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陰謀

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 だって、それらは全部、過去の自分が掛けられた言葉そのものだからだ。



 いやよ。だって、私が好きなのは、ルーカスなんだから。

 彼以外の妻になるなんて、考えたくない。



 そう、周囲を説得し続けて来たオリヴィエ自身の言葉が、自らに戻って突き刺さる。

 咽喉が震えそうになって、オリヴィエは口をつぐんだ。

 ”愛人”になら、なれるかもしれない。

 ルーカスが受け入れさえすればいいのだから。

 さっきまでは、あんなに可愛かったリリアが、今は、怖い。

(でも、まだルーカスはリリアの前で、レヴァンシェルを演じてる。一線を引いている。だから、まだ、大丈夫……)

 オリヴィエは、自分自身に言い聞かせた。

 自分がルーカスを一方的に想っているのと同じように、ルーカスがリリアを恋愛対象に見るわけがない。

「そうかしら? あんなに格好良い、王子様みたいな人初めて見たのよ。それに、口では冷たいけど、こうやって目をかけてくれるのも、きゅんとしちゃう。私やっぱり、レヴァンシェル様がいい」

「そんなに簡単な話じゃないでしょう」

 言い切ってから、オリヴィエは自分の声の冷たさにはっとした。

 私は、諦められないからここにいる。

 私の気持ちは、もっと高潔で道徳的なの。ルーカスには正妃様、聖女だけを愛して欲しいから。

 私は、私だ。

 リリアではない。

 思わず公私混同をしてしまって、唇を噛んだ。

 オリヴィエは自分が聖女だったなら、自分だけを愛して欲しいから、身を引くと決めた。

 しかし、王太子が妾妃を置く制度はある。一般の貴族が愛人を持つのも珍しくない。

 ルーカスとリリアが良ければ成立する。

 だが、そんなの許せない。

 自分では、恥や外聞やプライドを捨てて、2番目になる覚悟もない。

 なのに、オリヴィエはリリアの考えを認めたくない気持ちでいっぱいになった。

 身勝手で、分別がない。

 自分の中の醜い感情に、がっかりする。

(私はこんなに醜い心を持っていたのね。これじゃあ聖女に選ばれないわけだわ……)

「オリヴィエさん? ……もしかして」

 リリアは、様子のおかしいオリヴィエにそっと手を伸ばして来た。が、反射的に手を退けた。

 行き場を失ったリリアの手が宙に浮く。

「ごめんなさい。ちょっと気分が良くないみたい。酔ったのかも……」

「そうなの。なら、私、大人しくしているわ。オリヴィエさんは少し眠ったら」

 2人はその後、馬車を降りるまで無言で過ごした。

 聖殿に戻った時には、既に時計は17時に迫っていた。

 イレーネを見舞いたい、と告げると、リリアはぎこちなく微笑んだ。

 きっとオリヴィエ自身もそんな顔をしているのだろう。
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