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舞踏会の裏側

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 オリヴィエが止める間もない。

 鋭く降ろした蹴りは、今度はハワードの頬を掠めた。

「ひっ」と、ハワードが短く叫ぶと、踵が、背後の幹にめり込む。

「ハワード・ベルモール公爵。俺の名前が、それほど重要か?」

 縮こまり、顔を背けるハワードの胸ぐらを、ルーカスは掴み上げた。

「貴様、社交界に詳しいんだろ? この邸で怪しい動きをする奴らを、どのくらい知っている?」

 オリヴィエは、はっ、と口元を押さえた。

 必要以上に痛めつけたと思ったら、こんなところへ着地するとは。

「ひぃ、……えっ?」

「レティーの好奇を満足させる約束だったんだろう? できるなら、今回の件は見逃してやる」

「できなかったら……?」

 ハワードは恐る恐る尋ねた。

「できなきゃ、貴様はただの強姦魔だ。強姦は極刑と決まってる――」

 ルーカスに引き付けられて、ハワードはぶるぶると震え出す。

 縋るような目を向けられても、同情する気は起きない。

 ただただ、ルーカスの機転に感心するばかりだった。







 ***







 オリヴィエが身なりを直して広間に戻ると、そこにベルモール公爵の姿はもうなかった。

 あの後、ルーカスの尋問は小一時間に渡って行われた。

 公爵は以前から、オリヴィエのように単独で行動をする婦人を狙って近づいては口説き、秘め事に及んでいた。

 事実を知るごとに驚かされた。

 しかし、もっとも驚いたのは、そう言った「情事」がごく公然と行われていた点だ。

 情事だけに限った話ではなく、疑似恋愛を楽しむのが、上流階級の嗜みだそうだ。

 政略結婚が常の世界では、珍しくもないらしい。

 もちろん表立っては誰も話さない。

(私って、本当に世間知らずなのね……)

 ルーカスはしっかりと把握し、前提のように話していたのに、オリヴィエは気づかず、まんまと罠に掛かった。

 いや、そもそもは、気付かない娘をどうこうしようとした、ハワードが一番悪い。

 それにしても、ハワードをボコボコにした上、目的の情報を引き出したルーカスの手腕には舌を巻いた。

 それで丸く収めてしまうのだから、まさに「聖騎士団団長恐るべし」だ。

 ハワードは有用なものから、そうでないものまでいろいろと吐いてくれた。

 公にしない旨も、脅したりすかしたりして、宣誓させた。

 最後はセルゲイに命じて、医者の元に送らせた。

 ハワードの供述では、不倫の暴露がほとんどだったが、目的の知れない密会の目撃もあった。

 今度はその人物へと接近する。

 フェルナンド子爵と、子爵が良く出入りしている娼館の女主人だ。

 女主人のほうは正体を明かさず、グレアと名乗っている。

 表向きは子爵の側室で通っていた。
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