ冒険者だってな。俺のグレートソードはそう簡単には折れないぜ。せいぜい踏ん張りな」
筋肉男は自前と思しき大剣を肩に担ぎ、私を煽る。おそらくこの筋肉男は噛ませ犬。
誤魔化しの余興だ。
「では始めましょうか」
筋肉男は力任せに大剣を振り下す。私はまた指先2本で受け止めた。筋肉男はニヤリと笑って凄んだ。
「ヘッ、そうくると思ったぜ。このままオレ様の腕力でその細い腕を真っ二つに裂いてやる!」
「そうですか。なら早くやって下さい」
そう言われて筋肉男は大剣に力を入れるが、大剣はピクリとも動かない。顔や腕に血管が浮き出る。
「クッ、クソッ! 動かねえ!」
「ハァ、時間の無駄ですね。終わらせます」
私は女の必殺技、キンタマ蹴りをお見舞いすると、筋肉男は白目を剥いて泡を吹き昏倒した。
おっと、待てより先に伏せを教えてしまったようだ。これは失敬。
私は剣を投げ捨て、団長に歩み寄りながら――
「牢獄体験、どうもでした。では、ご機嫌よう」
と、一言メッセージを告げてその場を去った。傍らでアルやリーク、そして兵士達もただ呆然と立ち尽くし、成り行きを見届けていた。
私とて、ただ仕事だけに明け暮れていた訳ではない。いつかはダンジョンに潜らなければならないだろうと、私なりに鍛錬は積んできた。
その結果、殆どのステータスはマックスに達し、新しいスキル《ハンター》も獲得した。
これはあのギルドイベントで得たものだ。身体能力は自分で言うのもなんだが、尋常じゃないほどのレベルに達し、これで空が飛べたら完璧超人だ。
それはそうと、この茶番劇を仕組んだのはおそらく、団長と貴族の馬鹿息子、それとリークだ。
しかし確証はない。ただ、メッセージに対して何も語らずと言うことは、私の思い違いでは無かったと言うことだ。なんにせよ、彼らと関わりを持たなければいい話。
私は高い塀を飛び越えて、急いで小屋へと戻った。散々な一日とボヤきながら、日も暮れたので五右衛門風呂に水を溜め、薪に火を起こし、沸く間に洗濯でもと、上半身裸でせっせとシャツを洗う。
そこへカサカサっと足音が聞こえた。この辺りでは毎日のように、猪や熊、鹿などが出没する。
なのでいつもの事と、棒切れを片手に仁王立ちで構えていると、現れたのは……なんと団長だ!
「ぎゃああああー!! な、なななんでー!」
慌てふためきながら、タオルをわし摑み体を隠すも、既に時遅しで、団長は顔を真っ赤にして背を向ける。なんとも、一番関わりたくない男に女である事がバレてしまった。失態!
あ、そう言えば、団長は女性に興味がなかったような……。
「す、すまん! み、見てないぞ!」
ふむ。見てなかったらそこまで狼狽えたりしないよね。まあ、全裸でなかったので良しとしよう。
ちょっとポロリ的なあれですよ。あれ。
「ハァ。どうされたんですか、こんな所まで」
「い、いや、あの、ちょっと話しをと……」
まあ、私を男だと思っていたのだから、突然訪問も有りっちゃあ有りか。
だが、絶対的証拠を見られてしまったのだ、もう誤魔化しは効かない。必ず交換条件を出してくるだろう。さて、どうしたものか……。
しかしも、私のほうが冷静ってなんか変な感じだけど、せっかく訪ねて来てくれたのだから、あまり邪険にするのも可哀想か。ここは少し様子見だ。
「今お茶でもいれますから中へどうぞ。あ、薪の火を消して下さると助かりまーす」
「えっ、あ、ああ、分かった……薪ね、薪……」
私はすぐ着替えてお茶の支度をしていると、申し訳なさそうに団長が入って来た。おもろい。
「狭い所ですがどうぞお座り下さい。珈琲しか無くて、飲めますか?」
「あ、ああ、ありがとう。そ、そのう……」
なぜそこまで狼狽えるのか。ギャップによる拒否反応なのか。逆にこっちが戸惑うわ。
「ハァ。何か? 女性の裸くらい見たことありますよねー。まあ、ちょっとゴツいですが!」
「いや、そうではなくて、顔が、あの眼鏡を……」
「眼鏡? ああ、忘れてました。掛けたほうが落ち着くなら掛けますが……?」
「そ、そうしてくれると助かる……うん」
意外とシャイなんだ。私のイケメン顔も捨てたもんではないらしい。愉快愉快。
そんなことより、団長は何しに来たのだろう。それに、なぜ私の家を知っているのか。
「あの、よく私の家が分かりましたね?」
「ああ、バーグに聞いて来たんだ。彼はこの街のことなら大体のことは把握しているからね」
バーグか。ギルドマスターなら有りえる話だ。私のことは街の人達も知っているし、情報網を辿れば容易いことだろう。
「そうでしたか。それで、私に何か?」
「先に、牢屋の件を詫びたいと思う。大変申し訳ない。ドイルとリークに任せてしまったのがそもそもの間違いだった。素直に直接話せば良かったんだ」
「ドイル? ああ、あの馬鹿息子ですか」
「彼は団員の中でも真面目だけが取り柄みたいな男なんだよ。ああ見えて自分逃避が趣味らしくて、役を演じるというか、嫌な自分から逃れられるからと言ってね。気の弱い優しい奴なんだよ」
芝居にしてはやけにリアルに感じたけど、それだけ没頭してたってことか。相当現実逃避しないとあそこまで入れ込むのは逆に難しいと思う。
私はその名演技にまんまと騙された訳だ。ちょっと悪いことしちゃたかな。
「彼が騎士団に入ったのは、やはり家柄的な事情なんですかね? 親に言われて仕方なくとか?」
「そうなんだ。彼らを許してやってはくれないだろうか。私に出来る事があればなんでも言ってくれ」
私にとっては好都合。これで条件は五分五分になった訳だ。痛み分けって処か。
「なら、交換条件と言うことで宜しいですか?」
「交換条件とは?」
「あの、彼らを許す代わりに、私が女であることを秘密にしてい頂くことが交換条件です」
「ああ、そのことか。そんな交換条件などしなくとも口外などしないよ。君が男装するのには、それなりの訳があるのだろう? それを口外する権利も資格も私にはないよ。秘密は守る。安心してくれ」
「えっ、いいんですか? 本当に?」
「ああ、もちろんだ。それとこれとは別だ。他に何か出来ることはあるかい?」
こうも人の良さを全面に出されると、私もそうそう強気には出れない。アルやリークが慕うのも解る気はする。この上司的な包容力に魅了されたに違いない。ただ、まだ信用した訳じゃない。
私を貶めた理由を聞いてからでも遅くはないだろう。
団長に出来ることか……あ、ならパンツ下さい。
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