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魔物

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「オリヴィエが入団してからずっと、手紙を送り続けているのに、返事を一度くれたきりだから、心配していたんだ。でも、こうして会えてよかった」

「心配しないでって、書いたつもりだったけど? 見ての通り、とっても元気よ。私もお兄様の元気な姿を見られて嬉しいわ。本当なら私はお留守番の予定だったから、きっかけをくれた聖女様に感謝しなくちゃね」

 ルーカスの承諾を得られたので、少しくらいの会話は許されるだろう。

 駐屯地へ案内される一行の後へ続くようクリストファーを促しながら、オリヴィエは応えた。

「聖女様、ね。こう言っちゃなんだが、あまり聖女っぽくないな。本当に聖女なのかい? 替え玉とかではなくて」

 クリストファーが声を潜めて問いかけた。

「滅多なことを言わないで。選定式で選ばれたの。紛れもないご本人よ」

 オリヴィエは即座に否定する。

 クリストファーは納得がいかなそうに首を傾げた。

「何かの手違いじゃないのか? オリヴィエを見るあの目つきが気に入らない」

「好き嫌いで判断なさるなんて、お兄様らしくないわよ」

 オリヴィエは語気を強めて窘めた。

 クリストファーはオリヴィエにとても甘い。

 リリアの敵意を敏感に察知したに違いないが、一介の騎士団員が声を大にして良い内容ではない。

「ああ、その顔、久し振りだ。やっぱりオリヴィエは、怒った顔も可愛いな」

 クリストファーが愛おしそうにオリヴィエの頭を撫でた。

「子供扱いしないでってば。こうしてお仕事もしているし、もう16歳なのよ」

 そうは言うものの、オリヴィエもされるがままだ。

 気恥ずかしさはあっても、こうして撫でられるのは昔から好きだ。

「ご兄妹とはいえ、男女がこんな風に振舞っていいのかなぁ……?」

 リリアが独り言のように、しかし、きっちりオリヴィエに聞こえるように呟いた。

 イレーネがちらりとこちらを振り返る。

「いいんですよ。私はオリヴィエの兄だから」

 クリストファーは前を向いているリリアに向けてきっぱりと言い切る。

 爽やかな笑顔には有無を言わせない強さがあった。

 その根拠のない自信は何処から来るのか?

(お兄様ったら、もう……)

 オリヴィエだけは居心地が悪く、首をすくめて黙った。

 宿舎で荷ほどきをすると、一同で昼食を摂る。
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