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娼館の制圧

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 事態は、オリヴィエの認識よりもずっと、早いスピードで動いていた。

 馬車に乗り込むと、セルゲイとは特に打ち合わせもなく、走り出した。

「どこへ、向かっているんですか?」

 行に出立した、リュートとは別の方角へ向かっている。

「先にセルゲイに言付けて、例の娼館――”ギャレット”に皆向かわせた。一先ずはそこで合流の予定だ」

「もう、場所までわかっているんですか」

「俺たちより先に、セルゲイたちのほうでも既に目星をつけていた。この一年の間に行儀見習いの名目で、年端も行かない娘を大勢雇い入れたらしい。目撃者も複数いる」

 オリヴィエは、行動の早さ・正確さに舌を巻いた。

 流石はアリシア国の守護を担う聖騎士団の精鋭だ。

「ここまで状況が揃ったんだ。ほぼ、黒だ。そこで……」

 ルーカスはそこまで口にして、急にくっと噴き出した。

「急に、何です。そこでどうしたんですか?」

「客の振りして潜入してろと指示したら、我先にと、全員喜び勇んで飛んで行ったそうだ」

 はっ? と、今度は目が点になる。

「今日の客入り次第では8人では不足かもしれない。だが、上手く行けばその新米たちを引っ張り出せる」

「攫われた娘たちに、相手をさせるおつもりなんですか……!?」

 オリヴィエは理解して、憤慨した。

 騎士団の先輩一同を見直したが、前言撤回だ。

 最近雇われた年端も行かない娘は、連れて来られた聖女候補だ。

 今年はまた、聖女選定が行われる。

 だから、その娘たちは13歳から15歳になる女児たちのはずだ。

 年長の15歳などは、オリヴィエとほとんど変わらないけれど……。

「接客の場に引き出せれば儲けものだ。そんなに目くじらを立てなくても、娼館に入ったからと言ってすぐにことに
及ぶわけじゃない。会話を楽しんだり、飲食の接待を受けたりするんだ」

 ハワードの情報を鵜呑みにしていたオリヴィエに、ルーカスは丁寧に訂正した。

 オリヴィエは自分の無知にまた、恥じ入る。

「そう、なんですか」

「それでも最後に待ってるサービスを思い描いて、男たちは楽しむわけだ。だから、とっとと乗り込んで、奴らをがっかりさせないとな」

 二転、三転。オリヴィエの知らない夜の世界と男の性は奥が深い。

 褒めたらいいのか、見下したらいいのか、自分の立ち位置が定まらない。

 普段は冷静で屈強な騎士たち、いずれもオリヴィエの上官に当たる8人が、鼻の下を伸ばして女性と会話する姿はあまり想像したくない。

 それに、ルーカスに夜の世界について説明を受けるのも、複雑な気分だ。

 常識なのかもしれないが、ルーカスも利用した経験があるのだろうか……。

 などと、疑いが頭をもたげてしまう。

 ルーカスや先輩方がそうなら、ひょっとしてクリストファーも……?

 などと、余計な部分にも考えが及ぶ。

 オリヴィエが閉口すると、ルーカスもオリヴィエの疑惑に辿り着いたらしい。

「んっ」とわざとらしく咳払いをして、話題を打ち切った。
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