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舞踏会への招待状
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「ね」
鏡越しに目が合ったセルゲイは、オリヴィエを試すように口端で笑っていた。
オリヴィエはぎゅっと、掌で胸を押さえる。
「さ、ではアクセサリーを見繕いましょうね」
婦人が両手を打って、雰囲気を変えた。
部屋の隅からジュエリーボックスを持ってくる。
箱の中には、ネックレスやイヤリング、指輪、ブレスレットがずらりと並んでいた。その量に驚く。
「こちらはいかが?」
婦人が手に取ったのは、大きなエメラルドのついた髪留めだった。
「悪いけど、ジュエリーはイミテーションなんだ。何が起きるか、分からないから」
セルゲイがそう口添えする。
舞踏会や晩餐会など、遠方へ出向く際に、本物でなくイミテーションのジュエリーを身に着けるのは、良くある話だ。
だが、「何が起きるか分からない」状況を改めて想定して、身震いする。
そうだ、浮かれてばかりはいられない。これは誘拐犯の巣窟に潜入する、業務の一環だ。
婦人は、エメラルドを模した飾りをオリヴィエの髪に当ててみる。
「瞳の色と、合うと思ったのだけど」
婦人は髪留めを元の場所に戻した。
次にオリヴィエのドレスのグラデーションと同じ、薄い紫水晶が填められたイヤリングを手にした。
「それがいいんじゃない?」
セルゲイも頷いたので、それをつけてみることにする。
「まあ、素敵だわ!」
婦人は手放しで褒めてくれたので、アクセサリーも決定した。
髪にはドレスとオリヴィエの銀髪を引き立てるようにと、銀細工にダイヤを散りばめた――恐らく填め込まれているのはジルコンの――コームを挿した。
「完璧よ!」
婦人が手を叩く。
「わたくし、自分の才能が恐ろしいわ。ね、セルゲイ様?」
「ああ、そうだね。月の女神も嫉妬しそうなほどだ」
セルゲイは婦人の興奮ぶりに、くすくすと笑いを零しながら頷いた。
だが、オリヴィエにはよくわからない。
「靴だけは、おみ足に合うように、週末までに仕上げさせますわ。さ、一仕事したら喉が渇きましたわね。お茶にしましょう!」
メモの最後に二重のラインを引いて、ラシェルは顔を上げた。
「お二人とも、お付き合い下さってありがとう」
「とんでもないわ、ラシェルさん! ……」
オリヴィエがお礼を言い切る前に、ラシェルはさっさと隣室へ戻って行く。
「彼女、腕は確かなんだけど、ちょっと変わった人なんだ」
セルゲイはそう言って、肩をすくめた。
「確かに……」
オリヴィエは呟いたが、不思議と嫌な感じはしなかった。
むしろ好ましく感じるのは、ラシェルの陽気さにつられているせいだろうか。
婦人に続いて隣室へ移動すると、そこには既にお茶の準備がされていた。
「さ、どうぞ」
ラシェルは、カップにお茶を注ぐ。
オリヴィエは添えてあるミルクを足して、ミルクティーにした。
鏡越しに目が合ったセルゲイは、オリヴィエを試すように口端で笑っていた。
オリヴィエはぎゅっと、掌で胸を押さえる。
「さ、ではアクセサリーを見繕いましょうね」
婦人が両手を打って、雰囲気を変えた。
部屋の隅からジュエリーボックスを持ってくる。
箱の中には、ネックレスやイヤリング、指輪、ブレスレットがずらりと並んでいた。その量に驚く。
「こちらはいかが?」
婦人が手に取ったのは、大きなエメラルドのついた髪留めだった。
「悪いけど、ジュエリーはイミテーションなんだ。何が起きるか、分からないから」
セルゲイがそう口添えする。
舞踏会や晩餐会など、遠方へ出向く際に、本物でなくイミテーションのジュエリーを身に着けるのは、良くある話だ。
だが、「何が起きるか分からない」状況を改めて想定して、身震いする。
そうだ、浮かれてばかりはいられない。これは誘拐犯の巣窟に潜入する、業務の一環だ。
婦人は、エメラルドを模した飾りをオリヴィエの髪に当ててみる。
「瞳の色と、合うと思ったのだけど」
婦人は髪留めを元の場所に戻した。
次にオリヴィエのドレスのグラデーションと同じ、薄い紫水晶が填められたイヤリングを手にした。
「それがいいんじゃない?」
セルゲイも頷いたので、それをつけてみることにする。
「まあ、素敵だわ!」
婦人は手放しで褒めてくれたので、アクセサリーも決定した。
髪にはドレスとオリヴィエの銀髪を引き立てるようにと、銀細工にダイヤを散りばめた――恐らく填め込まれているのはジルコンの――コームを挿した。
「完璧よ!」
婦人が手を叩く。
「わたくし、自分の才能が恐ろしいわ。ね、セルゲイ様?」
「ああ、そうだね。月の女神も嫉妬しそうなほどだ」
セルゲイは婦人の興奮ぶりに、くすくすと笑いを零しながら頷いた。
だが、オリヴィエにはよくわからない。
「靴だけは、おみ足に合うように、週末までに仕上げさせますわ。さ、一仕事したら喉が渇きましたわね。お茶にしましょう!」
メモの最後に二重のラインを引いて、ラシェルは顔を上げた。
「お二人とも、お付き合い下さってありがとう」
「とんでもないわ、ラシェルさん! ……」
オリヴィエがお礼を言い切る前に、ラシェルはさっさと隣室へ戻って行く。
「彼女、腕は確かなんだけど、ちょっと変わった人なんだ」
セルゲイはそう言って、肩をすくめた。
「確かに……」
オリヴィエは呟いたが、不思議と嫌な感じはしなかった。
むしろ好ましく感じるのは、ラシェルの陽気さにつられているせいだろうか。
婦人に続いて隣室へ移動すると、そこには既にお茶の準備がされていた。
「さ、どうぞ」
ラシェルは、カップにお茶を注ぐ。
オリヴィエは添えてあるミルクを足して、ミルクティーにした。
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