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3話 規格外

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 あれから最悪なイベントを乗り越え、私はカイルと共にギルドへやって来た。
 かなり立派は建物である。私はマンモを背負い、カイルの後に続いてカウンターの前に立った。
 ここでも好奇の視線は多少痛い。見下みさげることのなかった私が、今は男性陣さえも見下みおろしている。

 優越感に浸っていると、カウンターの奥からギルドの職員が姿を現した。
 先ずカイルが話をする――

「やあ、ケファリー。今日は珍しいもん持ってきたぜ。しかも大物だ。すぐ換金できるかな?」

「いらっしゃいませ。カイルさん直々とは珍しい。何を持って来られたんですか?」

「おい紅、ここに置けるか?」

 私は荷物の重さと大きさを考えて答えた。

「多分、無理だと思いますので、こちらで見てもらったほうがいいと思いますよ。よっと!」

「ドサッ!」

 奥から男性職員が顔を出した。不思議そうにカウンター越しから眺めると、その大きさに戸惑い、仕方なくと言った感じで裏からいそいそと出て来た。

「カイルさん、これは?」

「聞いて驚け。モンスターマンモの親子だ。この紅が退治してくれてな。いいから査定してくれよ」

「えっ! あのモンスターマンモですか? しかも親子だって? にわかには信じ難いが、とにかく拝見しましょうか」

 ギルドにいた冒険者達が話を聴いて集まって来る。私は隠れるようにフードを被った。
 今更だけど……。

 カイルが縄を解きながら話す――

「いや、実は俺もよくは見てないんだよ。モンスターマンモに間違いないんだが……」

 カイルがシーツをめくると、マンモの親子があらわになった。すると、男性職員は驚愕きょうがくの表情を見せ、慌てて奥へと駆け出した。一体なにがどうしたのか。

「あのう、彼はどうしたんでしょうねえ」

 カイルに話し掛けても返答がないので振り向くと、横でカイルが目を見開いて直立不動でたたずむ。
 だから何がとうしたのか教えて欲しい。

「ちょ、ちょっと、一体どうしたんですか?」

「こ、この色は異種系の非常に珍しい《ゴールドデビルマンモ》だ。ダンジョンで絶滅しはずだが……」

 えっ? 何その大層なネーミングは。私、もしかして大変な物を倒しちゃったの?

 そこへドタドタと、男性職員がお偉方らしき人を連れて戻って来た。ちょっと怖いんですけど……。

「これは正しく、異種系の《ゴールドデビルマンモ》だ。この金色の長い毛、未だ蒼く輝く額の角、凶暴且つ残忍な殺し屋と呼ばれた魔獣。まさか未だ存在していたとは、しかも子連れ……」


冒険者達からも響めきが起こった。そして口々に怪訝けげんな様子で密談する。

「あいつが仕留めたってよ。大して強そうには見えないがなあ。強力な魔法でも使ったんじゃないか」

「しかしデカい奴だなあ。新入りか?」

「でもちょっと良い男じゃない。一緒にパーティー組んでくれないかしら。色々サービスしちゃう!」
 

 色々聞こえてますよ。ちょっとそこのお嬢さん。
 見た目で判断は命取り。私のような変質者も居りますゆえ、どうぞご注意なされませ。気色悪っ!
 
 やはり余所者よそものは敵対視される。だからといってひるむ私ではない。目立ちたくはないけど、せっかく女神が与えてくれた力なんだ、無駄にはしたくない。やってやろうじゃん。
 見た目は男、中身な乙女、冒険者紅! テヘっ。

 注目を浴びてしまった私の前に、お偉方さんが話し掛けてきた。一体なにを言われるのだろう。


「あなたが紅さんですね。カイルさんから経緯は伺いました。私はここのギルドマスターでバーグと言います。さっそくマンモを見させて頂きました。キズも殆ど無く、魔法を使った形跡も確認出来ませんでした。これは大変な優良物件ですよ」

「はあ、どうも。あの、それで換金はしていただけるんでしょうか?」

「もちろんです。異種系マンモ3体で総額1億2000万パロンで引き取らせて頂きます」

 側で聞いていた冒険者達がまた響めく――

「おい、1億2000万パロンだってよ。凄えなぁ」

「でも魔法を使わないでどうやって倒したんだ? まさか聖騎士なのかあいつ?」

「いや、キズが無いって事は武器を使ってないんだろう。なら一体どうやって……あいつ何者だ?」

 またまた聞こえてますよ。何者ってただの男装女子ですが、何か?

「あの、カイルさん。それって凄いの?」

「贅沢さえしなきゃ一生安泰だ。紅は一気に大金持ちになっちまったなあ。アハハ!」

 カイルの話だと、最低の硬貨1枚が1パロンだと言う。日本円に換算すると1パロン1円ということか。だとすると……。

「おおっ! マジですか!? いや、ちょっと引いちゃうんですけど……え、それを現金でですか?」

「ギルドに預けて置くことも可能です。冒険者カードを提示して頂ければ、所持金の残高が確認できます。冒険者の方々は皆さんそうしてますよ。もちろ現金の出し入れも可能です。大金を持ち歩くのは荷物にもなりますし、大変危険だと思います。どうされますか?」

 バーグが詳しく説明してくれた。なるほど、ギルドは銀行の役割りも果たすのか。
 しかしその前に、冒険者登録をしなければならない。簡単に出来るのだろうか。

「あのバーグさん。私はまだ冒険者登録してないんですが、どうしたらいいですか?」

「登録は簡単です。登録書に必要事項を書いて頂くだけで完了です。今担当を呼びますね」

「ああ、大丈夫。ケファリーとは顔見知りだ。紅、儂が手伝ってやるから安心しろ。ほれ、行くぞ」

 カイルには何から何までお世話されっぱなしだ。
 私はケファリーと言う、超絶グラマーな美人お姉さんの受付職員に、登録用紙を手渡されてカウンターで内容を読む。
 どれどれ――氏名、年齢、身長と体重、特徴と。ふむふむ。氏名と年齢は正直に書いたが、身長と体重は適当に書いた。だって分かりませんもの。
 特徴は……?

「カイルさん、この特徴って顔とか躰のこと?」

「ああ、髪の色とか目の色、いつも着けている装具や装飾品ってとこかな。トレードマークだ」

 はいはい。えっと、蒼白い髪色、瞳は藍色、革の手袋に黒眼鏡がトレードマークと。以上です。
 本当に簡単だ。

 私は登録用紙を手に、カウンター越しに受付のお姉さんに渡した。

「はい、確かに。ではさっそく職種とランク決めを行います。この石盤に手を置いて下さい」

 差し出されのは、手の形が彫られている大学ノートほどの石盤だ。私は言われたとおり石盤に手を置いた。すると受付のお姉さんが固まった。ん?

「おいケファリー、どうした? 結果は?」

 カイルが受付のお姉さんに尋ねると、喫驚きっきょうと戸惑いの入り混じった表情で立ち尽くす。
 そして辿々たどたどしくも話し始めた。

「あの、知ってはいるのですが、その、目にするのは初めてで、ええと、どう説明すればいいのか……」

「おい、勿体ぶった言い方してないで、分かってる事だけでも言ってくれよ」

 とカイル。そして受付のお姉さんは深呼吸をしてゆっくりと興奮気味に説明を始める。――何事?

「先ず始めに、経験はゼロなのでFランク。しかしですね、ステータスは魔力を除いて全てAランク級で、スキルが伝説の『ハーキュリーズ』なんですよ!
しかもステータスは既にSランク級を示してます!」

 隣りでカイルも呆然としている。ご存知で?

「おいおい、『ハーキュリーズ』と言えば、神話の怪力勇者ベルクレスの異名だろ!」

 ベルクレスって、確か十二の功業を行う勇士の話だったと思うけど、ここで神話?
 確かに、神話の存在である女神に出会でくわしましたよ。だからってまた神話の登場人物ですか。
 やれやれ、もうお好きにどうぞ。

「と、とにかくですね、初のスキル、怪力無双の『ハーキュリーズ』を持つ冒険者の誕生です!」

 ああ、前途多難……。

「紅……お前、規格外だな……」


 だから色んな意味でそうなんだってば……。

 ああ、お風呂入りたい……あ、パンツ洗わなきゃ。
 

 
 
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