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娼館の制圧

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 ほどなくして、馬車が停車する。

「……レヴァンシエル様、到着しました」

 娼館”ギャレット”は、商売柄に似合わず、外見は立派な屋敷だった。

 そういった商売のなかでも、高級な部類に入るのだろう。

 窓の配置から間取りを確認する限り、一部屋ずつが大きな造りになっている。

「俺も、まずは客として中を確認する。様子を見て、新米を呼び出せるよう交渉する予定だ。娘から証言が取れれば、その場で娘たちを保護し、即刻、屋敷内の捜索に切り替える。セルゲイとお前は馬車で待機だ。俺が出たら、お前はいつでも動けるように、動きやすい服装に着替えろ」

(団長も、客として入店するの?)

 任務だとわかっているのに、またしても、胸がざわついた。

 しかし、当然ながらルーカスの表情は至極冷静だ。

 下心なんて、あるはずがないと思い直す。

「わかりました。副隊長の指示に従います」

 オリヴィエも同行したいが、自分は女なので、どうしても潜入には不向きだ。

「セルゲイの指示によっては、お前が一人で待機に回る可能性もある。ほぼ、と言ったが、俺の中でギャレットとグレアは間違いなくクロだ。中で騒ぎが起きて、万一逃げ出す輩が現れたら、有無を言わせずお前が捕らえるんだ」

 不要な人材として残されるのではない。待機する側の役割も重大だ。

「誤認だの責任だのを気にする必要はない。尻拭いは後で俺がやる。誰一人として、この場から逃がすな。――わかったな」

 オリヴィエは気が引き締まる思いで頷いた。

 ルーカスはオリヴィエに言い聞かせると、一人で颯爽と敷地内へと入って行った。

 ルーカスの指示通り、馬車の中で着替えをする。

 騎士服に、靴もしっかりしたものに履き替えた。

(バイバイ、レティー……)

 胸に手を当てると、深呼吸をする。

 それから、そっと、セルゲイが待つ御者台へ歩み寄る。

「副隊長、着替え終わりました……」

 囁くように声をかけると、セルゲイは振り向いた。

 馬車は、オリヴィエが着替えている間に、森の中へと移動していた。

 セルゲイは立てた人差し指を唇に当てる。

「セルゲイと呼ぶんだ」

 セルゲイの仕草で、既に彼が臨戦態勢なのだと知る。

 頷くと、セルゲイは黙したまま馬車の客車へ案内した。

 オリヴィエの知らない荷の箱には、武器の類や拘束のための紐などが詰まっている。

 ”誰一人、この場から逃がすな”

 ルーカスは本気だ。

 この命令には、多少の無茶をしても、と暗黙の了解が込められている。

 つまり、必要があればオリヴィエも誰かを傷付けなければならない。

 団長の命令は絶対だ。

 オリヴィエはごくりと、唾を飲んだ。
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