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舞踏会

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『私は子供じゃないから、何かされても大丈夫ですよ』
 と、いう意味じゃありません。



 ……改めて、解説をするなんて、恥ずかしすぎる。

「いえ、忘れてください。何でもないんです。具合も悪くないし、団長に対して警戒しているとかでもないです」

「そうか?」

 ルーカスは、まだ納得がいかないような表情を浮かべている。

 オリヴィエは、話を逸らした。

「そういえば、今回の遠征では、水場を通るのですね」

 それは、今朝からの話題だった。

 リュートへ向かう街道から逸れて入った山道で、小さな湖を越える予定だ。

「山越えの途中に、湖があるのが不思議か。アルディアにはあまり山岳地帯がないからな」

 ルーカスは、オリヴィエの意図など分からないだろうに、話に乗ってくれた。

「コーリアン山脈の上部に、水源があるからですか?」

 オリヴィエは広げた地図の西側にある、山脈の頂上を指さした。

 ルーカスはゆっくり首を振った。

「水源はもちろん必要だが、それなら小川で済むことも多い。湖ができる理由は様々だが、このリアン湖は山脈の地下に眠る龍の涙だと言われている」

「龍ですか?」

 オリヴィエは、ルーカスの意外な話に興味を惹かれた。

「ああ、リュートに古くからある伝説だ。昔、リアン湖の底に眠る龍が大嵐や魔物を連れてリュートを襲ったという話が語り継がれている。実際、大雨で土砂崩れが起こり、リュートは大きな被害を受けている。リュートの民が龍に祈りを捧げて、災害から守られたという謂れもある。以来、リアン湖は浄化された魔力で潤い、リュートの町は豊かになったそうだ」

「そんな言い伝えがあるのですね」

 オリヴィエは感心したように相槌を打った。

「ああ、だからリュートの人間は、信心深い。リュートだけではない、伝承を持つ地域は積極的に聖騎士団と交流の機会を持とうとする。今回ボッカの誘拐について密告があったのも、その関係性ゆえだ。舞踏会への潜入手筈も、リュートの支援によるところが大きい」

「そうなんですね」

 オリヴィエは、ルーカスの説明に素直に感心していた。

 ルーカスは、オリヴィエの理解度を確かめながら言葉を選んでいるようだ。

 それはとても丁寧で、オリヴィエを大切に扱ってくれている気がして嬉しい。の、だが。

(何だか、調子が狂うわ)

 不思議さに、首をかしげたくなる。

 王都を出立してから、たった一日で、オリヴィエを見直したとでもいうのか。

 特段目立った働きはしていない。

 遠征の行程をきちんとこなし、初めての環境にも順応しようと努めた。
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