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舞踏会
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「実は……父が、母方の伯父の友人が興した事業に出資している関係で、幼い頃から海外にいる期間が長くて。私もそちらに友人が多いものですから、アリシアには滅多に帰る機会がなくて。お爺様には申し訳ないと、常々反省しておりましたのよ」
オリヴィエは頬に手を当てて、さぞ痛ましそうに眉を寄せた。
「……それが事情なの? 全然、込み入ってないけど。つまり、お義父様の仕事の関係、ってことだよね?」
ルーカスは唇の動きが目立たぬように、ボソッと声を出す。
するとオリヴィエは、花が綻ぶように優雅な微笑みを浮かべた後、ゆーっくりと目を細めた。
「ええ、でも回りくどく申し上げたほうが、興味をそそると思いません?」
オリヴィエは、にっこりと笑いながら、内緒話をするように口を動かした。
その仕草が可愛くて、ルーカスは思わず見惚れる。
(可愛い。そうだ、オリヴィエは、本当はこんな風に愛らしい子だった)
こんなに可愛いのに、普段は虚勢を張って男前の振りをしている。
ギャップを知っているルーカスだからこそ、ますます堪らない。
普段ならぐっと、歯を食いしばって平静を装うところだ。
だが、今日、ルーカスはレヴァンシエルなのだから、心のまま相好を崩しても構わない。
「相変わらず悪戯っ子だな。だが、お前のそういうところ、とても可愛いと思うよ」
オリヴィエは、ルーカスの口から出た褒め言葉に、顔を真っ赤に染めた。
(……おや?)
レヴァンシエルとして、素直に褒め言葉を述べただけだ。
けれど、この愛らしい反応は、昨晩と同様、ルーカスの賛辞が引き出した。
そう実感するだけで、喜びと同時に自信のようなものが湧いてくる。
オリヴィエが、ルーカスに好意を抱く。
今日の守備次第ではその可能性も、大いにありそうだ。
「もう、レヴァン、揶揄わないで。早く、会場へ参りましょう。エスコート、してくださる?」
オリヴィエは薔薇色の頬を少し膨らませながら、上目遣いでこちらを見上げた。
ルーカスの腕に手を絡ませる。
「勿論だ。人目の少ないうちに、隅々まで見て回ろう」
ルーカスは、オリヴィエの腰に手を回して、パーティ会場である大広間へ誘った。
大広間は、実に煌びやかな雰囲気に溢れていた。
内装も、贅を尽くした作りだが、華美になり過ぎない絶妙なデザインだ。
オズワルド夫妻のセンスが伺える。
中央には、色とりどりの花が咲き誇る生け垣が設置され、そのすぐ傍に並べられたテーブルには料理が美しく盛り付けられている。
招待客たちの表情は明るく、これから起こることに期待を寄せているのが伝わってきた。
オリヴィエは、ルーカスのエスコートで、広間の隅から隅を歩き回り、招待客たちと挨拶を交わす。
「レティーって、呼んでくださいね。私まだ、お友達が少なくて皆様のお顔を存じ上げないの。教えてくださいませんか?」
「こちらの街は初めてですの。どんなところが有名ですか? 珍しいお店はありませんの?」
おしゃべりは女性の十八番だ。
オリヴィエは実に賢く、機転を利かせて、訪問客から情報を収集した。
オリヴィエは頬に手を当てて、さぞ痛ましそうに眉を寄せた。
「……それが事情なの? 全然、込み入ってないけど。つまり、お義父様の仕事の関係、ってことだよね?」
ルーカスは唇の動きが目立たぬように、ボソッと声を出す。
するとオリヴィエは、花が綻ぶように優雅な微笑みを浮かべた後、ゆーっくりと目を細めた。
「ええ、でも回りくどく申し上げたほうが、興味をそそると思いません?」
オリヴィエは、にっこりと笑いながら、内緒話をするように口を動かした。
その仕草が可愛くて、ルーカスは思わず見惚れる。
(可愛い。そうだ、オリヴィエは、本当はこんな風に愛らしい子だった)
こんなに可愛いのに、普段は虚勢を張って男前の振りをしている。
ギャップを知っているルーカスだからこそ、ますます堪らない。
普段ならぐっと、歯を食いしばって平静を装うところだ。
だが、今日、ルーカスはレヴァンシエルなのだから、心のまま相好を崩しても構わない。
「相変わらず悪戯っ子だな。だが、お前のそういうところ、とても可愛いと思うよ」
オリヴィエは、ルーカスの口から出た褒め言葉に、顔を真っ赤に染めた。
(……おや?)
レヴァンシエルとして、素直に褒め言葉を述べただけだ。
けれど、この愛らしい反応は、昨晩と同様、ルーカスの賛辞が引き出した。
そう実感するだけで、喜びと同時に自信のようなものが湧いてくる。
オリヴィエが、ルーカスに好意を抱く。
今日の守備次第ではその可能性も、大いにありそうだ。
「もう、レヴァン、揶揄わないで。早く、会場へ参りましょう。エスコート、してくださる?」
オリヴィエは薔薇色の頬を少し膨らませながら、上目遣いでこちらを見上げた。
ルーカスの腕に手を絡ませる。
「勿論だ。人目の少ないうちに、隅々まで見て回ろう」
ルーカスは、オリヴィエの腰に手を回して、パーティ会場である大広間へ誘った。
大広間は、実に煌びやかな雰囲気に溢れていた。
内装も、贅を尽くした作りだが、華美になり過ぎない絶妙なデザインだ。
オズワルド夫妻のセンスが伺える。
中央には、色とりどりの花が咲き誇る生け垣が設置され、そのすぐ傍に並べられたテーブルには料理が美しく盛り付けられている。
招待客たちの表情は明るく、これから起こることに期待を寄せているのが伝わってきた。
オリヴィエは、ルーカスのエスコートで、広間の隅から隅を歩き回り、招待客たちと挨拶を交わす。
「レティーって、呼んでくださいね。私まだ、お友達が少なくて皆様のお顔を存じ上げないの。教えてくださいませんか?」
「こちらの街は初めてですの。どんなところが有名ですか? 珍しいお店はありませんの?」
おしゃべりは女性の十八番だ。
オリヴィエは実に賢く、機転を利かせて、訪問客から情報を収集した。
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