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退魔の輝き
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兄の泣き顔など、見たのは幾年ぶりだろうか。
つられてオリヴィエも、目尻が熱くなる。
「お兄様、ありがとう……。私も嬉しい」
色々なアクシデントの連続で、急に”再度、生を授かった”などと言われても、実感が湧かなかった。
しかし、クリストファーの喜びようと感動に触れ、感情が後から追いついてきた。
(ああ、私……諦めなくてもいいのね……。ルーカスを、待っていられるんだわ……!)
オリヴィエは、ルーカスの顔を思い浮かべる。
図らずも、先ほどの馬上でルーカスの心を知った。
欲望に負けて自分本位に気持ちを伝えたが、内心では心苦しかった。
待てるだけの時間がないと、事実を隠匿したからだ。
だが、もう偽らなくていい。
聖女以外の女性との結婚。
許されるかどうか、どのような課程を経れば叶うのか、実際のところはわからない。
けれど、ルーカスが望んでくれるなら、オリヴィエはいつまでだって待つ。
「オルガノ様も、ありがとうございます。……立て続けに良い報せばかりが舞い込んで……夢のようです」
「夢ではありませんので、ご安心なさい。貴女はご自身の未来に昏い暗示があっても腐らず、いつも正しい道を進んでこられた。魂の昇華が、新たな生を導いたのです。正しき魂は、正しき道を歩むようにできているのです」
オルガノはそう結ぶと、オリヴィエの手を優しく撫でた。
「さあ、今日は疲れたでしょう。もうお休みなさい」
「あの、オルガノ様……。あと一つ、分からないことがあります。私は一体、これから何をすればよいのでしょうか? 使命とは、どんなものなのですか」
オリヴィエは、率直に尋ねた。
再び生を受けたとなるなら、それ相応の大きな使命があるのではと感じた。
それを果たし遂せるか。せめて、どんなものなのかを知りたい。
「使命に関しては、私にはわかりかねます。ですが……貴女には魔物との因縁が少なからずあるようだ。アイリス様の足元に跪き、天啓を乞うとよいでしょう」
「アイリス様ですか、聖殿の……?」
「なるほど、それが良いですね。オリヴィエ、一日も早く王都へ戻って、聖殿へ礼拝に行くといい。団長には私からお願いしよう」
「でも、またいつ、どんな事態が起きるかわからないし……」
オリヴィエは反駁しながら、聖女アイリス像を思い浮かべた。
「お兄様、ちょっと……込み入った相談があるのですが」
リリアが聖女を偽っていると、立ち聞きした情報を思い出したからだ。
もっと自分で確信を得てからのほうが良い気もするが、あまり先延ばしにもしていられない。
「何だい? オリヴィエの未来より重要な話なんてないと思うが」
「だったら良かったんですけど、もっと重要な話があるんです。リリアと、イレーネは戻っていますよね」
2人の名を聞くと、クリストファーはやや真剣な表情に戻った。
「聖女様はコルクスが連れ帰った。だが、イレーネは見ていない。彼女はここに残ったのではないのか?」
「私は森の中で相談し合う2人を見たの。じゃあまさか、戻っていないの……?」
「聖女様と一緒に出たのに、途中ではぐれたのか? こんな非常時に」
「それが……信じてもらえるかわからないけど、私、大変な話を聞いてしまったの」
「お話し中失礼します。込み入った話なら、私は遠慮しましょうか」
オリヴィエが言い淀むと、オルガノはそっと話を遮った。
「いえ、オルガノ様なら……むしろ、ご意見を頂戴したいくらいです。お時間を頂いても、よろしいでしょうか?」
「私でお役に立てることでしたら」
穏やかに快諾してくれたオルガノとクリストファーを前に、オリヴィエは自分の見聞きした一部始終を語り始めた。
つられてオリヴィエも、目尻が熱くなる。
「お兄様、ありがとう……。私も嬉しい」
色々なアクシデントの連続で、急に”再度、生を授かった”などと言われても、実感が湧かなかった。
しかし、クリストファーの喜びようと感動に触れ、感情が後から追いついてきた。
(ああ、私……諦めなくてもいいのね……。ルーカスを、待っていられるんだわ……!)
オリヴィエは、ルーカスの顔を思い浮かべる。
図らずも、先ほどの馬上でルーカスの心を知った。
欲望に負けて自分本位に気持ちを伝えたが、内心では心苦しかった。
待てるだけの時間がないと、事実を隠匿したからだ。
だが、もう偽らなくていい。
聖女以外の女性との結婚。
許されるかどうか、どのような課程を経れば叶うのか、実際のところはわからない。
けれど、ルーカスが望んでくれるなら、オリヴィエはいつまでだって待つ。
「オルガノ様も、ありがとうございます。……立て続けに良い報せばかりが舞い込んで……夢のようです」
「夢ではありませんので、ご安心なさい。貴女はご自身の未来に昏い暗示があっても腐らず、いつも正しい道を進んでこられた。魂の昇華が、新たな生を導いたのです。正しき魂は、正しき道を歩むようにできているのです」
オルガノはそう結ぶと、オリヴィエの手を優しく撫でた。
「さあ、今日は疲れたでしょう。もうお休みなさい」
「あの、オルガノ様……。あと一つ、分からないことがあります。私は一体、これから何をすればよいのでしょうか? 使命とは、どんなものなのですか」
オリヴィエは、率直に尋ねた。
再び生を受けたとなるなら、それ相応の大きな使命があるのではと感じた。
それを果たし遂せるか。せめて、どんなものなのかを知りたい。
「使命に関しては、私にはわかりかねます。ですが……貴女には魔物との因縁が少なからずあるようだ。アイリス様の足元に跪き、天啓を乞うとよいでしょう」
「アイリス様ですか、聖殿の……?」
「なるほど、それが良いですね。オリヴィエ、一日も早く王都へ戻って、聖殿へ礼拝に行くといい。団長には私からお願いしよう」
「でも、またいつ、どんな事態が起きるかわからないし……」
オリヴィエは反駁しながら、聖女アイリス像を思い浮かべた。
「お兄様、ちょっと……込み入った相談があるのですが」
リリアが聖女を偽っていると、立ち聞きした情報を思い出したからだ。
もっと自分で確信を得てからのほうが良い気もするが、あまり先延ばしにもしていられない。
「何だい? オリヴィエの未来より重要な話なんてないと思うが」
「だったら良かったんですけど、もっと重要な話があるんです。リリアと、イレーネは戻っていますよね」
2人の名を聞くと、クリストファーはやや真剣な表情に戻った。
「聖女様はコルクスが連れ帰った。だが、イレーネは見ていない。彼女はここに残ったのではないのか?」
「私は森の中で相談し合う2人を見たの。じゃあまさか、戻っていないの……?」
「聖女様と一緒に出たのに、途中ではぐれたのか? こんな非常時に」
「それが……信じてもらえるかわからないけど、私、大変な話を聞いてしまったの」
「お話し中失礼します。込み入った話なら、私は遠慮しましょうか」
オリヴィエが言い淀むと、オルガノはそっと話を遮った。
「いえ、オルガノ様なら……むしろ、ご意見を頂戴したいくらいです。お時間を頂いても、よろしいでしょうか?」
「私でお役に立てることでしたら」
穏やかに快諾してくれたオルガノとクリストファーを前に、オリヴィエは自分の見聞きした一部始終を語り始めた。
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