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聖女

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 イレーネは困ったように眉根を寄せた後、声を潜めた。

「リリアったら、酷いわ。オリヴィエさん、こんな性悪女のことなんて放っといて、楽しくおしゃべりしましょ」

(性悪女って……確かにリリアの態度はいただけないけど、団長を好きなだけなのよね)

 リリアはオリヴィエがルーカスに寄せる想いに気付いている。

 だからこそオリヴィエを気に入らなくなったのだろう。

「2人は、近頃聖殿でどう過ごしているの? しばらく会っていなかったから、教えてくれないかしら」

 リリアを放って、と前置きを受けたが、オリヴィエは敢えて2人に投げかける。

「私は最初と変わらず、シスターたちのお手伝いをしたり、聖殿内の清掃や炊き出しをしたり……。あと、リリアのお世話かしら。そのお陰で、私もお勉強に参加させてもらってるんです。聖女の侍女になるつもりなら、受けさせてくださると仰ったので」

 リリアが答えないのを見て取って、イレーネが話し始める。

「リリアはお妃教育も始まって、大変みたい。ずっと聖殿に籠りきりだから、鬱憤が溜まってたのかしら」

「私、お勉強は好きよ。ただ、早くルーカス殿下にお会いしたかっただけ」

 リリアはツンと顔を逸らし、窓の外を眺めながら言った。

(なによ、もう)

 オリヴィエとイレーネは互いに顔を見合わせる。

「リリアったら、二言目にはルーカス様って。それだけ好きなら何よりだわ。ね、オリヴィエさん」

「そうね。聖女様と殿下の気持ちがより強く結びつくのは良いことだわ」

 今度は、上手に淀みなく言えて、オリヴィエはほっとした。

 今は言葉にするだけで精一杯だが、早く心の底から祝福できますように。

 オリヴィエはイレーネの話に相槌を打ちながら、一人そう願った。

 その後の工程は順調で、2拠点を経てとうとう国境と接する街デュランドに到着した。

 王太子一行の到着を誰よりも喜んだのは、言わずもがな、兄のクリストファーだ。

「ああ、オリヴィエ! 会いたかったよ!! 元気だったかい?」

 団長・ルーカスと一言二言、視察団一行に挨拶を交わすやいなや、オリヴィエに向かい突撃してくる。

 人目も憚らず、熱い抱擁を受けた。

「お兄様!? ちょ、ちょっと……。皆様の……団長の目の前ですよ?」

「いいんだよ。私はオリヴィエの兄なんだから。ねえ、団長」

 クリストファーは悪びれもせず、ルーカスにも同意を求める。

 クリストファーをの妹好きを知る者は複雑な表情で、知らぬ者は面食らっていた。

「久しぶりの再会なら、やむを得ん」

 ルーカスは、クリストファーの性格とオリヴィエの間柄は理解しつつも、不真面目な態度が不満なのか、渋面を浮かべる。
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